瑞祥地名

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瑞祥地名（ずいしょうちめい）とは、めでたい意味の言葉をそのまま地名にしたり、良い意味の言葉から地名を創作したりするものである。

[編集] 歴史

古代の日本には文字がなかったため、日本語（和語）を表記するために漢字の音を利用した万葉仮名が生み出された。初期の万葉仮名は音を利用するのみであったが、次第にその漢字の意味を付加して漢語と和語の掛詞（同音異義）のようにもつかわれ、最終的に訓読み（異音同義）もつくられるに至る。万葉仮名における漢字の同音異義性と異音同義性は、人により時期により、同じ土地であっても任意の同音で異なる漢字を用いて地名表記が出来ることを意味し、文書化する際にかえって混乱を招くことになった。

大化の改新後、日本において初めて中央集権体制（律令体制）が確立すると、全国的な戸籍の編纂などの統治体制の整備がされるようになった。戸籍の記載には、万葉仮名を用いた不確定でバラバラな住所記載は不適切であったため、713（和銅6）年に「諸国の郡郷名は好字（よきじ）で著せ」との通達が下り、全国の地名は全て瑞祥地名に統一され、地名記載の確定がなされた。

律令体制（戸籍制度）が崩れた後は、時代時代で土地の有力者や為政者などにより任意に地名表記は替えられ、また、教育が庶民にまで行き届いていなかったために、誤表記が一般化することも多かった。

江戸幕府によって幕藩体制が成立し、政治の安定化と各地の大名居住地の固定化が進むと、江戸時代初期を通じて土木建築ブームが起きた。それは、城下町建設ブームと新田開発ブームで構成されたが、城下町には各地の藩主の自己の由来に関わる漢字や瑞祥地名が付けられた一方、新田にはあまり瑞祥地名が用いられずに画一的な命名となった。

明治維新後、近代国家として、明治政府による中央集権体制（主権）の確立、国土（領土）の確定、国民の確定が行われた。主権確立において廃藩置県を実施し、地域によっては瑞祥地名が用いられた。また、ロシア・中国などとの間で国境線が確定すると、北海道において、アイヌ語をベースとした瑞祥地名が大量に導入され、日本・中国の二重支配を廃止（琉球処分）した沖縄も地名が固定化された。また、武士階級が秩禄処分等で困窮したため、「士族授産」のために日本各地に開墾地を設けたり、北海道に屯田兵村を設けたりし、場合によっては瑞祥地名が用いられた。なお、集団移住地では、その士族集団の出身藩や出身地の地名が用いられることもあった（例:現在の北広島市、札幌市白石区、伊達市など）。国民の確定では、国民に苗字を名乗らせ（瑞祥苗字?）、戸籍編纂（住所記載の確定）、普通教育の開始、漢字の統一を行った。

明治時代に近代国家体制が徐々に出来上がると、地方自治も進んで、地名の制定は地方自治体の裁量に委ねられることが増えた。人口増・産業発展・都市の広域化などで市町村同士が合併することも増え、新規に市町村名を制定する場合などに瑞祥地名が用いられる場合も見られるようになった。市町村制度制定（1889年）、昭和の大合併の影響を受けた市町村合併が繰り返されるにつれ、数々の瑞祥地名の市町村名が生まれた。

高度経済成長以降、マイホームブームが起こると、ディベロッパーが地名を「商品名」として捉えるようになり、開発地の総称に「商品名」を、地区名に瑞祥地名をつけたり（例:商品名＝ポートアイランド、地区名＝港島）、場合によっては「商品名」をそのまま地区名としたりするようになった。その他、商店街の名前、マンション・アパートなどの名前、公的な建造物の名前まで漢字に限らず英語・フランス語・ドイツ語などで瑞祥化することも一般化し、住所の記載には各国語が入り乱れる状況となっている。

このように、全ての地名は瑞祥地名であるとも言えるが、平成の大合併においては市町村名にまで「商品名」のような瑞祥地名が用いられるようになり、「和」「美」「栄」などの文字を使った地名など、その土地の歴史を反映していないものが多くなっているため、地名研究家などから「安易である」「日本全国どこでもその地名をつける事ができる」などといった批判も多い。反面、個々の地名はある程度限られた地点の名称であるため、合併でより広域となった地域を総称するにふさわしい名称がないだけに理解を示す向きもある。

[編集] 瑞祥地名の例

以下、主に明治以後の瑞祥地名を記載する。瑞祥地名には、命名前のその土地の音に、良い意味の漢字を当てはめた「当て字型」、良い意味の「普通名詞型」（具体的・抽象的）、他地域で良い意味として確立している「固有名詞の盗用型」などがある。

[編集] 自治体名

[編集] 北海道･東北

[編集] 中国･四国

[編集] 九州

[編集] 地区名

舞浜（千葉県浦安市）
若葉台（東京都稲城市・神奈川県横浜市旭区）
桜ヶ丘（東京都多摩市を始め全国各地に）
緑ヶ丘（東京都目黒区を始め全国各地に）
平和島（東京都大田区）
青葉台（神奈川県横浜市青葉区を始め全国各地に）
あざみ野（神奈川県横浜市青葉区）
美しが丘（神奈川県横浜市青葉区）
さつき台（神奈川県横浜市青葉区）
はるひ野（神奈川県川崎市麻生区）
友が丘（兵庫県神戸市須磨区）
自由が丘（東京都目黒区を始め全国各地に）
光が丘（東京都練馬区・石川県金沢市を始め全国各地に）

[編集] かつて自治体名として使用されていた瑞祥地名

宮城県登米郡東和町（現・登米市）
秋田県河辺郡雄和町（現・秋田市）
秋田県仙北郡協和町（現・大仙市）
福島県安達郡東和町（現・二本松市）
茨城県真壁郡大和村（現・桜川市）
茨城県真壁郡明野町（現・筑西市）
茨城県真壁郡協和町（現・筑西市）
茨城県猿島郡総和町（現・古河市）
茨城県猿島郡三和町（現・古河市）
茨城県東茨城郡美野里町（現・小美玉市）
茨城県鹿島郡大洋村（現・鉾田市）
茨城県那珂郡美和村（現・常陸大宮市）
埼玉県北葛飾郡庄和町（現・春日部市）
千葉県安房郡三芳村（現・南房総市）
千葉県匝瑳郡光町（現・横芝光町）
新潟県豊栄市（現・新潟市）
新潟県南魚沼郡大和町（現・南魚沼市）
新潟県南蒲原郡栄町（現：三条市）
山梨県東山梨郡大和村（現・甲州市）
山梨県西八代郡三珠町（現・市川三郷町）
山梨県東八代郡豊富村（現・中央市）
山梨県中巨摩郡若草町（現・南アルプス市）
山梨県北巨摩郡双葉町（現・甲斐市）
山梨県北巨摩郡明野村（現・北杜市）
愛知県中島郡平和町（現・稲沢市）
三重県安芸郡美里村（現・津市）
三重県久居市（現・津市）※江戸時代の瑞祥地名由来
和歌山県海草郡美里町（現・紀美野町）
京都府船井郡瑞穂町（現・京丹波町）
京都府天田郡三和町（現・福知山市）
島根県邑智郡瑞穂町（現・邑南町）
島根県邑智郡大和村（現・美郷町）
広島県神石郡三和町（現・神石高原町）
広島県双三郡三和町（現・三次市）
広島県賀茂郡豊栄町（現・東広島市）
山口県新南陽市（現・周南市）
山口県熊毛郡大和町（現・光市）
山口県玖珂郡美和町（現・岩国市）
山口県阿武郡むつみ村（現・萩市）
徳島県麻植郡美郷村（現・吉野川市）
長崎県南高来郡瑞穂町（現・雲仙市）
鹿児島県曽於郡輝北町（現・鹿屋市）
鹿児島県大島郡住用村（現・奄美市）
沖縄県中頭郡美里村（現・沖縄市）

[編集] 大韓民国の瑞祥地名

韓国においても、金属の一種である金を使った金海市や金泉市、宝城郡や蔚珍郡、慶州市、慶山市のような美しい名前やめでたい名前の地名が存在する。

広域市では光州広域市が瑞祥地名。

757年（景徳王16年）に統一新羅の地名が中国風の地名になった当初は「城」などの漢字を用いた軍事的な地名が多かったが、高麗時代に慶州などのように「州」をつけた地名になり、李氏朝鮮時代に自然の名前を用いた瑞祥地名が作られた。

なお、北朝鮮でも金の漢字が含まれる地名がいくつか存在するが、黄海北道金川（クムチョン）郡を除きほとんどが人名由来である。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

横浜市都筑区（古い瑞祥地名の例）

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