行政手続法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
通称・略称 | 行手法 |
---|---|
法令番号 | 平成5年法律第88号 |
効力 | 現行法 |
種類 | 行政法 |
主な内容 | 行政手続の一般法 |
関連法令 | 行政事件訴訟法、行政不服審査法、行政機関の保有する情報の公開に関する法律 |
条文リンク | 総務省法令データ提供システム |
行政手続法(ぎょうせいてつづきほう 、1993年(平成5年)11月12日法律第88号)は日本の法律の一つであり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることを目的として(第1条第1項)、行政上の手続についての一般法(第1条第2項)として制定された。
目次 |
[編集] 制定までの経緯
行政権の統制について、手続が適正であれば結果も適正であるとして、その手続を重視するという思想は特に英米法において古くからみられるものである。アメリカ合衆国の1946年の連邦行政手続法は、その思想の表れであるといえる。それに対して、いわゆる大陸法では、行政権に対応する司法権の審査にあたって手続よりも実体法との適合性を問題とする統制手法を伝統的に重視してきた。そのような歴史のなかで、1976年に当時の西ドイツにおいて行政手続法が制定され、これによって手続法重視の流れは世界的なものになった。
日本では、土地収用法や都市再開発法といった個別の法律に、行政処分に先立って一定の手続をふむべき旨の規定が置かれることはあったが、行政の行為一般に適用される統一的な手続法規は存在しなかった。
- 1964年(昭和39年)の第1次臨時行政調査会の報告で統一的な行政手続法制定の必要性が指摘され、行政手続法草案まで示された。しかし、その後行政手続法制定の動きは浮いては沈みの状態で、その後に統一的な行政手続法制定の動きが具体化してきたのは昭和50年代後半になってからである。
- 1981年(昭和56年)に設置された第2次臨時行政調査会においても行政手続法制の整備の必要性が指摘さた。
- 1985年(昭和60年)に第2次行政手続法研究会が開催される。
- 1989年(平成元年)に「行政手続法研究会(第2次)中間報告」として取りまとめられた。
- 1990年(平成2年)に発足した第3次行革審に対し内閣総理大臣より「我が国の行政手続の内外透明性の向上、公正の確保等を図るための法制の統一的な整備」に関する諮問がなされ、その結果1991年(平成3年)に「公正・透明な行政手続法制の整備に関する答申」が提出された。
- 1993年(平成5年)行政手続法が制定。
- 1994年(平成6年)施行。
行政手続法の制定はこのように難産であったし、行政手続法制の整備を求める日本国外からの要求(外圧)の影響も大きかった。 ところで、事後の救済制度である行政不服審査法は1962年に制定された。広義における事前の救済制度の一つとして行政手続法が制定されたのは、それから約30年後であるから、日本における行政救済の制度はいかに事後救済に偏重していたことがわかる。
[編集] 行政手続法の憲法上の根拠
行政手続法の制定は憲法上の要請であるという見解においては、憲法上の根拠について、次の3つの考え方がある。
- 日本国憲法第31条(法定手続の保障)に根拠を求める考え方。
- 日本国憲法第13条(個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利の尊重)に根拠を求める考え方。
- 特定の条文によらず、日本国憲法における法治国家の原理・理念に根拠を求める考え方。
[編集] 概要
[編集] 第1章 総則(目的・定義など)
申請に対する処分や不利益処分の手続を明確に定めることによって、不当な処分がなされることを事前に回避するという意味において、事前の救済制度としての機能を持つところにその特徴がある。また、日本独特の行政の運営手法の一つといわれる行政指導について、その適正な運営のための規定が置かれていることも特徴的である。
- 第1条(目的等)
- 処分、行政指導及び届出に関する手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであること)の向上を図ること。
- 上記目的の達成により国民の権利利益の保護に資すること。
- 第2条(定義)
- 第3条(適用除外)
- この法律施行前に既にこれに相当する手続が定められている個別の法令に基づく各種行政処分を、この法律の適用対象外として規定。ただし、この法律全ての条項が対象外とされるわけではない(たとえば、公正の確保と透明性の向上を謳う第1条を含む第1章は適用されており、適用外対象の行政庁に対しても第1条の趣旨を尊重することが求められている)。
- 第4条(国の機関等に対する処分等の適用除外)
[編集] 第2章 申請に対する処分
- 第5条(審査基準)
- 第6条(標準処理期間)
- 行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(標準処理期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、公にしておかなければならない。
- 不適法な申請を補正する期間は、含まれない。
- 第7条(申請に対する審査、応答)
- 行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならない。また、行政庁は、法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(申請者)に対し申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。
- 第8条(理由の提示)
- 行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない(第1項)。
- 拒否処分を書面でするときは、その理由は、書面により示さなければならない(第2項)。
- 第9条(情報の提供)
- 第10条(公聴会の開催等)
[編集] 第3章 不利益処分
行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分のこと(第2条)。
- 第12条(処分の基準)
- 行政庁は、不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準(処分基準)をできる限り具体的に定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。
- 第13条(不利益処分をしようとする場合の手続)
- 行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、不利益処分の名あて人となるべき者について、許認可等を取り消すなどの不利益処分をしようとするとき等には聴聞、その他の不利益処分をしようとするときは弁明の機会の付与を、意見陳述のための手続として執らなければならない。
- 第14条(不利益処分の理由の提示)
[編集] 第2節 聴聞
- 聴聞
- 許認可の取消
- 資格、地位の剥奪
- 法人の役員の解任、除名。
- 行政庁が相当と認めるとき。
- 第15条(聴聞の通知の方式)
- 第16条(代理人)
- 第17条(参加人)
- 第18条(文書等の閲覧)
- 第19条(聴聞の主宰)
- 第20条(聴聞の期日における審理の方式)
- 口頭による主張・立証
- 当事者又は参加人は、聴聞の期日に出頭して、意見を述べ、及び証拠書類等を提出し、並びに主宰者の許可を得て行政庁の職員に対し質問を発することができる(第2項)。
- 当事者又は参加人は、主宰者の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる(第3項)。
- 聴聞の原則非公開
- 聴聞の期日における審理は、行政庁が公開することを相当と認めるときを除き、公開しない(第6項)。
- 口頭による主張・立証
- 第24条(聴聞調書及び報告書)
[編集] 第3節 弁明の機会の付与
- 第29条(弁明の機会の付与の方式)
- 弁明は、行政庁が口頭ですることを認めたときを除き、弁明を記載した書面(弁明書)を提出してするものとされ、このときは、証拠書類等を提出することができる。
- 第30条(弁明の機会の付与の通知の方式)
- 第31条(聴聞に関する手続の準用)
- 第15条(聴聞の通知の方式)3項
- 第16条(代理人)
[編集] 第4章 行政指導
- 第32条(行政指導の一般原則)
- 行政指導は、その行政指導をする行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないし(第32条第1項前段)、行政指導の内容は相手方の任意の協力によってのみ実現される(同項後段)。行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない(同条第2項)。
- 行政手続法は、このように当然の事理を明らかにしているが、このような規定を置いたことの背景には、同法制定以前には行政機関が「行政指導」の名の下に事業者に業務に過剰に干渉し、業界の「横並び体質」を温存する一因となっていたとの理解がある。
[編集] 第5章 届出
- 届出は、法令に定められた形式的要件に適合する届出が法令により提出先とされている機関の事務所に到達したときに手続上の義務が履行されたものと取り扱われる(第37条)。
- これも、「届出」の意味から明らかであるが、行政手続法がこのような規定を置いたことの背景には、同法制定以前には行政機関が自らの意向に従わない事業者の届出を「不受理」や「保留」と称して届出があったものと取り扱わないこと(届出受理の不作為)がしばしばみられ、「行政指導」の名の下に法令上その権限が与えられていないはずの規制を行政庁が事実上行ってきたとの理解がある。
[編集] 第6章 意見公募手続等
- 第38条(命令等を定める場合の一般原則)
- 第39条(意見公募手続)
- 第40条(意見公募手続の特例)
- 第41条(意見公募手続の周知等)
- 第42条(提出意見の考慮)
- 第43条(結果の公示等)
- 第44条(準用)
- 第45条(公示の方法)
[編集] 第7章 補則(地方公共団体の措置)
地方公共団体は、第38条で「この法律の規定の趣旨にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない」とされており、地方自治法における自治事務等この法律の適用除外となっている行為(その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているもの)について(第3条第2項)、この規定にならって、行政手続条例を制定しているところが多数を占める。
[編集] 行政手続法の行政法上の位置
行政法上の類型に関する分類における行政手続法の位置について、次のような見解がある。
- 行政手続法は純粋な行政作用法に含まれるとはいえず、行政救済法にも行政手続法は含まれない。
- 行政手続法は、それ自体が一つの基本類型である。
- 行政救済法とは、広い意味において行政運営によって国民に生じた何らかの不利益や権利利益の救済を図るものである。その救済には、事前・事後を総合的に捉える視覚が重要である。そして行政手続法は、なされる行政行為を基準とすれば事前的な段階における行政手続について、公正・透明性を保障することで国民の権利利益の保護を図ることを目的としている。従って、行政手続法は事前の救済を目的とした「広義における行政救済法」の一つであるということができる。
[編集] 重要な原則
- 審査開始義務の原則
- 理由提示の原則
- 明確化原則
[編集] 参考文献
- 兼子仁『行政手続法』(岩波新書、1994年)
[編集] 関連事項
カテゴリ: 書きかけの節のある項目 | 行政法 | 日本の法律 | 日本の行政