布石
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
布石(ふせき)は囲碁で序盤戦の打ち方を指す言葉。
これからどういう構想を持って打ち進めていくかを表すいわば土台作りの段階であり、盤上での双方のおおよその石の配置を定めていく。死活が直接絡むような相手の石との接近戦は布石とは呼ばないが、布石の段階を経ずに戦いに突入する場合もある。将棋で駒がぶつかり合う前の状態と似ている。
目次 |
[編集] 布石の歴史
室町時代までは、盤上に隅の星の位置に白黒の石を2子ずつ置いてから対局を始める事前置石制(互先置石制)が主流であったため、現代風の布石の概念は無く、最初から戦いが始まるのが一般的だった。室町後期から盤上に何もない状態から対局が開始される自由布石が広まり、布石と呼ばれる段階が発生した。本因坊算砂などの時代にはこの対局方法が広まり、隅への着点も小目、高目、目外しなどが主流となる。江戸時代になると家元制の下で、「一に空き隅、二にシマリかカカリ、三に辺」の布石理論が固まっていった。本因坊道策は全局的な視点と手割論による合理的な布石法を生み出し、その後の布石の進歩に大きく貢献した。江戸末期の本因坊秀和、本因坊秀策らの時代にこの布石法は頂点に達し、秀策流の名も残っている。
江戸中期の7世安井仙知の中央重視の布石や、明治期の本因坊秀栄のスピードを重視した星打ちなど、新しい考え方も少しずつ広がり、昭和初期に木谷実と呉清源らが新布石を発表し、まったく新しい考え方として大流行を起こした。新布石はそれまでの小目中心の布石から星、三々を中心にすえたスピード感あふれる布石であり、また旧来の考え方からは想像も出来ない初手天元や五の五などの大胆な発想で一世を風靡し、囲碁界のみならず一般社会も巻き込んで一大センセーションを巻き起こした。
その後、新布石はそれ以前の旧布石と融合し、現代の布石に至った。また現代においてはコミの導入の影響により、黒番ではより攻撃的な布石が目指され、三連星や中国流などシステム化された布石も数多く生まれている。
中国では清代(明治期)に日本の自由布石が伝わり、事前置石制から移行した。韓国では巡将碁と呼ばれる事前に16子を置く事前置石制が主流だったが、戦後に日本で修行した趙南哲が自由布石法を広めた。両国とも1980年代には棋力のレベルも日本と肩を並べ、それぞれ独自の布石研究も進んだ。
[編集] 布石の型と流行
布石にも時代により流行り廃りがある。研究が進んだことによって不利となり、省みられなくなる布石もあるが、時の第一人者の棋風に影響される面も大きい。
[編集] 本法の布石
江戸期までの布石の型。小目中心の布石で、交互に空き隅の小目を占め、続いてそれぞれの小目のシマリを打つ型を言う。これを基本型として、シマリの代わりにカカリ、空き隅の代わりにカカリ、空き隅の占め方を小目の代わりに高目、目外しを選ぶといったバリエーションが生じる。そこから隅を中心とした戦いに移行していく。
┏┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┓ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼○┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼●┼┼┼┨ ┠┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋●┼┨ ┠┼○┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼○┼┨ ┠┼●╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┨ ┠┼┼┼●┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼○┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┗┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┛
本法の布石
[編集] 秀策流
江戸末期に本因坊秀策が先番必勝の布石として愛用したことで知られる。先番(黒)が隅の小目を占め、後手(白)が空き隅の代わりに黒の小目へのケイマのカカリ(目外しの位置)に打った場合、黒は小目から4線へのコスミを打つ型を言う。このコスミを「秀策のコスミ」とも言い、隅を強い形にし、そこを基点にした辺への展開と白石への攻めの二通りの狙いを持つことが出来るのが特長で、明治以降にもこの考え方が多用された。ただしコミの導入された現代では、黒の布石としてはややぬるいという考え方が生まれ、黒番ではより攻撃的な手法が考案されるとともに、秀策のコスミ自体はむしろ白番の手法として見直されている。
┏┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┓ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼○┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼○┼┼┼┨ ┠┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋●┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼★┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼○┼┨ ┠┼●╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼●┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┗┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┛
秀策流(★が秀策のコスミ)
┏┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┓ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼○┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼╋☆┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋●┼┨ ┠┼●┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼●╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼○┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┗┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┛
現代における白番の秀策流(☆が秀策のコスミ)
[編集] 新布石
中央への勢力と、隅は星、三々を占めることによるスピードを重視した布石。(新布石の項参照) 木谷らはその後旧布石に戻ったが、呉や高川格など星打ちを中心にした布石を続けた者も多い。特に黒番での二連星と一間高ガカリの組み合わせは呉が十番碁などで用いて、他の棋士も多用したため、「秀策の一、三、五」になぞらえて「昭和の一、三、五」と呼ばれた。
┏┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┓ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼○┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼●┼┼┨ ┠┼┼●┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼●┼┼┨ ┠┼┼○┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┗┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┛
昭和の一、三、五の布石
[編集] 現代の布石
昭和になって坂田栄男や石田芳夫らによって三々打ちが流行したが、位の高い攻撃的な布石が人気を集めるにつれて三々は徐々に少なくなった。1970年代からは武宮正樹の中央志向の布石・宇宙流が人気を集め、二連星、三連星などの簡明な布石がプロアマ問わず流行した。同様に中国流、小林光一の多用した小林流などが登場し、現代でも多く打たれている。
90年代以降韓国囲碁界が隆盛を迎え、一つの布石を多数のプロが集中的に打って徹底的に研究し尽くすスタイルが出来上がった。この中でミニ中国流などが必勝布石として数多く打たれたが、近年では序盤から布石らしい布石のないまま乱戦が始まることが多くなっている。
現代では日中韓とも厚み、勢力よりも地に辛く打つスタイルが主流になりつつあるが、高尾紳路など厚み派に分類される棋士も活躍しており、研究が進んだとはいえ「これがベスト」といえるような布石はまだ存在しないのが現状である。
┏┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┓ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼○┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼●┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼●┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼○┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼●┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┗┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┛
黒の三連星と白の二連星
┏┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┓ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼○┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼●┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼A★┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼○╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┨ ┠┼┼┼○┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼●┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┗┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┛
黒の中国流布石(黒★を一路左のAに打つと「高中国流」)
┏┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┓ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼●┼┼┼┼●┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼○┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋●┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼○┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼●┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼○┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼╋┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼╋○┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼●┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼○┼┼┼┼┼╋┼┼┼┼┼●┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┠┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┨ ┗┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┷┛
ミニ中国流の代表的な型(上辺の黒が、小目のシマリを省いて、大模様を目指している)