ホンダマチック

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ホンダマチック(Hondamatic)とは、本田技研工業がかつて自社製品の自動変速機付車（オートマチックトランスミッション車）に使用していた名称である。同様な名称の例として、トヨグライド（トヨタ）、ニッサンマチック（日産）等が挙げられる。

[編集] 概要

ホンダマチックの特徴として、二軸もしくは三軸の平行軸歯車を用いていることが最大の特徴である。他社の自動変速機では、遊星歯車機構が用いられるが、ホンマチックではマニュアルトランスミッションの様に、二～三軸の平行軸と常時噛合歯車を用い、シンクロメッシュ機構として各変速段用の油圧湿式多板クラッチを用いて変速を行う。この構造は、現在のホンダ車にも踏襲されている。

ホンダマチックの機構の開発に関しては、次のような逸話が伝えられている。ホンダスポーツS500用の自動変速機を開発を依頼したボルグワーナー（BW）社から「S500のように、8000rpmもの高回転エンジンに適合する自動変速機は開発できない」との回答を受けた。これに対し、ホンダは世界各国の特許に抵触せず、またパテント料の支払いを必要としない自動変速機を自社開発した。事実、1968年（昭和43年）4月にN360に搭載されて市販されたホンダマチックは、各国の特許に一切抵触せず、特許訴訟は起こっていない。これはひとえに、創業者・本田宗一郎の「ホンダは真似事をしない」という信念に基づいたものであろう。

ホンダマチックにはフルオートマチックのものとセミオートマチックのものがあるが、セミオートマチックの時代の印象が強く、現在でも「ホンダマチックといえば☆レンジ式のセミオートマチック」だけだと思い込んでいる人が実に多い。

1960～70年代前半に用いられた、N360、ライフ（360cc）、Z（360cc）、1300、145の各シリーズに搭載されたホンダマチックは3速フルオートマチックである。P-R-N-D-3-2-1の7ポジションをもち、自動変速のDレンジと、各ギア固定の3、2、1レンジを持っていた。また、1300、145シリーズに搭載されたものでは、坂道発進時に後退防止機能を持ち、坂道発進を容易にしている。

1973年（昭和48年）5月、前年に発売されていたシビックに追加されたホンダマチック仕様車は、2速セミオートマチックである。P-R-N-☆-Lの5ポジションをもち、走行状況により、1速のLレンジと2速の☆（スター）レンジを手動で選択する。一見、3速フルオートマチックから2速セミオートマチックへと時代を遡り、退化するような錯覚に陥るが、このセミオートマチックの特徴として、ストールトルク比（トルクコンバータのトルク増大比）を通常の乗用車用トルクコンバータ式ATの1.5～2.5に対して、3と大きく取り、各段の速度守備範囲を広く取る事によって、変速段数の少ないデメリットを補い、また変速ショックのない、無段変速を実現した。ストールトルク比3の場合、例えば変速比1.000のギアであると理論上変速比は3.000～1.000の範囲で無段階に変速することとなる。Lレンジは手動変速機の2速相当、☆レンジは同じく4速相当程度の変速比であり、実際、2段の変速段を持つものの、発進から最高速までは、☆レンジだけで用が足り、Lレンジは基本的に極端に大きいトルクを要する、急坂発進や急加速、強力なエンジンブレーキを必要とする急坂の降坂を行う際にのみ使用する。ただし、カタログには「燃費と排出ガスレベルを最良に保つため、発進から40km/hまではLレンジを使用してください。」との注意書きが小さく書かれていた。また、トゥデイ・アクティへの適用では、軽自動車の絶対的低トルクに対応する為、☆レンジが手動変速機の3速程度と大幅にローギヤードで、エンジン許容回転数まで使用しても速度が65～70㎞/hにしか達せず、後述のODレンジへのシフトを要した。

このセミオートマチック時代は長らく続いた。この要因として、☆レンジの無段変速が一切の変速ショックが無く、実にスムーズであり、実用に十分な性能を有していたこと、自動変速機構を有しないため、価格が極めて安かったこと（車種及びベース車の手動変速機の変速段数によるが、わずか2～4万円程度のエクストラコストで2ペダルのイージードライブが得られた）等が挙げられる。大きな人気を博した結果、日本における自動変速機付車の普及にホンダマチックが大きな原動力となったのは間違いない。アコードが発売された1976年（昭和51年）において、アコードのホンダマチック車比率は25.2%であり、日本の乗用車のAT比率が数%であった時代背景を考慮すると驚異的な数字である。この比率はその後も著しく伸び、3年後の1979年（昭和54年）には49.8%と、実に半数のユーザーがホンダマチックを選択した。また、身体に障害をもつ方の社会進出にも大きな役割を果たしている。障害をもつ方向け運転補助装置、ホンダ・フランツシステム装備車は、ホンダマチック搭載車をベースに開発されている。

ホンダマチックは、ホンダが2輪メーカであることもあり、2輪車にも展開された。操作方法は左ハンドルグリップを回して走行レンジを切替える。当然クラッチレバーと変速ペダルは装備されない。搭載車種のCB750Aエアラ、CB400Tホークとも、ベース車種に対してエンジンのデチューンが行われ、低速型とされた。

ホンダマチックは、1979年（昭和54年）にODレンジ付（P-R-N-OD-☆-Lの、3速セミオートマチック）へと進化する。これは従来の2速に対し、オーバドライブレシオ（変速比が1.000未満）のODレンジを追加したものである。アコードを皮切りに、順次、車種ごとに切替えが進み、高速・巡航時の燃費向上と静粛性向上を図った。また、1983年（昭和58年）には、バラード・スポーツCR-Xの新発売、シビックのフルモデルチェンジ（ワンダー・シビック）に合わせ、トルコンスリップを制限する、ロックアップ機構付に進化（☆、ODレンジでロックアップ作動）した（ただし、後述の通り、インジェクションモデルは、ロックアップ機構付フルオートマチックである）。また当時のホンダ製乗用車は全てFF（フロントエンジン、フロントドライブモデル）であったが、アクティ用にMR（ミッドシップエンジン・リアドライブ）への展開、後にアクティ4WDへと、エンジン搭載位置、駆動方式によらず、広く展開していった。

1980年代に入ると、他社車種においてもオートマチックトランスミッションの採用が増え、時代は完全自動変速機（フルオートマチック）を求めはじめた。他社のオートマチック車の一部にはホンダマチックと同様に自動変速機構を持たないセミオートマチックの車種もあったが（ダイハツ・シャレードG10型、スズキ・アルトの2ストロークモデルなど）、これらも順次完全自動変速機へと置き換えが進んでいった。その結果、変速操作頻度は大幅に軽減されるものの、手動でシフトチェンジを行わなわなければならないホンダマチックは、時代遅れの感が否めなくなり、徐々にユーザーから敬遠されるようになる。長らく続いたセミオートマチック時代であったが、この市場の要求に対応すべく、ホンダは1982年（昭和57年）にアコード／ビガーの1800ccモデルに「ホンダマチック4速フルオート」を導入する。これは完全自動変速機、すなわちフルオートマチックトランスミッションであり、P-R-N-D-☆-Lの6ポジションを持つ。Dレンジは1～4速の自動変速、☆レンジは1～3速の自動変速、Lレンジは2速固定である。同じ「ホンダマチック」の名称を用いながら、「フルオート」を付け加えることにより、セミオートマチックと区別していた。フルオートは、その後ロックアップ機構付に進化、また1983年（昭和58年）にCR-X／シビックのPGM-FI（インジェクション）モデルに「ホンダマチック3速フルオート」を採用するなど、順次採用機種を増やしていく。結果セミオートマチックモデルは、1988年（昭和63年）のアクティ／ストリートのフルモデルチェンジをもって全て姿を消した。

全てフルオートマチック化された後も、しばらくホンダマチックの名称は使用されていたが、徐々に使用されなくなっていき、後に単にオートマチックと呼ばれるようになった。特徴的だった☆レンジも、フルオートマチックで1～3速の自動変速レンジとして残っていたが、1985年（昭和60年）のアコード／ビガーのフルモデルチェンジ、シビック／CR-Xのマイナーチェンジ、レジェンドの新規上市に伴い、現在のホンダ車に近いP-R-N-D4-D3-2の表示へと順次変更され、☆レンジの機構、表示とも姿を消していった。

今後は、1995年（平成7年）発売のシビック（ミラクル・シビック）以降、ホンダ車の多くに搭載されているCVT「ホンダマルチマチック」との混同の恐れがあり、ホンダマチックの名称は用いられる事はないであろう。