ファウストの劫罰
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劇的物語『ファウストの劫罰』(げきてきものがたり「ファウストのごうばつ」、フランス語:légende dramatique "La damnation de Faust")は、フランスの作曲家エクトル・ベルリオーズが作曲した作品。オーケストラに声楽、合唱が加わる大作であり、ベルリオーズの代表作の1つである。ドイツの文豪ゲーテの代表作『ファウスト』に基づく。
通常はコンサートホールにおいてコンサート形式で演奏されるが、ときにオペラの形式で上演されることもある。
作品中でも、『ハンガリー行進曲』(ラーコーツィ行進曲)、『妖精の踊り』、『鬼火のメヌエット』の3曲は特に有名であり、しばしば独立して演奏される。
目次 |
[編集] 作曲
1824年頃、ベルリオーズは『ファウスト』のフランス語訳を購入した。たちまち『ファウスト』の虜になったベルリオーズは「この素晴らしい本は、最初から私を魅了した。あらゆる機会に読み漁った。そして、これを音楽にしようと決心した」と回想している。夢中になった勢いで「『ファウスト』からの8つの情景」を作曲し、自腹で楽譜を出版した。得意になっていたベルリオーズは総譜をゲーテに贈呈したが、ゲーテが知り合いの音楽家であるカール・ツェルターに楽譜を見せて意見を聞いたところ、ツェルターは曲そのものを否定。ゲーテも何となくそれに賛同したため(ゲーテは音楽方面の知識は素人よりやや上程度だったと言われる)、総譜はベルリオーズの元に返され、「『ファウスト』からの8つの情景」はそのまま20年近く放置された。
1845年、何が原因でかベルリオーズの『ファウスト』病が再発する。この頃、ベルリオーズはハンガリーやオーストリアを演奏旅行していたが、『ファウスト』病の再発で、長く放置されていた「『ファウスト』からの8つの情景」を掘り出し、それを元に自ら台本を書き、「劇的物語」と命名して作曲を続けた。作曲途中、ハンガリー楽旅中に採りあげて喝采を浴びた「ラーコーツィ行進曲」をどうしても使いたくなり、原作の設定のうち冒頭の部分を強引にドイツからハンガリーへと変更した。
[編集] 初演
1846年12月、パリ・コミーク座で初演された。しかし結果は芳しくなく、この作品が初めて喝采を浴びるようになったのはベルリオーズが亡くなってからの事であった。
日本初演は、本来の演奏会形式では1936年6月20日の東京音楽学校定期演奏会にて。指揮はクラウス・プリングスハイム。舞台形式では1951年11月28日、東京芸術大学歌劇研究部による文部省芸術祭公演・都民劇場公演。指揮は近衛秀麿。この間の1945年3月10日には、日本語訳での初演が東京交響楽団臨時公演で行われるはずだった。しかし、前日から当日にわたった東京大空襲により、御成門にあった練習所が総譜、楽器ごと焼失してしまった。
[編集] 編成
[編集] あらすじ
[編集] 第1部
ファウスト伝説やゲーテの原作にはない、ハンガリーの場面に始まる。ハンガリーの丘の上にたたずむファウストの耳には農民の歌や踊りが聞こえてくるが、ファウストの気分は沈んでいる。遠くにはハンガリーの兵隊の行進(『ラーコーツィ行進曲』)の音が聞こえてくる。
[編集] 第2部
ファウストは深く沈んだ気分で書斎にこもり、絶望の果てに自殺を決意する。しかし、毒入りのカップを口に運んだとき、教会の鐘が鳴り、賛美歌が聞こえてくると、ファウストは再び生きる気力を取り戻した。そのとき突然、トロンボーンと木管楽器の音色に乗せて悪魔メフィストフェレスが現れる。メフィストフェレスはファウストを外へ連れ出す契約をし、ファウストもこれに合意する。そして、ライプツィヒのアウエルバッハ・ケラーという酒場(実在する)へと連れて行く。そこにいた酒飲みのブランデルは『鼠の歌』をうたい、その仲間たちがそれに連なりフーガの大合唱になる。続いてメフィストフェレスが『蚤の歌』を歌う。しかしファウストは気が滅入り他の場所はないのかとメフィストフェレスに要求する。
メフィストフェレスが次にファウストを連れていったのは田舎の町で、そこでファウストに呪いをかけ、マルグリート(マルガリータ)という女性の夢を見せる。ファウストはマルグリートに恋に落ちる。深い夢から「マルグリート!」と叫びながら目覚めたファウストに、メフィストフェレスは彼女のところへ行こうと提案し、学生や兵隊の行進に混ざってマルグリートの住む町に忍び込む。
[編集] 第3部
ファウストとメフィストフェレスはマルグリートの家に侵入する。マルグリートはトゥーレ王の歌を歌う。メフィストフェレスは鬼火を召還し、鬼火はマルグリートの周りの周りで踊り始める(『鬼火のメヌエット』)。
ファウストはマルグリートの前に姿を現す。すると、マルグリートはファウストのことを夢に見たと告白する。2人は愛の二重唱を歌うが、そこへメフィストフェレスが入り込み、マルグリートの母親が町中の人を連れて近づいてきているからここを速やかに立ち去らなければならない、とファウストに告げる。ファウストはマルグリートに別れを告げて去る。
[編集] 第4部
マルグリートは家でファウストが帰ってくるのを待ちながら『紡ぎ歌』を歌う。再び学生と兵士の行進に移るが、そこにファウストの姿はない。場面は森と洞窟に移り、そこでファウストは『自然への祈り』を歌う。メフィストフェレスはファウストに、マルグリートが絶望のあまり母親に多量の睡眠薬を飲ませて殺し、今は刑務所に拘留されていて、明日には絞首刑になる、と伝えた。ファウストは混乱したが、メフィストフェレスは、自分にはマルグリートを救うことができると説明した。ただしそれには、ファウストが自分自身の魂を放棄するという契約書にサインしなければならない。そして、ファウストはこの契約に応じる(そのとき、台詞は一瞬途絶え、打楽器が破滅の予感を示す音を演奏する)。
メフィストフェレスは馬を召還し、それにまたがる(『地獄への騎行』)。ファウストはマルグリートを助けにいこうと考えていたが、しかしグロテスクな光景を目の当たりにしてファウストの心には恐怖が募っていく。彼らは急に止まり、鐘の音を耳にする。それはマルグリートの死刑が執行されるのが近いことを意味していた。そして、彼らはさらに速度を上げる。
周りの風景はさらに恐ろしく奇怪なものへと変化してゆく。点からは地の雨が降り、路上には骸骨が転がっている。メフィストフェレスは“infernal cohorts”を叫び、ファウストともに奈落の底へ落ちてゆく(なお、これは第1部と同様、原作とは話の筋が異なる)。
悪魔達はメフィストフェレスに対し、ファウストは本当に自ら魂を明け渡したのか尋ねる。メフィストフェレスはこれにうなずく。悪魔達は、悪魔の王子の名前を唱え、メフィストフェレスの周りを踊りながら、勝利の合唱を歌う。
[編集] エピローグ
解説風の合唱が、地獄の恐ろしさや『恐怖の神秘』を歌う。そこへファウストの契約通り、贖罪されたマルグリートの魂が現れる。マルグリートは天使達の合唱に連れられて天国へと迎え入れられた。
[編集] 参考文献
- 増井敬二・昭和音楽大学オペラ研究所『日本オペラ史 ~1952』 水曜社、2003年、ISBN 4-88065-114-1