転職
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転職(てんしょく)とは、現在ついている職を辞して異なる職につくことをいう。自発的に転職する場合と、使用者の都合により転職する場合とがある。
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[編集] 転職の現状
終身雇用が一般的であった日本では、転職は比較的少なかったといわれているが、近年は増加傾向にある。 総務省が発表した平成13年8月労働力調査特別調査によると、全就業者に占める転職経験者の割合は5.1%、15-24歳では12%程度を占めている。女性の転職率は横ばいもしくは減少傾向にあるが、男性は高年齢層を除いて増加傾向にある。
平成14年から集計をはじめた労働力調査年報によると、平成17年度までの間で、全就業者に占める転職経験者の割合は微増となっている。
また、総務省の「平成16年 労働力調査 詳細結果」(2005年3月発表)によると、転職を希望している就業者の割合は全産業平均で9.7%だった。年齢別では25~34歳が14.8%と高く、35~45歳が9.6%、45~54歳が8.1%で、若年層ほど転職希望がいくらか高い。しかし、転職をキャリアアップのチャンスととらえるアメリカに比べれば、いぜんとして労働移動率は低く、わが国の雇用は流動化してきているとはいえ、長期雇用の伝統が残るヨーロッパ諸国のそれに近い。
転職希望率及び実際の転職率については、職種毎に大きな差異がある。例えば、システムの企画・開発や運用・保守に携わるITプロフェッショナルに限れば、転職希望者は2人に1人という非常に高い水準にある。その理由の第一は「給与に対する不満」(48%弱)だ。また、3人に1人が「より将来性のある組織で働きたい」と答えている[1]。
[編集] 日本における転職の方法
転職先を探す手段は様々である。
- 知人の紹介・勧誘
- 引き抜き(スカウト)
- 自分で探す
- 人材紹介サービスの利用
自営業では、求人情報を公にしていない企業も多く、知人の紹介・勧誘による転職が比較的多い。また、スピンアウト時も同様な理由で、紹介・勧誘という手段が使用される。
高度に専門的なスキルを持っている人材に対しては、引き抜きが行われることがある。引き抜き対象の調査や調整負担が大きいため、専門の企業が仲介することも多い。 転職情報サイトが提供するスカウトサービスとは基本的に別物である。
転職先を探す方法として一般的なのは、公開されている企業の求人情報を調べて、申込を行う方法である。 求人情報が公開されているところとしては以下のようなものがある。
人材紹介サービスでは、転職希望者にヒアリングを行い、自社が保有する求人情報のうち適当なものを提案する。求人情報には、非公開のものも含まれることがある。「インテリジェンス」「リクルートエージェント」「転職×天職」「パソナキャレント」などが有名。
[編集] 日本の転職情報サイト
インターネットの普及に伴い、転職情報サイトを用いた転職が主流になりつつある。
最初の本格的な転職サイトとしては、リクルート社が1996年に立ち上げた「Digital B-ing」が挙げられる。同サービスはその後「リクルートナビキャリア」、「リクナビNEXT」とサービス名を変更して継続している。 2006年時点で、売上や掲載企業数が多い転職サイトとしては、「リクナビNEXT」「en社会人の転職情報」(2000)「毎日キャリアナビ」(1999)などがある。これらのサイトの運営会社は、元々紙媒体の職業情報を扱っていたり、情報誌の営業を行っていたりした企業が大半である。
転職サイトによっては、ポータルサイトに広告料を払って転職情報を掲載しているところがある。利用者の立場から見ると、ポータルサイトにアクセスすることで、ワンストップで各転職情報会社の情報を確認できることになる[2]。
サイト運営者は、企業から広告費を貰って求人情報を掲載するため、転職希望者は無料で利用できるのが一般的(※)。
求人情報は、求人企業自ら作成するのが基本(ただし後述「独自取材」参照)。ただし、不適切な表現や勤務条件がないかといった点は、サイト運営者によってチェックされ、労働基準法など諸法規に違反する求人は掲載を拒否される。しかし、大規模なサイトになると求人企業のチェックが行き届かず、法規違反の求人が掲載されることもあるので、掲載されている求人情報だけでなく、自分の目で見て判断することが大事である。なお、法令違反の求人情報を発見した場合、運営者に連絡をすれば、掲載停止などの処置を行ってもらえる。
多くの転職サイトに共通する機能としては、(1)職種や業種毎に分類した求人情報を勤務地域や給与など種々の条件で検索できること(2)Web上で応募が可能であること(3)自分の個人情報を登録しておくことができ、ログインすることで再利用可能であることなどが挙げられる。
転職サイト間での競争が激しくなってきたため、各社とも独自のサービスを提供して特色を出そうとしている。
- スカウトサービス
登録された職歴などの個人情報を匿名で企業に公開することによって、興味をもった企業からダイレクトメールを受け取ることができるサービス。
- 独自取材
第三者視点を重視し、サイト運営会社が取材によって求人情報を作成する。 求人企業のお手盛り記事だけでなく、記者の目で見た仕事のつらさや職場の雰囲気なども掲載されるため客観性が高い。最近では、ブロードバンド化に伴い、社内の様子などのビデオ配信も行われるようになっている。
- 適性診断
R-CAPやコンピテンシーモデルなどによる分析で、個人の特性にあう仕事を紹介する。
- 各種読み物
転職に役立つ情報を編集記事として作成し、掲載する。
※ 企業のウェブサイト中の求人情報ページを自動巡回ロボットによって収集し、掲載するモデルもある。
[編集] 転職に関する問題点
転職は一般的になりつつあるが、様々な問題点が指摘されている。
※特に断りのない限り、この節で使用している数値データは厚生労働省の転職者総合実態調査(H.10)、総務省の労働力調査特別調査(H.13)による
[編集] 需給のミスマッチ
求職数に見合う数の求人数があるにも関わらず、条件があわないため雇用が創出されないことをミスマッチという。産業の構造転換が進んでいる際によく見られる。
バブル崩壊後の不況期は、有効求人倍率(求人数/求職者数)が恒常的に1を下回っていた(需要超過)が、IT化によって必要とされる各種技術者については、求人数が求職者数を上回る供給超過の状態が続いていた。一方、一般事務職などは、有効求人倍率が持ち直しても求職者数が求人数を上回る需要超過状態が続いている。
ミスマッチを防ぐためには、適切な職業教育や、初心者を雇用することになる企業への補助などが必要と言われている。
[編集] 機密保持と競業避止
公務員は、退職前5年間に勤務していた内容に関係する民間企業に、退職後2年間は就職できない。民間企業でも就業規則などで、退職後一定期間(6ヶ月~1年が一般的)、競業会社へ就職することを禁止していることが多い。これら競業避止義務は、機密保持の観点から必要とされるが、経験を生かした転職を難しくしている側面もある。競業避止は職業選択の自由を制限するものなので、要件・範囲が明確にされている必要があり、不適切な規定は取消される。ただし、新製品情報などの機密情報は、競業避止規定の有無に関わらず守る義務がある。
[編集] 早期離職者の増加
転職市場が活発になりつつあるとはいえ、雇用者と労働者の間には情報の非対称性が存在する。そのため、転職後に「こんなはずではなかった」という感想を抱く者は多い。転職に満足している者の割合は60%程度、逆に不満を感じている者は10%程度となっている。これらの層は、転職を繰り返す可能性が高いと考えられる。転職者のうち、3回以上転職している者は全体の4割程度にのぼっている。
[編集] 年金など社会保険
転職者は企業年金や退職金などで、連続勤務したものに比べ不利な扱いを受けることが多い。 確定拠出年金(日本版401k)の法整備などにより、状況は幾分改善されつつある。
[編集] キャリアの断絶
前職での経験が生かされていると答えた者の割合は5割強、活用されていないとする者は25%程度になっており、知識・経験が必ずしも蓄積・活用されていると言えない。ただし、専門・技術職や管理職では、7~8割程度が何かしら経験が生かされていると答えている。機密保持との兼ね合いで経験を生かせる職につけないこともあるが、25歳程度までの若年層を対象とする第2新卒採用(採用者は新卒扱い)に示されるように、企業側が中途半端な知識・経験を求めていないという点も指摘される。