[編集] 自動連結器の種類
日本における自動連結器は、さらに下記のように細分化される。
[編集] 並形自動連結器
1925年7月の一斉交換以降から現在まで、機関車・一般型客車・貨車などで広く使用されている。単に「自動連結器」という場合、並形自動連結器を指す場合が多い。
連結された状態で数cm程度の遊間(遊び)が生じるため、発車時および停止時に衝撃が発生する弱点がある。客車列車に乗ったとき、時々感じる衝撃はこの特性によるものである。
機関車の機関士は、起動時にこれを逆に利用する。列車の停車時に各客車・貨車間の連結器遊間を空けた状態にしておくと、発車時には前方から徐々に遊間が詰まり、機関車は客貨車を1両づつ引き出していく状態となる。起動時の負荷が分散するため、重い列車を引き出す際には好都合である。
連結器の連結面同士の食い違いは、垂直方向についてはある程度のずれを許容するようになっている。このため連結面にはグリースを塗布しておく必要がある。連結器の車体取付部にある緩衝器は、横方向のずれのみを吸収する。
日本への導入当初は、アメリカ製のシャロン式やアライアンス式の自動連結器が用いられたが、その後、鉄道省技師の坂田栄吉が開発した坂田式が採用された。さらに1920年代後半には同じく鉄道省技師の柴田兵衛が開発した柴田式も出現し、その後の日本における標準型となった。これらは相互に連結可能である。
国鉄電車には1920年代から一時使用されたが、加減速が頻繁な電車では遊間による衝撃・動揺の弊害が大きいため、1930年代に密着連結器に取って代わられた。大手私鉄でも採用されたが、同じ理由でほとんどが小型密着自動連結器や密着連結器に移行している。大手私鉄から譲渡された旧型電車を使用している中小私鉄などでは、現在でも並形自動連結器を使用している会社がある。一方、国鉄151系電車や首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス線の車両のように、固定編成両端(先頭車)の連結器はあくまでも非常時の救援目的のみに使用するという前提で、開業当初から並形自動連結器を採用している例も一部に存在する。
[編集] 密着自動連結器
連結器の形状を改良して精密な機械加工を施したものである。連結時の遊間をなくしているため、発車時の衝撃が緩和される。とはいえ、ねじ式連結器や密着連結器、緩衝器付き自動連結器などと比べると衝撃は大きい。「密着自連」(みっちゃくじれん)と略される。
14系・24系などの固定編成を組む客車や、1976年に登場した50系客車では、乗り心地を重視したためこの連結器を採用している。ツメ部分先端が尖っており、このツメ部分を受け止めるガイド枠がナックルピンの横にあって、並形自動連結器との外観上の大きな差異となっている。この構造により、結合された連結器同士が上下方向にずれる事を防止している。垂直方向のずれは、車体側緩衝器を垂直のずれにも対応させて吸収している。
並形自動連結器とも連結可能である。
- 密着自動連結器は、かつて高速貨物列車に用いられていたEF65形(F形)・EF66形などの電気機関車や10000系貨車にも採用されている。10000系貨車は電磁指令式自動空気ブレーキ(CLE)を採用していたが、そのブレーキホース接続作業を省力化する目的で特殊な密着自動連結器が使用された(現在は10000系貨車廃止により機関車の空気管は撤去)。
右の写真はEF65形(F形)に装備されていた連結器である。連結器を正面から見ると、ブレーキ用配管を接続するための空気管が四隅に配置されている事が確認できる。
[編集] 小型密着自動連結器
気動車の標準的な連結器で、日本鋼管の手で開発され、同社の型番ではNCB-IIと呼称される。
1953年の京阪電鉄1700系第3次車および国鉄キハ10系以降、一般的に使用されている。また密着連結器を採用していない一部の私鉄(例:東京急行電鉄・京成電鉄・相模鉄道・名古屋鉄道・京阪電鉄等)などでも使用されている。
採用の背景として、いずれも本来なら密着連結器の方が適する用途であるが、従来保有する在来型車両等で自動連結器が多数使われ、それらとの相互連結を配慮した結果の策という一面がある。
機能・構造は密着自動連結器と同一だが、電車・気動車のような動力分散方式の鉄道車両では、連結器に大きな牽引力が掛かることがほとんどないため、連結器の肉厚を薄くして軽量化され、全体的に小型になっている。
[編集] 簡易式連結器
厳密には自動連結器の範疇から外れるが、自動連結器との併用を目的として気動車用として開発された、簡易式連結器が過去に存在した。
これはエンジン出力の貧弱さから可能な限りの自重軽減を求められた気動車用として日本車輌製造が開発したもの(※1)で、通常の並形自動連結器が1両分で約0.5tの重量があったのに対し、170kg程度と1/3で済むという非力な当時の気動車には無視できない大きなメリットがあった。
- (※1)当時、日本の気動車メーカー各社はいずれもこの問題に取り組んでおり、ストレートに「連結器省略」として非常時のみ連結器を装着する、という方策を採ったメーカーも存在した。
この種の連結器は1928年頃から研究が進められていたことが当時の同社カタログなどから判明しており、1929年製造の小浜鉄道カハ1に装着された「緩衝連結器」以降、その開発と実用化が本格化し、緩衝機構などについて順次改良を重ねつつ同社製気動車の多くに装着して出荷され、遂には鉄道建設規定に適合するよう一部修正を加えたものが、鉄道省のキハ41000形、キハ40000形、それにキハ42000形の3形式に制式採用されるまでに至った。
この連結器はナックル部などの各部寸法を並形自動連結器と連結可能な範囲で可能な限り縮小し、かつ自動連結器の「自動」たるゆえんである自動ロック機構を省略し、落とし込み式のピンでナックルを固定することで軽量化を実現したものである。
つまり、開放には一々ピンの抜き差しを行う必要があり、この連結器を装着した車両同士の連結時には、あらかじめ一方のピンを抜いてナックルを開放状態にしておかねば破損する恐れがあった。しかも、その連結強度は低く破壊試験の結果25t前後が上限とされたため、鉄道省では気動車回送時について列車最後尾への連結を厳守するよう通達を出していた。
しかしながら、その欠点を考慮しても軽量化のメリットはあまりに大きく、後に「日車式連結器」と称するようになったこの連結器は、日車のみならず他の気動車メーカー各社にも多数採用され、戦前の日本における気動車用連結器の事実上の標準規格となった。
もっとも、日車自身は大型気動車への適用が困難なこの連結器に満足しておらず、続けて自動連結器の機能を維持したままでの軽量化に取り組み、1931年には開発者である水津長吉の名を冠した水津式自動連結器として軽量自動連結器を完成した。だが、それでもより軽量なこの連結器のメリットは捨てがたく、戦前期においては水津式開発後も継続採用されていた。
この簡易式連結器は戦後、気動車の大型化とDMH17系エンジンの普及でその歴史的役割を終えたが、軽便鉄道向けとして寸法を縮小したもの(加藤車輌製作所設計)を採用していた下津井電鉄では電車化した気動車に採用されていたこの連結器を電化後の新造車にも採用し続け、驚くべきことには同社最後の新造車となった2000系「メリーベル」(1988年竣工)にも在庫品流用でこの連結器が両先頭車に装着(※2)されていた。
- (※2)各車間は棒連結器で連結されていた。
つまり、日本の鉄道で営業運転に実用目的で使用された最後の簡易式連結器は、ねじ式連結器の場合と同様、この下津井電鉄のものであった。
[編集] 密着連結器
JRの電車や多くの私鉄電車で使用されている連結器。密着自動連結器と名前が似ているが、全くの別物である。略して密連(みつれん)と呼ぶこともある。JRなどで使用されているものは、正式には柴田式密着連結器と呼び、ロック機構の特徴から「回り子式密着連結器」とも呼ばれる。開発者は柴田衛(柴田兵衛の実弟)である。
密着連結器には他にトムリンソン式、バンドン式、それにウェスティングハウス式などいくつかの種類が存在するが、日本国内では使用されている密着連結器のほとんどが柴田式であるため、単に密着連結器と言えば柴田式を指す場合が多い。
ブレーキ動作に必要な空気管も同時に接続されるのが特徴である。日本には1920年代にまず私鉄電車に輸入品が導入され、1930年代には国鉄電車でも柴田式が開発されて自動連結器からの交換が行われ、標準となった。
自動連結器同様、連結は相互の接触のみで行われ、解放も解放レバーを動かすだけで可能である。構造は自動連結器より複雑で、牽引力など強度の面では自動式に劣るが、遊間が皆無な文字通りの「密着」構造であるため、遊間に起因する衝撃は生じない。電車など加減速の頻繁な旅客車両に適している。また、この「密着」構造とゴムパッキンを組み合わせることで気密性が確保され、ブレーキ用の各種空気管接続が可能となっている。
また、遊間がないため曲線および勾配の通過に支障が無いように、取り付け部分に上下左右に可動する自在継手が使用されているのも特徴の一つである。
柴田式の場合、連結器正面より見ると正方形の穴と箱形の突起がある形をしており、通常空気管は必要な管種が最も多いHSC電磁直通ブレーキ搭載車の場合、上中央(ブレーキ(BP)管)、上左右(直通(SAP)管)、下中央(元空気溜(MP)管)の3系統が引き通されている。その他のブレーキ方式では必要に応じていずれかの管が省略される場合があり、例えば電気指令式ブレーキ搭載車でHSCブレーキ搭載車との併結を考慮しない場合には、下中央のMP管のみが実装されることになる。
1990年代以降は、外側の枠部分が削られて小型化された密着連結器が多くなってきている。
この手法は1960年代に大阪市交通局が50系を開発する際に、走行する列車を停止した車両に対して衝突させて衝撃による連結器の破損状況を確認する、といういささか乱暴な手法を繰り返して限界強度を確認し、不要な部分の削除による軽量化に取り組んだことに端を発しているが、通常連結開放を要しない車両間への棒連結器等の採用が先行したことと、大阪市の採用している密着連結器が柴田式ではなくやや特殊な形状のものであるため、他社ではその実験結果をそのまま援用できなかったことから普及が遅れた。しかしながら、1980年代以降の解析技術の飛躍的な発達により、上記のように乱暴な手法を用いて検証せずとも連結器の軽量化設計が可能となったことなどから、現在では広く一般化している。
国鉄においては専ら電車用であったが、国鉄民営化後は、気動車・客車にも採用例が出現している。主な理由としては、電気連結器との併用による連結作業の省力化が挙げられるが、国鉄時代の過度の標準化政策を脱し、在来車両との併結をいっさい想定しない設計を行ったことで、自動連結器を排して密着連結器を採用することが可能となったのである。
[編集] 連結・解放のしくみ
- 連結器内部には円筒を縦に切ったような形の回り子があり、これに接続された解放レバーが連結器正面から見て左側に取り付けられている。概念図(下の左図)の赤色部分が回り子と解放レバーに当たる。スプリングにより常に矢印の方向に押しつけられており、概念図の位置が回り子と解放レバーの定位置である。
- 勘合時にはお互いの回り子が押し込まれるため、自動連結器のような錠控え位置にする必要はない。
- 勘合後にはお互いの回り子により円筒形が形成され、相手方の連結器内部に入り込むように回転してロックするため連結状態となる。
- 切り離し時は、どちらか片方の解放レバーを操作する事によりロックが解除されて切り離し可能となる。
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切り離し時は解放レバーを引いた状態を保持する必要がある。作業員が解放状態を保持しても切り離しが可能であるが、連結器正面右側にある掛け金を相手側の解放レバーに引っ掛ける事によっても解放状態を保持する事ができる。掛け金は切り離し時に自動的に解除される。
自動解結装置を装備した車両には解放レバーにエアシリンダーが組み込んであり、運転室内の列車解結操作スイッチによってエアシリンダーを制御できるため遠隔解放操作が可能である。
[編集] その他の密着連結器
日本国内において柴田式以外の密着連結器としては、以下のような連結器がある。
[編集] トムリンソン式密着連結器
米国トムリンソン社が開発した密着連結器。日本国内では、東京メトロ銀座線・東京メトロ丸ノ内線・西日本鉄道(宮地岳線を除く)・銚子電気鉄道デハ1001/デハ1002などで採用されている。
柴田式密着連結器よりも小型で、連結面の四隅の位置決めポスト(向かって左上下が突起で右上下に穴)が特徴である。東京メトロで採用されているものは、連結面の上下にブレーキ用の空気管がある。
[編集] バンドン式密着連結器
米ヴァン・ドーン社が開発した密着連結器。日本国内にてこの連結器を採用している鉄道は、阪神電気鉄道のみである。柴田式よりも薄型で、ブレーキ用空気管が連結器内部(斜めに取り付け)に配置されている事が特徴である。尚、阪神電鉄の車両は連結器が特殊であるだけではなく、連結面高さも標準的な高さよりも約235mmほど低い(645mm)。
阪神電鉄は神戸高速鉄道を介して山陽電気鉄道(小型密着自動連結器を採用)と相互直通運転を行っているが、そのままでは車両故障などの救援時に支障が生じるため、非常時に備えて主要駅には重くて複雑な中間連結器(偏差アダプター)を配備しているほか、直通特急に使用される9300系・9000系・8000系・山陽5000系・5030系には編成あたり1両の床下に偏差アダプターを積載している。 (詳細はこちらを参照→阪神電車の連結器)
阪神電鉄で今後予定されている近畿日本鉄道との相互直通運転の際は中間連結器方式を採用するか、連結器を交換するか、両用連結器を採用するかは現在の所正式には発表されていないが、5001形5013号車を皮切りに、連結器が近鉄と同型のものに交換を開始されている。既存車両では5001形5013~5016、2000系2205~2206が交換済みとなっている。また、2006年より製作される1000系より近鉄と同様の連結器の採用を予定している。
なおバンドン式は1971年に製造が停止され、現在はストック品のみしか存在しない。日本工業規格(JIS)からも1994年の改訂時に削除された。
中間連結器を装着した車両2
(銚子電鉄デハ1002)
[編集] 中間連結器
電車の故障などで機関車による救援が必要である場合に、密着連結器(電車側)に取り付けるアダプター。これを装着すると自動連結器を装備する機関車と連結可能となるが、速度制限(70km/h)がある。ナックル部分は固定されているため、中間連結器同士や双頭連結器とは連結することはできない。
京浜急行電鉄の車両は密着連結器を採用しているが、小型密着自動連結器を採用している社局(東京都交通局・京成電鉄・北総鉄道)と相互直通運転を行っているため、非常時に備えて車両に中間連結器が搭載されている。
右上の写真は試験用ハイブリッド気動車「ne@train」(キヤE991)に、柴田式密着連結器用の中間連結器を装着した状態である。
右下の写真は銚子電鉄デハ1002に、トムリンソン式密着連結器用の中間連結器を装着した状態である。
また、前述のバンドン式密着連結器用の偏差アダプターや、後述の半永久連結器用アダプターについても、中間連結器の一種である。
[編集] 双頭型両用連結器
自動連結器と密着連結器の双方と連結する場合がある車両に装備される。必要に応じ連結器頭部を約90度回転させることで、使い分けることが可能である。
自動連結器側のナックル部分は固定されているため、他の双頭連結器や中間連結器の自動連結器側同士とは連結することができない。また、密着連結器側の解放レバーは通常取り付けられていないため、解放時は相手側の解放レバーを操作するか、脱着式の解放レバーを取り付けて操作する必要がある。
この形式の連結器を装備していた機関車としてもっとも著名な例はEF63形電気機関車である。1997年に廃止された信越本線横川駅~軽井沢駅間の補機として運用されていたが、密着連結器装備の電車との連結のため、坂上方の軽井沢駅側車端に、この連結器が装備されていた。
2006年6月現在、機関車では、新津車両製作所で製造された電車の配給列車運用を受け持つEF64形電気機関車1030/1031号機、青森車両センターと郡山総合車両センター間の電車回送運用を受け持つEF81形電気機関車136/139号機に装備されている。
また、気動車としては「オランダ村特急」として485系電車特急「有明」との協調運転が行われていたキハ183系1000番台車の先頭部に装備されている。当該車両は2006年現在「ゆふDX」として運用されており、電車との連結運転を行っていないが、連結器はこの形式のままである。
そのほか、軌道検測車(マヤ34形客車)、総合検測車(クモヤ443系電車)、牽引車(クモヤ143形50番台)などにも装備されているが、いずれも一般営業用ではない業務用の特殊車両である。
[編集] 棒連結器(永久連結器)・半永久連結器
共に、動力車(2両1ユニット式の電車、2車体永久連結式の電気機関車等)の組み合わせなど、固定編成を組む車両を最小の単位で組成する場合、車両基地での整備等で組み合わせを解除しないことを前提に使用される連結器。
棒連結器は連結器自体を外さないと編成を分割する事ができないが、半永久連結器は互いを締結しているボルト・ナットを外す事により編成を分割する事が可能である。
車両基地では車両単位での移動を容易に行うため、半永久連結器に右のようなアダプターを取り付ける事がある。
ピン・リンク式連結器
黒部峡谷鉄道
EDR形電気機関車
[編集] ピン・リンク式連結器
主に軽便鉄道や産業鉄道で用いられた簡易型の連結器で、鎖やロープなどを除けばもっとも簡素な連結器である。その形状から、俗に朝顔型連結器とも言われる。
連結器の先端に四角または楕円形の受け板があり、中心に穴が空いている。この穴に連結器同士を結合するリンクを差し込み、受け板直後にピンを入れて連結器に固定する。リンクが固定式の場合は連結方向が限られる。
構造は非常に簡単だが、連結時にピン挿入の手間が掛かり、また強度が低いのでごく簡易な用途にしか使用できない。
21世紀初頭の時点では、軽便鉄道そのものが日本からほとんど消滅したため、営業路線でこのタイプの連結器が現存するのは黒部峡谷鉄道のみである(近畿日本鉄道特殊狭軌線(およびそれを継承した三岐鉄道北勢線)でも使用されていたが、現在は自動連結器化されている)。
[編集] 付帯設備
[編集] 電気連結器
鉄道車両には上記で記載している機械的な連結器とは別に、車両同士の電気的結合を目的とした電気連結器が使用されている場合が多い。多くは連結器直下(新幹線は直上)に取り付けられており、連結されていない状態では電極保護のためカバーが掛かっている。連結時にはお互いのカバーを開く棒が押し込まれて自動的に電極が接触する。
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