電気椅子
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電気椅子(Electric chair)は死刑の執行具であり、死刑における執行形態の一つ。電気椅子による執行は、被執行者に高電圧を加え死に至らしめる。現在使用されている地域はアメリカ合衆国の数州のみである。歴史的には、フィリピンと台湾で一時期使用されていた。
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[編集] 構造と執行方法
電気椅子の多くは木製であり、椅子の脚は床に固定されている。椅子には被執行者を固定させる為に頭部用、胸部用、胴部用、両手用、及び両足首用に計7組の皮もしくはゴムのひもが取り付けられており、被執行者はこれで固定される。執行の際、被執行者にヘルメット状の1つ目の電極を後頭部に2つ目の電極を足首に取り付け、被執行者で閉回路を作る。少なくとも2回の交流による電流衝撃が、被執行者に次第で数分間に亘り加えられる。初期に2000ボルト前後の電圧が、皮膚の初期抵抗を破壊するため加圧され、被執行者は気を失う。その後、電流を8アンペア前後に減少させるように、電圧を降圧する。被執行者の体温は摂氏60度前後まで上昇する可能性があり、一般に電流は内臓に深刻なダメージを負わせる。死刑執行がどのように行われるかに関わらず、皮膚や髪の毛の一部は電流により焼かれる。初期の電流は被執行者に多くの生体機能の制御を失わせる。筋肉の動きや排便、排尿などの機能を失うため、死刑囚はおむつの着用を勧められる。執行後は、医師による死亡確認が行われる。
[編集] 歴史
最初の実用的な電気椅子はハロルド・P・ブラウンにより発明された。ブラウンはトーマス・エジソンの被雇用者であり、感電死の研究の為、ならびに、電気椅子の開発の為に雇われていた。ブラウンがエジソンのもとで働き初めて以来、エジソンはブラウンを助成した。ブラウンの設計はウェスティングハウス・エレクトリック社の交流に基づいた物だった。当時、エジソンが商業開発していた直流送電は、送電可能な距離が交流送電に大きく差をつけられていた。電気椅子に交流を用いた訳は、交流は直流より致死的だという印象を与えるため、エジソンにより企てられた物だった。
死刑執行の方法として電流を用いる概念は、歯科医アルフレッド・サウスウィックにより生み出された[1]。1881年、サウスウィックはある酒に酔った男性が電線に触れ、即死するのを目撃し、電撃は絞首刑の代替として用いることが出来ると判断した。当時広がっていた絞首刑の廃止論を背景に、1985年にニューヨーク州知事に就任したデイヴィット・ヒルと協力し、電撃による死刑執行を法定することに尽力した。同年、絞首刑に代わるより人道的で新しい死刑執行方式を決定するための委員会を、ニューヨーク州は立ち上げた。サウスウィックはまた、州の電気死に関する委員会の委員を務めた。同委員会は1885年から1889年の間、電気処刑を死刑の有効な一形態にする事を推奨した。
エジソンとウェスティングハウスの両者とも、電流戦争の一環として自身の電送系が選ばれて欲しくはなかった。なぜなら、消費者は犯罪者を殺すのに用いられている電流と同じ種類の物を自宅では使いたがらないであろうと、両者とも懸念したためであった。
交流電流は危険でありそれゆえ死刑執行に向いているという事を示すために、直流送電を推進していたブラウンとエジソンは交流電流を用いて多くの動物を公開実験にて殺している。彼らは交流電流と感電死の関連を印象づけるための手段として、メディアの為に動物処刑を開催したのだった。その動物達の多くは野犬や野良猫であり、「象のトプシー( Topsy the Elephant )」の処刑でイベントは全盛を極めた。このイベントにおいて、「感電による死/感電による死刑 ( electrocution )」 という用語が生み出された。また、交流による人間の死刑執行を意味する動詞「ウェスティングハウスする ( westinghouse ) 」を、エジソンは導入し、普及を試みた。それらの実験の大半はニュージャージー州にあるエジソンのウェストオレンジ研究室で1888年に行われた。
デモンストレーションは彼らの意図した効果をもたらし、交流の電気椅子は委員会により採択され[2]、電気処刑の使用を許可する初めての法律が1889年1月1日に施行された。 1890年8月6日、ニューヨーク州のオーバー刑務所にて電気椅子による初の死刑執行が行われた。この死刑執行は悲惨な物だったと言われている。1回目に17秒間に亘り、死刑囚は感電させられたが死に至らしめる事が出来なかった。2回目の感電にあたり発電機を充電する時間が必要となり、この合間に囚人からうめき声が聞こえたという。2回目の感電は、電圧が2000ボルトに加圧され、1分間以上に亘り行われた。この現場は陰惨な状況として多くの報道陣により報道されている。肉が焼ける匂いがたちこもり、囚人の頭部から煙が上がり、執行後に囚人の遺体から炎が上がった。電気椅子による初の女性への死刑執行は、1899年3月20日シンシン刑務所にて行われた。1897年にオハイオ州で、1900年にマサチューセッツ州で、1906年にニュージャージー州で、1908年にバージニア州で、電気椅子は採択され、程なくアメリカ合衆国内において絞首刑に代わる死刑執行の一般的な方法になっていった。1980年代中盤にリーサル・インジェクション ( Lethal injection ) [3]が、法的執行の処理に対するより安楽な方法として広く普及するまで、上記の状況が続いた。
1900年頃、ある囚人の発案により電気椅子の改良が行われた。従来は金属製の締め具で死刑囚を電気椅子に固定していたが、皮製の帯による固定に切り替えられた。これにより、拘束の効率と死刑囚の肉体が焼け焦げる問題が改善された。
アメリカにおいて、1972年のファーマン対ジョージア州判決を経て、1979年5月25日に1966年以来の電気椅子による死刑執行が行われた[4]。現在でも今なお、多くの州が死刑囚に電気死刑もしくはリーサル・インジェクションの選択を許可している。アメリカ全土で5人の死刑囚がリーサル・インジェクションではなく電気死刑を選択している。
[編集] 現状
アメリカ合衆国のアラバマ州、サウスカロライナ州、バージニア州では、死刑執行の選択可能な一形態であり、ネブラスカ州では唯一の死刑執行形態である。ケンタッキー州とテネシー州においては、1998年の州法施行日以前に犯された死刑相当の犯罪を犯した犯罪者は例外となるが、電気椅子は既に使われていない。両州において、州法施行日以降に犯された死刑執行相当の犯罪に対して認可された死刑執行形態はリーサル・インジェクションとなっている。イリノイ州及びオクラホマ州では、死刑執行時に電気椅子での死刑執行以外の執行形態が違憲であることが分かったという条件において、電気椅子は使用可能性が認められている代替の死刑執行形態である。フロリダ州では、死刑囚が感電死による死を選ぶことが出来るが、既定ではリーサル・インジェクションとなっている。アメリカ合衆国においては、言い渡された死刑宣告のほとんどは、被告がその州において量刑が死刑に値すると見なされる特定の法令違反を犯した、と判決が下された結果もたらされる。
[編集] 衰退
縦軸が死刑執行数、横軸は年次。黒い線が電気椅子による死刑執行数、緑の線がリーサル・インジェクションによる死刑執行数、赤い線が絞首による死刑執行数。
1920年代には電気椅子による死刑執行が絞首に変わり最も普及した方法となる。1980年代にはリーサル･インジェクションによる死刑執行が、電気椅子にかわり普及した方法となっている。
アメリカにおいて、国会議員が自らが考えるより人道的な死刑の執行方法を模索するにつれて、電気椅子の使用は衰退した。1980年代、複数の電気死刑失敗事例の新聞報道が助けとなり、リーサル･インジェクションが最も普及した死刑執行方法となっている。
2006年現在、死刑執行に対する1つの選択肢として電気椅子をいまだに用意してある地域は、世界中でアメリカ合衆国のアラバマ州、フロリダ州、ネブラスカ州、サウスカロライナ州、ケンタッキー州、テネシー州、バージニア州のみとなっている。電気椅子が依然として死刑執行の唯一の方法であるネブラスカ州を除き、その他の州の死刑囚は電気椅子かリーサル・インジェクションどちらかの選択をする必要がある。
フロリダ州において1999年7月8日に行われたある囚人の死刑執行において、その囚人は執行時に胸部と鼻から流血した。この執行の様子がアメリカのメディアにより報じられ、電気椅子による死刑執行が見直される機会となった。2006年現在、フロリダ州における既定の死刑執行方法はリーサル･インジェクションとなっている。
アメリカにおいて被執行者が即死せず数回の電撃にさらされた数件の事例のために、電気椅子は批判された。これらの事例を多くの人が「残酷で異常な刑罰 」と見た事により、この慣習の終焉を要請する声が高まった。
[編集] 脚注
- ↑ (Nov 2000)"Alfred P. Southwick, MDS, DDS: dental practitioner, educator and originator of electrical executions". Journal of the History of Dentistry 48 (3): 117-22.
- ↑ Mary Bellis (2005). "Death and Money - The History of the Electric Chair" About.com. 2006年4月13日閲覧.
- ↑ この記事においては注射を用いた薬物投与による死刑執行のことを指している。
- ↑ 1972年、アメリカ合衆国最高裁判所によるファーマン対ジョージア州判決が下された。これは、死刑制度の適用において一貫性の度合いを要求する判決であった。また、死刑が「残酷で異常な刑罰 ( Cruel and unusual punishment ) 」であるとして、違憲であるとの判決を下した。この後、死刑制度の適用が一時期見直され死刑執行は行われなかったが、1976年の合衆国最高裁判所によるグレッグ対ジョージア州判決で、死刑は「残酷で異常な刑罰」ではなく合憲との判決が下さた。これにより、アメリカにおける死刑執行は再開した。
