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特許

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

特許(とっきょ)は、次の二つの意味がある。

  1. 新技術の発明に関する発明者または特許出願人に対し、によって認められる一定期間の排他的独占権をいう。パテント(patent)。日本の特許法第68条では、「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する」と規定している。以下ではこの意味の「特許」について詳述する。
  2. 行政法において、行政が特定の者に対して、特別の権利や地位などを与える行為を指す用語。例えば、軌道法に於いて「『軌道ヲ敷設シテ運輸事業ヲ経営セムトスル者』はこれを受けなければならない」と規定される事業の許認可。 →行政行為
    • (例):鉄道事業法における鉄道事業の許可、鉱業権設定の許可、公務員の任免、道路管理者の許可
    • 特許法によって認められる特許は、行政法学上の行政行為の分類上は「確認」に該当し「特許」には該当しない。

特許(とっきょ)、あるいはパテント(patent)とは、新規で有用な技術を公開した発明者または特許出願人に対し、その公開の代償として、一定期間その発明を独占的に使用できる権利を付与する制度のこと。その権利を特許権という。特許権は、知的財産権のひとつである。


目次

[編集] 日本の特許制度

日本に特許制度が出来たのは、1885年(明治18年)である。日本の特許制度で、保護の対象になるのは、「発明」である(特許法29条1項柱書)。「発明」の定義は困難であり、諸外国の法制では「発明」の定義を判例・学説に委ねる例が多いが、日本の特許法は2条1項において「発明」を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義している。以下この項では、定義に基づいて解説する。


[編集] 発明の定義

  • 自然法則の利用
「自然法則」とは自然界において経験的に見出される法則をいう。たとえば、経済法則、商売の方法、ゲームのルール、占いの方法といったものについては、自然法則を利用しておらず、人為的な取り決めによって定められたものであるから、発明にはならない。ただし、いわゆるビジネス方法関連発明といわれる発明については、ハードウェア資源と協働したソフトウェアの処理方法が明示され、技術的な構成が記載されている場合に限って、保護の対象となる。
自然法則の利用については、「特許・実用新案審査基準第II部 第1章 産業上利用することができる発明」に、詳しく解説がなされている。
  • 技術的思想
「技術は一定の目的を達成するための具体的手段であって実際に利用できるもので、技能とは異なって他人に伝達できる客観性を持つものである」(最高裁判所昭和52年10月13日第1小法廷判決・判例タイムス335号265頁)
  • 創作
「発明」は創作であるので、例えば新種の化学物質や生物を発見しても、その発見に対し特許を取得することはできない。ただし、化学物質の特定の性質を発見しこの性質をもっぱら利用するようなものは「用途発明」として認められる。(例えば、DDTを発見してもDDT自身にに特許は取れないが、「DDTを用いた殺虫方法」に対しては特許を取る事が可能)。よって、「発明」と「発見」の境界は、突き詰めて考えると曖昧であると指摘する研究者もいる。
  • 高度のもの
「高度のもの」という部分は、実用新案法における「考案」の定義と区別するためのもので、実質的な意味はないと解される。
高度性と進歩性とを結びつけて考える説もあるが、どちらの立場をとっても実務上の影響はない。

特許を受けるためには、特許庁の審査において、特許査定(特許法51条)を得なければならない。審査を受けるには出願審査の請求(特許法48条の3)という手続が必要であり、特許出願後3年以内に出願審査の請求しないと出願を取り下げたものとみなされる。(なお、出願審査の請求期間は、2001年9月30日以前の出願については、出願日から7年以内であった。)また、特許出願後、1年6ヶ月が経過すると、その出願内容を公開することになっている(特許法64条)。特許の有効期間は、原則として、特許審査後、特許として設定登録(特許法66条)されたときに始まり、原則として出願日から20年後に終わる(薬事法などに規定される特定の行政処分を受けた場合、最長5年間延長可能(特許法67条の2))。

[編集] 登録要件

特許発明(特許法2条2項)として、登録されるためには、以下の登録要件を満たすことが必要である。

  1. 特許法上の発明であること(特許法2条1項)
  2. 産業上利用可能性があること(特許法29条柱書)
  3. 新規性を有すること(特許法29条1項)
  4. 進歩性を有すること(特許法29条2項)
  5. 先願に係る発明と同一でないこと(特許法39条)

等である。 その他に、公序良俗に反する発明(特許法32条)等は、特許を受けることができない。

[編集] 特許出願手続

特許権の付与を請求するためには、意思表示たる特許出願(特許法36条)という要式行為をする必要がある。特許を受けようとする者は、願書、明細書特許請求の範囲及び要約書並びに図面(任意)を特許庁に提出する必要がある。

[編集] 特許請求の範囲

詳細は特許請求の範囲を参照。

特許請求の範囲とは、発明の概念を文章化したものであり、この特許請求の範囲に記載された文章によって規定される技術的範囲の権利が、当該発明が特許要件を満たしている場合に出願人に付与される。特許請求の範囲には発明の単一性を満たす限度で複数の発明を記載することができるが、その場合、各々の発明をそれぞれ一つの「請求項」に区分して記載する。

なお、実務上、個々の「請求項」のことを「クレーム」(claim)ということがあり、さらには特許請求の範囲全体を指して「クレーム」(この場合正しくはclaimsであるが)ということもある。この呼び方は、特許請求の範囲の記載をWhat is claimed is:で始めていた米国の伝統的な特許実務に由来する。

[編集] 審査手続

出願された発明が特許されるためには、前掲の登録要件を満たさねばならない。これを判断する作業が「審査」である。特許出願が方式的な要件を満たしているかを審査する方式審査が特許庁長官によって行われ(特許法17条3項)、方式審査を通過した出願について登録要件を満たすかどうかを審査する実体審査が行われる。実体審査には、各種の技術的・法律的知識が要求されるため、特に資格を定められた特許庁審査官によって行われる(特許法47条)。

[編集] 審査主義

特許制度において、権利成立のために実体審査を要するか否かは、国によって考え方が異なる。実体審査を経た後に特許登録を行うのが「審査主義」である。審査主義をとることには、成立した権利が特許要件を満たしていることが保障された安定した権利であるという大きな利点がある一方、権利成立までに時間がかかり、多大な行政コストを要するという欠点もある。しかしながら裁判による事後調停、第三者監視負担を勘案すると社会全体のコストとしては無審査主義に比べ遙かに低コストとなる。

「特許」という名称から特に許可を得るものと考えがちであるが、特許は審査を経て登録するものであって、許可するものではない。したがって、早口ことばにある「東京特許許可局」なる部署は、現在・過去において特許庁に存在しない。

現在、ほとんどの国が特許について審査主義を採用している一方で、日本の実用新案のように、特許とは別の無審査登録の制度を採用し又は補完的に有している国も存在する。

無審査主義では、早期に権利が発生するという出願人にとってのメリットはあるが、第三者への権利行使に際しては自らの権利が新規性・進歩性を具備し、有効であることの立証が不可欠となる。なお、日本の実用新案では、権利行使後にその実用新案権が無効にされた場合には、相手方に与えた損害を賠償しなければならない旨の規定が設けられている(実用新案法29条の3)。

[編集] 出願審査請求制度

日本では、特許の審査を受けるためには、単に特許出願を行うだけでなく、出願審査の請求を行う必要がある(特許法48条の3)。つまり、全ての出願が自動的に審査されるわけではない。

このような制度が設けられたのは、特許出願から審査までの間の技術的・経済的環境の変化などによって特許化の必要がなくなる出願があるためである。また、特許出願は、原則として、出願後1年6月で自動的に公開され(特許法64条)、当該特許出願に開示された発明や、それにより自明な発明が後に特許されることを防ぐことができる(特許法29条、39条)ため、競合他社等の特許取得を防止するには十分である。このような消極的な出願はいわゆる防衛出願といわれる。

出願審査の請求は、出願から3年以内にしなければならない。また、請求は出願人のみならず何人もすることができる。

なお、出願審査請求を単に「審査請求」ということが多いが、通常、「審査請求」といった場合は、行政不服審査法に基づく請求をさすことが多いので、注意しなければならない。

[編集] 手続の実際

出願審査の請求を受けて、審査官が審査を行う。そして、特許できない理由が発見された場合には、拒絶の理由を通知して(「拒絶理由通知」という)、一定の期間を指定し、出願人に意見を述べたり出願内容を補正する機会を与える(特許法50条、17条の2)。具体的な拒絶理由は特許法49条各号に列挙されており、これ以外の理由で拒絶理由・拒絶査定を受けることはない。

拒絶理由に対して、意見等が提出されない場合や、提出された意見等を勘案しても拒絶理由が解消されなかった場合には、審査官は「拒絶をすべき旨の査定」(通称「拒絶査定」特許法49条柱書)を行う。したがって、反論の機会もなく、突然に拒絶査定がされることはない。

また、拒絶理由が発見されなかったり解消された場合には、「特許をすべき旨の査定」(「特許査定」特許法51条)が行われる。

実際には、審査請求された出願のほとんどに対して拒絶理由通知が発せられており、それに対する応答(意見と補正の内容)が特許の成否を分けることが少なくない。拒絶理由通知に対して、出願人がとる対応として、意見書(特許法50条)や手続補正書(特許法第17条の2)の提出、分割出願(特許法44条)、変更出願(特許法46条)、そして、放棄や取り下げがある。分割出願は、最後の拒絶理由通知(特許法17条の2第1項3号)を受けた際、補正できる範囲が限られるので(特許法17条の2第4項、5項)、有効である。また、単一性違反(特許法37条)の拒絶理由を解消するためにも分割出願が用いられる。

出願する上で、重要となるのは、多くの観点からの請求項を含む特許請求の範囲や、上位概念的な請求項から実施例に対応した請求項まで多段階にわたる特許請求の範囲を、出願時に作成しておくことである。このような幅の広いクレームを作成することによって、審査上の進歩性の判断ラインを見極め、有効な特許を取得することができる。

また、審査請求時に、自社や他社の製品動向に沿って特許請求の範囲を補正することも有効である。ただし、補正にあたっては、新規事項の追加にあたることがないように留意が必要である。

[編集] 特許権

「特許すべき旨」の査定又は審決の後、所定の期間内に特許料を納付することにより、特許権の設定登録が行われて特許権が発生する。(特許法66条)。

この特許権は、特許発明を独占排他的に実施できる権利である(特許法68条)。つまり自らの発明の実施を独占でき、許諾等をしていない(権原のない)第三者の実施を排除できる。そのため、このような第三者の実施に対しては、その違法な実施行為、つまり特許の侵害行為を中止させる権利(差止請求権、特許法100条)およびそのような侵害行為により発生した損害の賠償を求める権利(損害賠償請求権、民法709条)を行使することができる。

特許権の存続期間は、原則として出願日から20年である(特許法67条1項)。なお、薬事審査等により、特許発明を実施できる期間が短縮された場合は、最大5年を限度として存続期間が延長されることがある(特許法67条2項)。


[編集] 実施権

実施権とは、特許権者による制限なく業として特許発明を実施することができる権利をいう。特許法上の実施権には、大別して専用実施権および通常実施権の2種類がある。

[編集] 専用実施権

専用実施権は、業として特許発明を独占排他的に実施することができる権利である(特許法77条2項)。専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、特許権者の制限なく業として特許発明を実施することが可能となる。専用実施権は物権的性質であるため、この範囲内では特許権者であっても業として特許発明を実施することはできない。専用実施権の設定は特許権者が行い(特許法77条1項)、その内容は特許原簿に登録される(特許法27条2項)。専用実施権の移転は、実施の事業とともにする場合などの一定の場合に限り認められている(特許法77条3項)。また、専用実施権について質権を設定したり、他人に通常実施権を許諾することは、特許権者の承諾を得た場合に限られる(特許法77条4項)。

専用実施権の侵害行為に対しては、特許権の侵害の場合と同様に、差止請求権(特許法100条1項)や損害賠償請求権(民法709条)が認められている。

[編集] 通常実施権

通常実施権は、業として特許発明を実施することができる権利である(特許法78条2項)。専用実施権とは異なり、通常実施権は債権的性質を有しており、通常実施権の許諾範囲であっても特許権者や専用実施権者は業として特許発明を実施することが可能であり、また重複した範囲に複数の通常実施権を許諾することも可能である。ただし、特許権者との契約により、許諾範囲内で独占的に通常実施権者に特許発明を実施させる独占的通常実施権という態様も存在する。なお、通常実施権は特許原簿に登録されなくても効力が発生するが、登録されない限り第三者に対抗できない(特許法99条)。

通常実施権は、その発生原因により下記に大別される。

  1. 許諾による通常実施権;
    • 特許権者の許諾による通常実施権(特許法78条1項)
    • 専用実施権者の許諾による通常実施権(特許法77条4項)
  2. 法定通常実施権;
    • 職務発明に基づく通常実施権(特許法35条1項)
    • 先使用による通常実施権(特許法79条)
    • 無効審判の請求登録前の実施による通常実施権(特許法80条1項)
    • 意匠権の存続期間満了後の通常実施権(特許法81条、特許法82条)
  3. 裁定通常実施権;
    • 不実施の場合の通常実施権(特許法83条1項)
    • 自己の特許発明を実施するための通常実施権(特許法92条3項)
    • 公共の利益のための通常実施権(特許法93条2項)


[編集] 審判・再審

審判には、拒絶査定不服審判(特許法121条)、無効審判(特許法123条)、延長登録無効審判(特許法125条の2)がある。

[編集] 拒絶査定不服審判

拒絶査定(特許出願についての拒絶査定又は延長登録についての拒絶査定)に不満がある場合には、その謄本の送達後30日以内に拒絶査定不服の審判を請求することができる(121条1)。審判の請求書には、請求の趣旨およびその理由等を記載する。請求の理由については、追って補充することができる。

審判請求は、審決が確定するまでは取り下げることができる。

拒絶査定不服審判請求日から30日以内に、明細書、特許請求の範囲、又は図面の補正が可能(自発補正書提出)である(特許法17条の2)。また、同期間内に出願を分割することができる。分割出願を行うことにより、拒絶理由のない請求項につき迅速な権利取得を図ることができる。

審判請求したが、補正書を提出しない場合、補正書提出期限経過後2-3ヶ月で、補充指令が出され、それから1ヶ月以内に意見書を補充する。

拒絶査定不服審判請求における特許請求の範囲の補正は、特許請求の範囲の減縮、請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明のみ認められる。

拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内に明細書、特許請求の範囲、又は図面について補正があった場合は、特許庁長官は審判に先立ってその請求を審査官に再び審査させる(前置審査。特許法162条)。通常はもとの審査官が審査することになるが、別の審査官であってもかまわない。審理の結果、審査官は請求に理由があるとする場合は拒絶査定を取り消し、特許査定を行う。

拒絶査定不服審判の審理方式は書面審理による。ただし、審判長は、当事者の申立により又は職権で、口頭審理によるものとすることができる(特許法145条)。

審判に関する費用は請求人が負担する(特許法169条)。

審判の判断(審決という)に不満であれば、この謄本送達後30日以内に特許庁長官を被告として知財高裁に審決取消訴訟を起こすことができる(特許法178条1)。裁判所において審判の審理が不適法であったことが明らかになった場合には、特許庁の審決は取り消される。それでもだめなら最高裁へ上告(民訴393条1)

拒絶査定不服審判を請求できるのは、拒絶査定を受けた者又はその承継人である。また、特許を受ける権利が共有の場合は、共有者の全員が共同して審判請求しなければならない(特許法132条3)。

[編集] 無効審判

平成15年に、公衆審査機能を有する特許異議申し立てを無効審判に一本化する法改正が行われた。ここでの特許異議申し立ては、行政不服審査法上の異議申し立てではなく、特許法上の特許異議申し立てであることに注意しなければならない。

改正後の無効審判においては、何人も特許無効の審判請求をすることができる。ただし、権利帰属の無効理由については、利害関係人のみが審判請求することができる。

無効審判は、特許権の消滅後においても請求することができる(特許法125条2)。また、請求項ごとに請求することができる。

共有に係わる特許権について審判を請求するときは、共有者の全員を被請求人として請求しなければならない。

審判請求理由:特許要件違反、不特許事由違反、補正要件違反、共同出願要件違反、正当権利者でないものの特許、後発事由等。

無効審判の請求があったときは、請求書の副本が被請求人に送達され、特許権者は答弁書を提出できる。答弁書提出のための指定期間は60日、在外者は90日である。請求人から弁駁書が提出された場合は、審判長はそれが審決の判断に影響を及ぼす場合には被請求人に送達し、相当の期間を指定して、第二答弁書を提出する機会を与える。答弁書に対する弁駁書を提出する機会は必ず与えられるというものではない。

審判長は、事件が審決をするに熟したときは、審理の終結を当事者に通知する(審決は、審理の終結から20日以内に行わなければならない。)。この通知がされた以後に当事者が攻撃防御方法を提出しても、それを審理の対象にすることはできない

審判請求は審決が確定するまでは取り下げることができる。しかし、答弁書の提出があった後は、相手方の承諾を得なければ取り下げることができない。

特許を無効にすべき旨の審決が確定したときは、特許権は初めから存在しなかったものとみなされる(125条)

審決に不服があるときは知財高裁へ出訴することができるが、確定審決に対して審判手続きの重大な瑕疵があったことが発見されたり、その判断の基礎資料に異常な欠かんのあることが見過ごされていた場合には、再審の請求をすることができる(特許法171条、172条)。

[編集] 訂正審判

特許権の設定登録後に、特許権者が明細書又は図面の記載事項の訂正を請求する。審判合議体による審理がなされ訂正棄却審決又は訂正認容審決が下される。

訂正の審判の結果、訂正を認める審決が確定したときは、その訂正の効果は出願時まで遡及する(128条)。

訂正審判は、特許権の消滅後においても請求することができる(特許法126条5項柱書)。

[編集] 延長登録無効審判

特許権の存続期間の延長登録の無効を求める審判である(特許法125条の2)。

[編集] 再審

再審(特許法171条)は、非常の不服申し立て手段である。

再審を請求することができるのは確定審決に対してであり、知財高裁に審決取消しを求める訴えを提起することができるものや、その訴えを現に提起しているものは審決が確定していないので再審を請求することはできない。

[編集] 訴訟

[編集] 審決等取消訴訟(行政訴訟)

特許庁による行政処分(審判の審決、再審請求書却下決定)に対する取消訴訟は、特許法178条に定めるところにより、知的財産高等裁判所が第一審である。その上告審は、最高裁判所である。(平成17年4月1日施行の知的財産高等裁判所設置法に拠る)

なお、当事者系審判等(無効審判、延長登録無効審判およびこれらの再審)に関する取消訴訟の被告は行政庁(特許庁長官)ではなく、審判等の相手方である。つまり、特許権者が原告となる場合は審判請求人を被告としなければならず、審判請求人が原告となる場合は特許権者を被告としなければならない(特許法179条)。行政処分の取消訴訟であるにもかかわらず行政庁が被告とならない珍しい例である。

[編集] 侵害訴訟等(民事訴訟)

特許権の知的財産権関係の民事事件たる侵害訴訟は、第1審が、東京地方裁判所または大阪地方裁判所のいずれかの地方裁判所が専属管轄である。特許権を巡る民事訴訟としては、特許権者(または実施権者)が侵害者と疑われるものに対して提起する侵害差止請求訴訟、損害賠償請求(または不当利得返還請求)訴訟と、侵害者と疑われるものが特許権者(または実施権者)に対して提起する侵害差止請求権や損害賠償請求権等の不存在確認訴訟が多いが(以下、これらをまとめて侵害訴訟という)、職務発明の帰属や対価を巡る訴訟もある。以下の項では、主に侵害訴訟において論点となる部分について説明する。

[編集] 技術的範囲

特許発明の技術的範囲とは、当該特許権の権利範囲をいう。

特許法70条1項は、「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定している。

特許発明の技術的範囲、すなわち、特許権の権利範囲を判断する基準となるのは、当該特許発明に係る特許公報の【特許請求の範囲】に記載された内容である。

一般に、【特許請求の範囲】に記載された内容は、当該特許発明の権利範囲を広く確保するため、単に文理的に読み取るだけでは理解することが出来ないことが多い。特許発明の内容が理解できないと、特許権がいかなる権利を有するのか確定することが出来ず、特許権の及ぶ範囲が規定し得ないこととなり、不都合である。そこで、特許法では、「特許請求の範囲の記載に『基づいて』」と規定して、【特許請求の範囲】に記載された内容を単に文理的に判断するのではなく、特許発明を説明する明細書及び図面の内容も参酌して、特許発明の技術的範囲を定めるよう規定している(同条2項)。また、均等論によって、特許請求の範囲に記載された範囲を超えて特許発明の技術的範囲が認められることがある。

特許発明の技術的範囲について、特許庁に判定を求めることも出来る(特許法71条)。なお、この判定により示された内容に法的な拘束力はない。

[編集] 差止請求権(さしとめせいきゅうけん)

特許の侵害行為をするものに対し、その実施の差し止め(停止)を請求できる権利である。侵害自体の停止および予防を請求する権利(特許法100条1項)だけでなく、侵害の行為を組成した物の廃棄や侵害の行為に供した設備(例えば、発明品を作るための機械)の除去等を請求することが認められている(特許法100条2項)。特許の独占排他権に起因する権利であり、また侵害者の故意または過失を必要としないことより、直接かつ効果的に特許の保護を図るものである。

[編集] 損害賠償請求権

不法行為による損害賠償として、過去に対する侵害によって生じた損害を侵害者に賠償できる権利である(民法709条)。 一般的に、不法行為による損害賠償が認められるための要件は、(1)故意又は過失、(2)権利侵害、(3)損害の発生、(4)相当因果関係、(5)責任能力が必要である。 しかしながら、無体財産権たる特許権の侵害は、故意又は過失を立証することが困難なため、特許法103条で過失を推定する規定が設けられている。また、損害額を算定することも困難な場合が多く立証が容易でないため、特許法では、損害額を推定する規定が設けられている(特許法102条)。

[編集] 不当利得返還請求権

法律上の正当な理由なく、他人の財産によって財産的利得を受け、これによって他人に損失を与えた者に対し、自己の損失を限度として、その利得の返還を請求することができる権利である(民法703条、704条)。

[編集] 信用回復措置請求権

侵害者の不法行為によって特許権者の業務上の信用が害された場合、信用回復の措置を請求することができる権利である。

[編集] 世界の特許制度

[編集] 米国の特許制度

米国の特許制度は、日本を始めとする他の国の特許制度と大きく異なる点を有している。

[編集] 先発明主義

他の国が先願主義(同じ内容の複数の出願があった場合、先に出願した方が特許される)を採用しているのに対し、アメリカ合衆国は、世界で唯一先発明主義(先に発明した方が特許される)を採用してきた。 先発明主義だと、時間のかかる出願手続きよりも論文発表を優先できるので、先発明主義の国の研究者は先願主義の研究者よりはやく論文発表が可能になり、有利である。 しかし一方で二つ以上の出願が競合した場合、誰が最初にその発明をしたのかを決定するインターフェアレンス(interference)手続を経なければならず、莫大な費用・時間の負担を強いられてきた。アメリカ連邦議会で特許法改正が検討され、先発明主義から先願主義への移行などが検討されてきたが、日本、欧州諸国など41カ国と共に先願主義方式を採用することを2006年9月にジュネーブで開催された特許制度調和に関する先進国会合にて同意した。2006年11月に東京で開かれる各国特許庁の長官級会合で正式合意し、翌年にも新条約を採択する予定である。

また、審査請求制度が無いため、出願すれば全ての特許が審査される。

[編集] サブマリン特許

米国では、以前、特許の公開制度が無く、また、特許権の存続期間も特許権の付与から17年であったため、その点を利用して特許の成立を故意に遅らせるサブマリン特許が問題になった。 現在では、公開制度が導入されるとともに、特許権の存続期間は出願から20年になっている。しかしながら、米国出願以外の外国出願がない出願については公開しないことができるため、一部の米国内出願については最大20年の範囲で同様の問題が起こりうる。また、古くに出願された特許については旧法が適用されるため、今後もサブマリン特許が明らかになる可能性が残っている。

また、サブマリン特許ではないが、JPEG特許問題やGIF特許問題のように、規格が広まった後に、すでに成立していた特許を根拠として突然特許料を請求する事件も起きている。

[編集] ヨーロッパの特許制度

欧州特許条約による地域特許制度と、各国法による国内特許制度とが併存している。欧州特許条約には31か国が加入している(2006年3月現在)。

[編集] 中国の特許制度

中国の特許法の中国語での正式な名称は、「中華人民共和国専利法」である。専利は、特許に相当する。

現在(2006年3月)は、第2次改正特許法が施行されている。この改正法は、WTO加盟に向けた取り組みの一環として、改正されたものである。存続期間は、日本と同様に、出願日から20年である(中国特許法42条)。

なお、中国においては、意匠及び実用新案も専利法の下で保護される。意匠権と実用新案権の存続期間は、10年である。また、意匠は、無審査登録主義である。


[編集] 韓国の特許制度

韓国の特許制度も、先願主義を採用ししているが、申請方式等でも所轄官庁が韓国の実状に合わせ各国の制度を比較検討し日本の先願主義が妥当との判断から採用した結果、日本の制度との類似点が多い。

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

  • 特許庁編 『工業所有権法逐条解説』 第16版 発明協会
  • 特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室編 『平成6、8、10、11年 工業所有権法の解説』 発明協会
  • 特許庁総務部総務課制度改正審議室編 『平成14、15、16年 産業財産権法の解説』 発明協会
  • 吉藤幸朔著 『特許法概説』 第13版 有斐閣
  • 中山信弘著 『工業所有権法 上 特許法』 第2版増補版 弘文堂
  • 内田貴著 『民法II 債権各論』 初版 東京大学出版会
  • 竹田稔著 『知的財産権侵害要論 特許・意匠・商標編』 第4版 発明協会
  • 牧野利秋・飯村敏明著 『新・裁判実務大系4 知的財産関係訴訟法』 青林書院 初版

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