インスリノーマ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
インスリノーマ(insulinoma)とは膵臓に生ずるインスリン分泌内分泌腫瘍である。大部分はランゲルハンス島B細胞由来の腫瘍である。80~90%が単発の良性腺腫であるが、転移を伴う悪性腫瘍も5%程度存在する。体尾部に発生することが多く、70~80%を占める。
医療情報に関する注意:ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。免責事項もお読みください。 |
目次 |
[編集] 疫学
膵内分泌腫瘍の発生頻度は膵腫瘍全体の1~3%と低いが、その中では最も頻度の高い疾患である。インスリノーマの年間発生率は100万人当たり1.4人で、年齢を問わず発生する。患者の約6割は女性である。
[編集] 病態生理
正常であれば血糖が低下すると膵B細胞からのインスリン分泌が抑制され、グルカゴン、カテコールアミン、コルチゾールなどのホルモンが分泌され、糖新生が刺激される。その結果血糖は80~100mg/dlに維持されるのであるが、インスリノーマ細胞では分泌抑制に異常があり、血糖が低下してもインスリン分泌が持続してしまう。
[編集] 症状
低血糖の症状を呈する。
[編集] 診断
ウィップルの三徴が認められ、他の空腹時低血糖を引き起こす疾患が除外されたときに疑う(ウィップルの三徴は血糖値#空腹時低血糖を参照のこと)。インスリノーマが疑われた後は以下によって診断が進められる。
[編集] 機能診断
- 空腹時血糖・インスリン検査
- 低血糖での血中インスリンを測定する。健常であれば血糖値に応じてインスリン分泌が変化するが、インスリノーマに罹患している場合は低血糖状態でも血中インスリン値(IRI)はほとんど変化しない。空腹時IRIが6μU/ml以上、またはIRIと血糖の比が0.3以上であった場合はインスリノーマが強く疑われる。
- インスリン分泌抑制試験
- インスリンを投与し、Cペプチドの分泌抑制を調べる試験。Cペプチドはインスリンと同じモル数分泌されるため、インスリン投与後もCペプチド分泌が抑制されなければインスリノーマが疑われる。
[編集] 局在診断
- ダイナミックCTで一般に高吸収像として撮影される。造影効果が乏しいインスリノーマもある。
- 血管造影
- 膵動脈の選択的造影により腫瘍が濃染像として得られる。しかし腫瘍によって描出限界があるため、確診されるのは65~70%程度である。
- 選択的動脈内刺激物注入試験(selective arterial calcium injection test, SACI test)
- 経皮系肝門脈採血法(PTVS)
- 門脈、上腸間膜静脈、脾静脈の部位を少しずつ変えて採血し、インスリン濃度を検査し、濃度差によって腫瘍の部位を推測する方法。経肝的にカテーテルを挿入する。感度は高くない。
[編集] 治療
- 外科手術
- 耐術不能や切除不能でない限り第一選択となる。
- 化学療法
- 切除不能例や姑息手術例に対しストレプトゾトシンや5-フルオロウラシルを投与する。
- 肝動脈塞栓術(TAE)
- 肝転移巣に対し有効であるとされる。
[編集] 予後
早期に診断され腫瘍が切除されれば症状は消失する。
切除後一時的に糖尿病状態となる。多くは2週間ほどで正常となる。