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親指シフト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

NICOLA仕様準拠のPC用コンパクト親指シフトキーボード。キーボード最下段中央には親指シフトの象徴とも言える左右の親指シフトキーがあり、その下に変換/無変換キーが位置する。
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NICOLA仕様準拠のPC用コンパクト親指シフトキーボード。キーボード最下段中央には親指シフトの象徴とも言える左右の親指シフトキーがあり、その下に変換/無変換キーが位置する。

親指シフト(おやゆびシフト)は、日本語の文章を効率よく快適に入力することを目指して考案されたキー配列の一種、およびこのキー配列を採用するキーボードの仕様である。

親指シフトキーボード(おやゆびシフトキーボード)は、同仕様を採用したキーボード製品のことである。OASYSキーボード(オアシスキーボード)と呼ばれることもある。

NICOLA(ニコラ)は、日本語入力コンソーシアムが親指シフトに改良を加えた仕様である。

目次

[編集] 概要

富士通で日本語ワードプロセッサの開発に当たった神田泰典と池上良己らは、他社が様々な入力方式を発表する中、今日と同様のかな漢字変換をもっとも実用的と考えた。かな漢字変換方式では当然「かな」を入力する必要があるが、当時のかな入力方式としては「ローマ字入力」「JISかな入力」が研究されており、1980年にはこの方式を採用する日本語ワードプロセッサが製品化されていた[1]。時期を同じくして、これらの入力方式に満足できなかった神田らは、1980年発売の日本語ワードプロセッサOASYS100に「親指シフト」を採用した。

ローマ字入力やJISかな入力とは異なり、親指シフトは「一つのアクションが、一つのかなに対応する」方式を採用した。日本語ワードプロセッサでは「無変換」「変換」キーを両方の親指で押しやすい中央下段位置に配置するものが多かったが、親指シフトではこれらのキーを一段下げ、代わりに「左親指」「右親指」のキーを配置している。打鍵順序を意識せずにすむ「一つのアクション」を実現するために同時打鍵判定機能を有し、「一つのかなに対応」を実現させるために「単独打鍵・左親指との同時打鍵・右親指との同時打鍵」の3状態で異なるかなを表現させることとした。これにより、ローマ字入力と同じくモード切替無しでの数字入力が可能になり、かつJISかな入力よりも少ないアクション数でかな文字入力を行える仕様となった。ひらがなの使用頻度は本来非常に偏りがある[2]ため、よく使うひらがなを優先して打鍵しやすい位置へと配置することにより、タッチタイプをする時に打鍵しやすい配列が作成できる。

同社ではOASYSシリーズに一貫して採用しつづけたほか、パソコンFMR,FM TOWNS,またビジネスパソコンFACOM 9450シリーズ(PFUブランドでは「Cシリーズ」)向けの製品も発売された。サードパーティーからはPC-9801Macintosh向けの製品や、Windowsを搭載したPC携帯電話向けの製品が発売されているほか、ソフトウェアエミュレーションによってLinuxなどのUNIXOSMacintoshでも使用できる。

富士通以外のメーカーからも製品が発売されており、日本語入力用のキーボードとしてはJISキーボードに次ぐ普及率にある。しかし、JISキーボードのシェアは圧倒的であり、普及率第2位とはいっても1位に大きく差をつけられた2位である。

NICOLAの名称は「NIHONGO-NYURYOKU CONSORTIUM LAYOUT(日本語入力コンソーシアム配列)」の頭文字に由来する。NICOLAと親指シフトの区別は厳格にはなされておらず、NICOLA仕様準拠のキーボード製品も「親指シフトキーボード」と呼ばれることが多く、「NICOLAキーボード」と呼ばれることはあまりない。 NICOLAは親指シフトとの上位互換性を確保しており、親指シフトに習熟したユーザーであればNICOLA仕様のキーボードを戸惑うことなく使うことができる。現在発売されている親指シフトキーボードはすべてNICOLA仕様に準拠している。

[編集] 操作方式

親指シフトキーボードの見た目における最大の特徴は、キーボード最下段中央に位置する親指左/親指右キーと、その下に位置する無変換/変換キーにある。初期の宣伝では「親指ポン」と銘打っていた。日本語入力コンソーシアムのシンボルマークもこれを模ったものである。

操作面の特徴としては、次の点が挙げられる。

  • 英字入力時に比べて使用される機会が少ない親指を、和文入力においても無理なく積極的に活用する
  • ピアノで和音を奏でるときのように、打鍵する順番を気にすることなく、文字キーと親指シフトキーを同時に規則的なテンポで打鍵できる

ホームポジションに手を置くと、親指左/親指右や無変換/変換のキーは、左右の親指の真下に位置するため、ホームポジションを崩さずに親指で打鍵できる。英字モードでの配列と入力方式は、一般のQWERTY配列のキーボードと変わらず、親指左/親指右キーはスペースキーとして機能する。一方、かなモードでは、これらのキーを下表のように操作して、キートップに印刷してある複数の文字を打ち分けながら、漢字かな交じり文の文章を入力する。(親指シフトとNICOLAでは、半濁音の入力方式が異なる)

文字キーのキートップ
文字キーのキートップ
入力したい文字 キー操作
文字キーの下側に刻印されている読み(A) 文字キーを単独で打鍵
文字キーの上側に刻印されている読み(B) 文字キーと、文字キーを打つ手の親指シフトキーを同時に打鍵(同時打鍵
Aの文字の濁音 文字キーと、文字キーを打つ手とは反対側の親指シフトキーとを同時に打鍵(濁音がある文字のキーのみ有効)(クロス打鍵
Aの文字の半濁音 左右いずれかの小指シフトキー(半濁音キー)を押しながら、文字キーを打鍵(半濁音がある文字のキーのみ有効)
文字キーに刻印されている半濁音(D) (NICOLAのみ)半濁音は濁音のない文字のキー(「ら」「,」「め」「ね」「い」)に刻印されており、クロス打鍵すると「ぱ」「ぴ」「ぷ」「ぺ」「ぽ」が入力される
英字(C) 英字モードにて、文字キーを単独打鍵(一般のQWERTY配列キーボードと同じ)


一見すると複雑に見える入力方式であるが、「かな一文字を一回の操作で入力すること」という要求を満たそうとする場合、この方法は最もシンプルな解決方法のひとつである。

解剖学的なの構造を見れば明らかな通り、親指(母指)は人差し指・中指・薬指・小指とは異なり中節骨がなく、他の指と比べて明らかに短い。また他の指との近づき具合を自由に変えることができる。親指シフトはが持つこの特性を巧妙に利用している。

片手による文字キーと親指シフトキーとの同時打鍵(濁音になり得ないかなの打鍵)については「文字キーと親指シフトキーを同時に押せるように指を構え、そのまま掌全体を軽く下ろして同時打鍵する」スタイルを取っている(手の形を決めてから掌全体を下ろす操作は、類似のものをそろばんなどでも見ることができる)。

この操作はもちろん練習をすることによってしか習得できず、他の入力方法では用いない操作である。初期練習時には、「2つのキーを同時に打鍵する」事よりも、「2つのキーを同時に押せるように手を形作る」事に注視し練習する方が、より実際の打鍵に近い打鍵感覚で練習できる可能性がある。

親指シフトは、一つのシフトキーに一つの機能を割り当てるのではなく、「手の形・文字キーと親指シフトキーとの位置関係」に応じてシフトの意味合いを変えることにより、「片手で打てば濁音になり得ない清音かな」「両手で打てば濁音かな」というルールをほぼ規則的に実現している。

同時打鍵といっても、完全に同時に打鍵「しなければならない」といった厳密さはなく、多少のずれは許容される。文字キーの打鍵と親指シフトキーの打鍵が一瞬早かったり遅かったりしても、シフト側の文字が入力されたものとして受け付ける。

親指シフトキーについては、別項で他のシフト方式との比較を含めて詳述する。

[編集] キー配列

親指シフトのキー配列は時代と共に変遷しているが、基本的な仕様は変わっていない。ここでは親指シフトを採用した最初の製品であるOASYS100の配列と、現在用いられているPC向けのNICOLA仕様配列を紹介する。なお、OASYS100とその後のOASYSとでは記号類の配置に若干の違いがある。英字入力時の配列も記載すると図が複雑になるため、日本語入力時の配列のみ紹介する(前述した通り、英字入力時の配列は他のQWERTY配列のキーボードと同一である)。

[編集] OASYS100配列

OASYS100の日本語入力時の配列

刻印された文字の打ち分けの仕方は#操作方式の項目を参照。

OASYS100のキー配列の特徴として、以下の点を挙げることができる。

  • 出現頻度の高い読みをホームポジションに配置しているため、日本語自然文の読みについては約7割をホームポジションで入力できる
  • 拗音促音濁音半濁音長音句読点などを含む、その他のすべての読みをホームポジションの上下の列に収容
    数字や記号を入力しないかぎり最上段を使用することはないため、ホームポジションが崩れにくい
  • 連接する頻度の高い読みは、左右の手をなるべく交互に使いつつ入力する様に設計されている
  • 漢字音の二音節目に現れる音である「き・く・つ・ち・い・う・ん」は、特に入力しやすい位置に配置している
  • 最も器用な人指し指の負担を重く、逆に不器用な小指の負担は軽くなるように設定
  • 入力した文字の訂正のために頻繁に使用する後退キーをホームポジション隣に配置
    なお、この「後退キー」は文字を消すために用いるキーではなく、左カーソルと同じ挙動をするキーである。OASYSシリーズは上書きモードで文章を記述していたため、入力中の文章から末尾のみを修正する場合、文字を消す必要がない。OASYSシリーズは紙に文章を書くのと同じ感覚で電子文書を作成できる「日本語電子タイプライタ」を目指していたため、このような仕様となった。(ちなみにOASYS100のカタログでは「日本語ワードプロセッサ」ではなく「日本語電子タイプライタ」と表記していたが、その後の機種では他社に合わせて「日本語ワードプロセッサ」に変更した)
    このように、初期の親指シフトキーボードは、OASYSの設計思想と密接に結びついていたものであったと言える。

[編集] NICOLA仕様配列

NICOLA仕様配列には、OASYS100以降の親指シフトキーボードの仕様を継承したF型のほか、ANSI仕様の英文キーボードとの互換性に配慮したA型と、JISキーボードとの互換性に配慮したJ型のバリエーションがある。ここではJ型配列を紹介する。

日本語入力時の配列(NICOLA)

上図の白色部分は、NICOLA仕様では未定義とされ、実装者に任されている箇所である。エスケープ、バックスペース、エンター、半角/全角、英数、タブ、スペース、Ctrl、Altなどのキーをこの領域に配置する。

OASYS100配列と比較して、以下のような特徴がある。

  • 濁音になり得ない文字が割り当てられた「ら」「,」「め」「ね」「い」のキーと左親指シフトとの同時打鍵に「ぱ」「ぴ」「ぷ」「ぺ」「ぽ」をそれぞれ割り当て、小指シフトキーを用いなくても半濁音を入力できるようにした
    小指シフトキーによる半濁音入力も従来通り可能であり、どちらを使用するかは各使用者の判断に委ねられている。
  • 後退キーをホームポジション付近から外した
    JISキーボードから移行したり、JISキーボードと併用するユーザーが混乱しないための措置である。
  • 右手小指で打鍵する領域にキーを追加した
    JISキーボードにあって親指シフトキーボードになかったキーを追加したものである。追加されたキーは英字入力用であり、日本語入力には使用しない。上の図では日本語入力時の配置のみを示しているため、空白になっている。
  • 変換/無変換キーがオプションになった
    • ノートパソコンなどでは変換/無変換キーの設置スペースを確保することが難しい
    • 親指シフトキーボード専用のハードウェアやデバイスドライバを作成したくない
    といった理由から、独立した変換/無変換キーを設置せずに親指シフトキーと兼用することを認めている。
    親指左キーを単独打鍵すると無変換キー、親指右キーを単独打鍵すると変換キーの動作となる。
    実際の製品の中には、物理的には独立した変換/無変換キーがあるものの、変換/無変換キーと親指シフトキーが同一のキーコードを発生するため、ソフトウェアからは兼用されているものと同じように処理する必要がある、というものもある。

なお、日本語入力コンソーシアムが提案しているJIS化提案[3]では、親指キーの配置については「位置」ではなく「領域」で指定されている。富士通が販売しているデスクトップ用親指シフトキーボードや本格的な親指シフトノートPCでは、親指左キーと親指右キーを隣接配置し、その右側に空白キーを置くのが通例である。 一方、JIS X 4064:2002の付属書2付図2では、JIS化提案要件を満たしつつ「中央に空白キーを持つNICOLAキーボード」が提示されている(同付属書は規定の一部ではない)。製品としてはすでに「快速親指シフト[4]」キーボードを搭載するノートPCが生産されている。

[編集] 評価

以上説明したように、親指シフトは効率よく快適な日本語入力を実現するために様々な工夫を凝らしている。親指シフトの支持者には一般的なユーザのみではなく、作家ライター、記者・編集者などのマスコミのほか、事務・司法書士など、大量の文書を日常的に作成する職業に就いている人も多い。もっとも、これらの言及から「親指シフトは文章のプロが使う道具」という誤解も生まれがちではある。

[編集] 快適さ

快適さについては個人の感覚や好みに負うところが大きいので客観的な記述は難しいが、親指シフトの支持者たちは、親指シフト方式の快適さを以下のように説明している。

親指シフト入力に習熟すると思考を中断しないタイピングが実現し、文章入力にほとんどストレスを感じなくなる。すると頭の中に浮かんだことが即座に画面上の文章になる、いわば「指がしゃべる」ような感覚を得られる。
この「指がしゃべる」という感覚は、親指シフトのように、すべての読みを1打鍵で入力できる方式でのみ得られるものである。なぜなら、我々が日本語でものを考えているときは、頭の中に「が」という音を浮かべているのであって、「か」+「゛」でもなければ「g」+「a」でもない。頭の中に浮かぶ音をそのまま打鍵できる方式でなければ、「指がしゃべる」という快適さは得られない。

また、親指シフトやJISかな入力の支持者たちの間には、ローマ字入力での、かなをローマ字に変換するストレスを嫌う意見があるが、これに対してローマ字入力の支持者たちは、慣れれば読みとローマ字の入力パターンは頭の中で一対一で対応するようになり、ストレスはなくなると反論する。

もっとも、誰しも「今慣れ親しんでいるものをそのまま使うのが一番快適」という点は紛れもなく事実であり、これらの意見はしばしば論議を生む原因となる。また、ここに挙げた意見が「全ての」各配列ユーザが抱く総意かどうかという点については統計が無く、詳細は不明である。

親指シフトユーザの動向がこの「快適さ」を裏付ける例もある。

  • ローマ字入力との両刀使いの親指シフトユーザは多い。ローマ字入力でも不自由しないのにローマ字入力一本にせず、「自分のパソコンでは親指シフト」「他人と共有するパソコンではローマ字入力」のように使い分けているのは親指シフトの快適さ故である。
  • かつて親指シフトを経験したユーザの中には、時代の流れと共にローマ字入力やJISかな入力へと移行した者もいる。そういったユーザですら「親指シフトが嫌になって使用を取りやめた」という発言をすることは比較的少なく、親指シフトに対し好意的であり続けている例や、エミュレータの存在を知って親指シフトへ「出戻る」例がよく見受けられる。
  • 多数の親指シフトエミュレータや親指シフトコミュニティも親指シフトユーザの想いの表れである。
  • 今ご覧のウィキペディアの「親指シフト」の項目の長さ・詳しさも、親指シフトユーザの熱心さの表れである。

親指シフトウォッチでは、かつてのユーザの意見も取り上げている。


[編集] タッチタイピングへの適合性

キーを見ないで入力する「タッチタイピング」の習得には、以下の要件が必要である。

  • 正しい指使いを守る
  • 練習段階からキーをなるべく見ない(別途キー配列表を用意、もしくは専用の練習コンテンツを利用する)

親指シフトでは、以下のようになるため、タッチタイピング習得のための原則を自然と守る結果になる。

  • 親指シフトキーの上に親指を構えると、教科書などで覚えなくとも正しいホームポジションが自然ととれる。
  • 左手側で打つキーと右手側で打つキーとでは、シフト側文字と濁音の入力に使用する親指シフトキーが逆になるため、左右の手の分担を間違えるとすぐに間違いに気づく。
  • 親指シフトキーを頻繁に打つためキーの刻印を盗み見るために手をどけるのが面倒であり、そのような悪癖がつきにくい。
  • 親指と人差し指にだけで打とうとすると、手首を大きく捻らねばならぬ場面があり、苦痛である。

そのため、親指シフトではタッチタイピングを自然に覚えられる、あるいはタッチタイピングを強制的に覚えさせられるという側面がある。

一方、この事は裏を返せばいわゆる「一本指打法」がしにくいということでもある。手指に障害をもつ者にとっては親指シフトは他の配列以上に扱いにくい。

[編集] 入力速度

ひらがなの入力速度は配列よりも個人の適性に大きく左右される。高速入力の得意な人と不得意な人の差に比べれば、配列による差はむしろ小さい。練習量や気合にも大きく左右される。そのため、入力速度の定量的な比較には難しいものがある。

ただ、以下に掲げるデータや他の配列と併用する者の実感から、親指シフトは高速入力に比較的向いた配列と考えられる。あくまでも「比較的」なので、高速入力の得意な人がローマ字入力した場合と高速入力の不得意な人が親指シフト入力した場合を比べれば前者のほうが速い。


打鍵数は多いより少ないほうが高速入力に有利だと考えられる。日本語の文章(天声人語4日分:3735文字)を入力したときの打鍵数を他の入力方式と比較した資料によると、以下の通りである。

  総打鍵数 比率  
親指シフト 3735 1.0 ※同時打鍵を1打鍵とカウント
JIS配列かな 4110 1.1  
ローマ字 6474 1.7  

同じかな入力方式でありながら親指シフトとJISかなとで打鍵数に開きがあるのは、親指シフト入力ではすべての読みを1打鍵(シフトキーとの同時打鍵を含む)で入力するのに対し、JISかな入力では文字と濁点半濁点を別々に入力するため、濁音と半濁音の入力では2打鍵(ほぼ交互打鍵)になるためである。

さらに、親指シフトはホームポジション付近に頻出文字を集中配置しているため、運指距離と運指時間はローマ字入力JIS配列かな入力よりも少なく済む。

ただし、親指シフトでは親指シフトキーの操作があるので、打鍵数にそのまま反比例する速度は出ない。つまり、ローマ字入力の1.7倍までの速度は出ない。JISかなとは打鍵数の違いが少ないが、運指距離の違いが大きい。

一方で、「同じ程度の適性を持った者がある文字入力速度を出すために必要な労力」は入力手法の出来(打鍵数・運指距離・運指時間・交互打鍵率など)に依存する。そのため、同時打鍵に対するストレスを感じない人であれば、ローマ字入力JIS配列かな入力よりも少ない労力で文字入力をすることが出来るものと思われる。


[編集] 学習の容易さ

学習の容易さは、配列そのものの覚えやすさの他に学習者の適性や意欲にも大きく左右されるので、定量的な比較が難しい。同じ配列を練習してもすぐに覚えられる人となかなか覚えられない人がおり、さらには覚えられずに諦めてしまう人もいる。また、覚えやすい配列でも嫌々練習していてはなかなか覚わらないし、覚えにくい配列でも(よほど極端に覚えにくいものでないかぎり)一生懸命練習すれば覚えられるだろう。

親指シフトの覚えやすさについては諸説ある。他の配列より覚えやすいとする意見もあれば、覚えにくいとする意見もある。ただ、親指シフトを打てる者が一定数いる以上、少なくとも他の配列に比べて極端に覚えにくくはないものと思われる。

諸説を列記すれば以下の通りである:

  • 1つのキーにかな2音を割り当てておりシフト操作が必要であるのと、覚えるべきキーの数がローマ字入力よりも多いため、習熟にはローマ字入力より時間がかかる。
  • ローマ字入力で滑らかにタッチタイピングをするには、例えば「か」という音が「右手中指(k)→左手小指(a)」という手順に無意識に関連付けられなくてはならない。覚えるべき手順の数はローマ字入力よりも親指シフトの方が少ないため、取りかかりはローマ字入力よりも難しいものの、いったんキーのポジションを覚えた後は早く上達する。
  • 日本能率協会1983年に行った[5]調査では、キーボード未経験者にJISカナ、ローマ字、親指シフトの入力をそれぞれ練習させ、練習時間に対する入力速度の統計を取ったところ、入力速度の向上は親指シフトが一番速く、ローマ字入力が一番遅いという結果が得られている。これは、ローマ字入力では覚えるべきキーの数が少ないため取りかかりは容易であるが、習熟して頭の中で読みからローマ字に変換するプロセスが消えるまでに長く時間がかかるため、上達は遅いと説明されている。

ただし、現状では親指シフトは少数派である以上、ローマ字入力と併用する人が多い。ローマ字入力のみを覚える負荷と、親指シフトとローマ字入力の両方を覚える負荷を比べれば、当然ながら後者のほうが大きい。仮に親指シフトが多数派になっても、英字の入力のために英字配列は覚える必要がある。

親指シフトユーザの中には「親指シフトは英字タイプと似た操作性・似た打鍵範囲を持っているのだから、まず英字タイプをマスターしてから親指シフトを習得する方が有利だ」という主張もある。そもそも親指シフトの基本的な操作性は英文タイプのそれと似通っている。ゆえに、シフト操作がシンプルな「英文タイプ」を先にマスターすればキーの位置は確実に覚えることができるので、あとは同じ打鍵範囲+親指シフトキーの操作でかな文字を打てる「親指シフト」を覚えることとすれば、学習に要する障壁を分割し難易度を下げることができるためである。

[編集] 普及率

調査中(執筆希望)

[編集] 歴史

[編集] 開発の背景

かつてコンピュータは英字のみか、せいぜいカタカナが扱える程度であった。コンピュータで漢字かな交じり文を表示・印刷するには活字の役目を果たすフォントを必要とするが、補助記憶装置にフォントを搭載しても低速すぎて実用にならず、主記憶装置またはそれに類する専用の記憶装置、主に漢字ROMを必要とする。当時フォントを記憶させるために必要な主記憶装置は非常に高価であり、それに漢字のフォントを載せるという事は、資源の無駄遣いと見なされる節があった。

しかし1970年代後半になると、コンピュータの普及に伴って日本語の漢字かな交じり文の情報を処理したいという需要が高まっていた。富士通の神田泰典が率いる開発チームでは、汎用機で日本語の情報処理を可能にする拡張システムJEFを開発した。

JEFは当初、富士通社内からも否定的な意見が続出するほどの期待薄な状況でリリースされたが、世間の見方は全く異なっていた。富士通による漢字かな交じり文処理の機能追加は新聞紙上で大々的に取り上げられた[6][7]。また、当時は漢字処理に対して積極的ではなかったIBMとのシェア差を逆転させるほどの効果をもたらした。

JEFによってコンピュータが日本語を処理できるようになったが、人間がコンピュータに日本語の情報を入力するための手段はまだ確立されていなかった。当時のコンピュータには、英文タイプライタを模した英文キーボードが接続されていた。コンピュータに日本語を入力するためには、日本語電子タイプライタとでも呼ぶべき装置の開発が必要であると思われた。

各コンピュータメーカーは、タブレット上に並んだ漢字をペンで選択する漢字タブレット方式や、キーボードからコードを入力して漢字を選択する漢字直接入力方式などを研究していた。しかし神田らのチームでは、このような方式は熟練した専門のオペレータでないと扱うことができず、タイプライタのように一般のユーザーが考えながら文章を入力するには向いていないと結論づけた。代わって採用したのが、キーボードから読みを入力しながら漢字かな交じり文に変換するかな漢字変換方式である。同様の方式は東芝の森健一らの開発チームでも採用し、1979年に発売された最初の日本語ワープロJW-10として結実することとなる。

かな漢字変換方式による日本語入力システムを構築する上で問題となったのが、キーボード上のキー配列である。JIS規格の日本語入力用キーボード1972年に標準化されていたが、これは[8]神田が望む条件とは異なる以下の仕様であった。

  • 1モーラを一気に(打鍵順序を考慮することなくワンアクションで)入力できない場合が多い。
    • かな入力では濁音半濁音拗音促音、「を」、句読点の入力に複数の逐次打鍵を要する。
    • ローマ字入力では「あ」「い」「う」「え」「お」「ん」を除く入力に複数の逐次打鍵を要する。
    • ただし親指シフトも、拗音の入力には複数の逐次打鍵を要する。
  • かな配列部分は英字配列部分に比べてキーの割り当て範囲が広い。
  • ローマ字入力では多数の打鍵を要し、かつ配列がローマ字入力を前提とした設計ではない。
  • ローマ字入力では、かな文字の出現頻度を考慮した文字配列ができない。

既存のキー配列によるかな漢字変換方式に満足できなかった神田は、当時新入社員であった池上良己に、日本語入力用キーボードの改良を命じた。池上が最初に研究した方式は、ローマ字入力を応用することでキーの数を削減した方式であった。この方式ではキーが一段のみに配列されており、指の移動がなく高速入力が可能と思われたが、複数のキーを同時打鍵する必要があり、うまく入力できなかった。

この方式を研究しているうちに、「親指と他の指との同時打鍵ならばストレスなく入力できる」ことを発見した。同時打鍵を親指に限るとすると、組み合わせが減るので必要なキーの数は増えるが、英文タイプライタと同じように3段にキーを配置してタッチタイピングができるようにすることは十分可能であると思われた。

次の課題はキー配列の定義であった。これはDvorak配列の設計手法を手本とした。キー配列の決定には出現頻度のデータが必要であったが、これは池上の母校である早稲田大学で音声認識の研究のために収集していたものを借用した。空いている最上段には数字と、日本語の文章でよく使う記号を入れることで、モード切り換えすることなく数字と記号を入力できるようにした。

こうして親指シフトキーボードが完成した。完成した親指シフトキーボードは、見慣れた英文タイプライタのキーボードと大きく異なる形にならずに済んだので、市場にも受け入れられるものと思われた。

[編集] OASYSの栄光と挫折

当初、日本語ワープロは非常に高価な製品であった。JW-10の価格は630万円であった。その後を追って1980年に発売されたOASYS100の価格は270万円であった。いずれにせよこの価格では企業の専門のオペレータが使う製品という位置付けにならざるを得なかった。そのような専門のオペレータだけがワープロを使っていた時代には、親指シフトの高い生産性が市場の支持を受けてOASYSはシェアを拡大し、後発にもかかわらずビジネスワープロのトップブランドの地位を確立した。

しかしOASYSの開発者たちは、そのような立場に満足してはいなかった。専門のオペレータが使用するのならば、漢字タブレット入力方式や漢字直接入力方式の方が優れている。かな漢字変換というわかりやすい方式を採用し、業界標準に逆らってまでそのためのキーボードをわざわざ開発したのは、日本語の文章を書く人すべてにとって必要となる、日本語のためのタイプライタを目指していたからである。「電卓戦争の再現」とも言われたほどの苛烈な技術革新と価格破壊を彼らが積極的に続けたのは、他社との競争に勝つためというよりも、むしろパーソナルユースに売り込むことを目指していたためであった。「いずれ1000万台売れる商品になる」というのが神田の口癖であった。

そのため、パーソナルユースを睨んだ機種として、1982年には100万円を切ったMy OASYS(75万円)を、1984年にはOASYS Lite(22万円)を投入し、家庭用ワープロの先鞭を切った。業務用の100シリーズでは公的規格であるJISキーボードを無視できず1号機から一貫してJISキーボード仕様を用意していたが、家庭用OASYSでは、親指シフトの普及を狙って、JISキーボード仕様を用意せず親指シフト仕様のみにするという戦略に出た。

1980年代半ばには、10万円を切る価格帯のパーソナルワープロも登場し、OASYSの開発者たちが夢見ていた家電製品として普及する時代となった。すると市場は、彼らにとって皮肉な反応を見せ始めた。当時、家電製品としてワープロを購入するユーザーの使用目的は「年に一度の年賀状の作成」であり、効率よく快適な文章の創作を日常的に行いたいという需要などなかったのである。そのため、以下のような理由から、市場は親指シフトに冷淡な反応を示し始めた。

  • 当初は他社からは親指シフトの製品が発売されなかった
  • 後には他社からも発売されるようになったが、それほど多くなかった
  • そのため富士通の独自規格という印象があり、将来性に不安を持たれた
  • 当時は複数のキー配列を覚えるという発想が一般的でなく、「親指シフトを覚えると他社のワープロが使えなくなる」という誤解があった。親指シフトの支持者がよく行なった「他の配列が打てなくなる」との発言がこの誤解に拍車をかけた。発言は実際には「他のお茶が飲めなくなる」と同様のレトリックにすぎず、本当に打てなくなるわけではないのだが、親指シフトを知らない者には文字通りに解釈され、誤解を生んだ。
  • 当時のワープロはもっぱら「清書機」として利用されていて、神田が想定していた「文章の創作」に対する要求が薄かった
  • 当時から存在しているかな入力と比べて、見た目での文字探しが困難であった。ゆえに「たまにしか使わない」ユーザーにとってはかえって不便そうに見えた

1986年頃からは家庭用OASYSでもJISキーボード仕様が用意されるようになった。それでもカタログの写真には親指シフト仕様を使うなど、富士通は「親指シフト仕様が基本。JISキーボード仕様も一応用意しています」という姿勢を崩さなかったが、後期には実際の出荷はJISキーボード仕様が主体になっていった。

シリーズ別に見る出荷形態の変遷
業務用(100シリーズ) 家庭用(30/Liteシリーズ他)
戦略 1号機から一貫して親指シフト・JIS配列を用意
50音配列、新JIS配列を用意した時期もある
初期には親指シフトのみ、後にJIS配列を追加
初期 親指シフトが主体 親指シフトのみ
中期 親指シフトが主体 親指シフトが主体
後期 親指シフトが主体 JIS配列が主体

1990年代に入ると、パソコンの性能向上でワープロはオフィスの主役から転落し、徐々に市場を失い始めた。新たな主役はNECのPC-9801であり、無論そこには親指シフトキーボードの姿はなかった。OASYSで親指シフトに慣れたユーザーは、ソフトウェアエミュレータの「親指ぴゅん」や、アスキーから発売されていたPC-9801用親指シフトキーボード「ASKeyboard」でしのぐこととなった。

ワープロ専用機としてのOASYSシリーズの開発は1995年に終了し、その遺伝子はWindows用ワープロソフトのOASYS 2002と、Windows用IMEJapanistに引き継がれている。

[編集] 新JISキーボード化の失敗

富士通は親指シフトキーボードのみではなくJISキーボードも併売していた(後に新JISモデルも併売することとなる)。その理由について神田は「特定企業が権利を保持し、かつJIS規格ではない親指シフトは、その性能とはまったく関係の無い理由により官公庁関連からの受けが悪い[9]」という事情があったと説明している。また、「親指シフトは独占的に使用すると決めたわけではないが、逆に他社に対して積極的に採用を働きかける行動もとっていなかった。今後は他社に対しても積極的に親指シフトの採用を提案していきたい[10][11]」との意見も表明している。一方で、OASYSと競合関係にないメーカーは親指シフトを採用した例がある。例えばソニーが発売していたエンジニアリングワークステーションNEWSには、親指シフトを採用したモデルがあった。

神田を含めて富士通自身が認識しているとおり「JIS規格として採用されていないという事実が営業活動や普及活動にとっての足かせとなっている」こと自体は否めず、また当時から既存のかな入力でもローマ字入力でもない「より効率的に日本語入力が出来る仕様」を要求する声自体はそれなりに存在していたことなども重なり、それは新JISキーボードの制定作業へとつながっていくことになった。

富士通は新規にかな配列を製作する方法ではなく「すでに販売実績があり、かつ使用者から好評を得ている」親指シフトを新JISかな配列とすることを提案した。

ところが、1986年に制定された新JISキーボードは次のようなものであった。(詳細については新JIS配列の項目を参照)

  • 1つのキーに2つの読みを定義してホームポジション上下の3段に配置し、小指外方シフト操作で選択するものとなった
    • 頻度の低い文字を打つ度に小指外方にあるシフトキーを操作するため、当時から存在した親指シフトやローマ字入力と比べて操作が煩雑になりがちだと思われた。
    • 従来からあったJISかな入力では比較的近い位置にある左小指外方にあるシフトキーを多用する仕様であったが、新JISかなでは右小指外方にあるシフトキーも多用する仕様であった(新JISでは、JISキーボードでのバックスラッシュキー位置も右小指外方シフトとなっている)。規格では「センターシフト」が許容されたが、これを採用するメーカーがなかった。
  • 濁音/半濁音は、読みに続けて濁音/半濁音キーで入力するJISと同様の方式で、2打鍵必要であった

新JISが普及しなかった理由としては以上のような「規格のデキ」とは別に、親指シフトに対し語られた事と全く同じく「普及していないものは売りにくい」という販売店側の事情が関わっていた可能性もある。 ワープロメーカーの大多数はこの新JISに「賛同したにもかかわらず」新JIS配列を標準とする機種を積極的には生産・販売せず、なかにはJISかな入力キーボードにシールを貼って入力方法を切り替えて使う方法をとるメーカーもある有様であった。

まもなく各メーカーとも採用を中止し、1999年には利用実態がないということで新JIS配列は規格上から廃止されるに至った。

親指シフトという市場にも認知されていた仕様がありながら、それを無視して新規に作成しJIS規格としたのは何故であるか。古瀬幸広の調査によれば、

  • 新JISキーボードの審議委員会は、通産省工業技術院の委員長のリードで進められた。彼はキーボードの研究をしており、新JISキーボードの仕様はその成果に基づいて定められた
  • 他の委員には「お上が決めたものには逆らえない」という空気があった
  • 他の委員は利害関係のあるメーカーの委員ばかりであり、富士通の案に賛成票を投じられるはずがなかった

ということであった。その結果、新JISキーボードへの反対票は富士通の委員が投じた一票のみとなり、親指シフトの新JISキーボード化は失敗に終わった。

[編集] 日本語入力コンソーシアムへ

新JIS化に挫折した後、富士通は親指シフトの権利を1989年に発足した業界団体「日本語入力コンソーシアム」に譲渡した。日本語入力コンソーシアムには、富士通のほか、過去に親指シフトキーボードを発売したことがあるアスキー、ソニー、リュウドなどの企業が名を連ねている。

日本語入力コンソーシアムでは、親指シフトに改善を行ったNICOLA仕様のキーボードを普及させてデファクトスタンダードとすることと、新々JISキーボード化による公式標準化を目指している。しかし、JISキーボードによるローマ字入力の使用者がコンピュータで日本語を入力する者の大多数を占めるに至った2005年現在では、これから親指シフトに移行するユーザーが急激に増えるとは考えにくく、以前からの支持者が使用を続けるに止まるものと思われる。このことは、日本語入力コンソーシアムの発足からすでに16年が経過しているにもかかわらず、これといった成果が得られていないことからも明らかであろう。

[編集] 日本語以外への応用

親指シフトの特徴である「親指と他の指の同時打鍵により一つのキーを3通りに活用する」という考え方は、日本語以外にも応用の可能性がある。

世界で使用されている言語の表記方法はさまざまで、例えば文字の数も英語と同じ程度から漢字のように数千~数万に及ぶようなものまで多様である。このため、もともと英語の入力のために作られているQWERTYキーボードを英語以外の言語の入力に使おうとすると何らかの工夫が必要となる。例えば、(1)日本語におけるローマ字入力のように発音のアルファベット表記に沿った形で入力する方法や、(2)日本語におけるかな入力のように文字あるいは文字の構成要素を適宜キーの上に配置する方法等がある。

いずれの場合もある意味で「間に合わせ」のやり方にならざるを得ないところがあり、特に(1)については、アルファベットの出現の頻度や続き具合がさまざまで、QWERTY配列が適切なものになることは保証されない。また、(2)については、文字の数がアルファベットに比べて多いためにタッチタイプがし易いホームポジションとその上下を含む計30のキーに納まりきらない場合が多いこと等の問題が起きることがある。

親指シフトはこうした問題の解決に役立つ可能性がある。すなわち、(1)タッチタイプがし易い30キーに小指シフトによる活用を加えても60文字なのが90文字にまで拡大する、(2)親指によるシフトに言語固有の特徴(例えば声調)を付与することにより習得が容易になる、等の利点が考えられる。

親指シフトは当初、日本語のワープロ専用機という他への移植がしにくいプラットフォームに採用されたこともあり、日本語以外への実装は行われていない。理論的なモデルについては、いくつかの例がある。富士通の菅野じん等による特許が、中国語、ハングル、ベトナム語、ビルマ語、チベット語、イ語についてある。また、横浜国立大学の村田忠禧は中国語について別の提案をしている。

これらのモデルには、すでに述べた利点が織り込まれていることが分かる。例えば、ベトナム語やイ語においては、親指によるシフトが母音の声調を区別するのに使用されている。また、村田案の中国語においてはクロスシフト(文字キーと反対側の親指によるシフト)に特別な漢字を割り当てている。

これらに加え、親指シフトに限ったことではないが、ソフトウェア的制御の活用により、こうした言語における入力方法を容易にすることが可能になる。例えばハングルの入力においてはホームポジションのキーに子音と母音を共通して割り当てているが、これは入力の順番でどちらを入力しているかをコンピューターが判断するというやり方を採用している。また、チベット語では、入力に対する結果をユーザーが選択するやり方を採用している。

[編集] ソフトウェアエミュレーション

本記事冒頭の写真のような専用の親指シフトキーボードを使用できない、あるいは使用したくない場合は、JISキーボードなどの他の配列のキーボードの上に、ソフトウェアのみで親指シフトを実現することもできる。このために使用するソフトウェアを親指シフトエミュレータという。以下本項では単にエミュレータと呼ぶ。

キー配列を変更するためのソフトウェアをエミュレータと呼ぶことに違和感を覚える人もいるかもしれないが、次のような理由から伝統的にエミュレータと呼ばれている。

  • 単に文字入力を置き換えるのではなく、親指シフトキーと文字キーの同時打鍵判定が必要である
  • 本来は専用のキーボードが必要なものをソフトウェアで代替しているという認識がある
    エミュレータ黎明期にはユーザの多くがOASYSやパソコン用の専用の親指シフトキーボードからの移行であった

今日では専用の親指シフトキーボードに触れたことがないユーザも増えたが、上記のような理由からエミュレータという呼び名が残っている。

[編集] エミュレータと実機の違い

専用の親指シフトキーボードによる親指シフトと、エミュレータによる親指シフトには以下のような違いがある。

[編集] 親指シフトキーの機能

専用キーボードには独立した専用の親指シフトキーがあるが、エミュレータでは既存のキーボードを利用するため、あるキーにそのキー自身の機能と親指シフトキー機能の2つの機能を持たせて使うことになる。このキーは文字キーと同時打鍵すると親指シフトキーとして動作し、単独で打つと本来の機能として動作する。そのため操作に習熟するまでは親指シフトキーとして打ったつもりが本来の機能として働いてしまったりまたその逆になったりすることがあり、専用の親指シフトキーボードを使用していたユーザーはストレスを感じることがある。慣れれば実際の使用感は専用キーボードと変わらなくなってくるが、片手打ちなど正規の指使いでない場合は、専用キーボードの方が融通がきくことが多い。

JISキーボードを使用する場合は、変換/無変換キーまたはスペースキーを親指シフトキーとして使用することが多い。

ちなみに専用の親指シフトキーボードでも、変換/無変換キーと親指シフトキーを共用することをNICOLA仕様では認めている。(#NICOLA仕様配列参照)

[編集] 親指シフトキーの位置

既存のキーを親指シフトキーとして使わなければならないため、親指シフトキーとして使用するキーが親指の直下になるとは限らず、操作にストレスを感じる結果となることがある。そのため、ソフトウェアエミュレーションで快適に親指シフト入力を行うには、同じJISキーボードでも親指シフトキーとして使用するキーが親指の直下に位置するものを選ぶ必要がある。

[編集] 同時打鍵の判定

エミュレータでは同時打鍵として認識する許容時間を専用キーボードより短く設定する傾向がある。これは上記のごとく親指シフトキーを他のキーと兼用するために生ずる誤判定を減らそうという意図によるものである。OASYSの親指シフトキーボードでは、親指キーを先に押した場合はどんなにタイミングがずれても許容された。文字キーのほうが一瞬早かった場合は数百ミリ秒のズレを許容する。エミュレータ(後述)では親指キー・文字キーのどちらが一瞬早かった場合でも数百ミリ秒のズレを許容する。多くのエミュレータはこのタイミングを細かく設定できる。

タイミングのズレの許容範囲
OASYS エミュレータ パソコン用専用キーボード
親指キーが先行 無制限 数百ミリ秒 物により異なる
文字キーが先行 数百ミリ秒 数百ミリ秒 数百ミリ秒

[編集] 刻印の有無

実機ではキートップに親指シフト配列の仮名が刻印されているが、エミュレータではキートップに親指シフト配列の仮名が刻印もしくは表示されていないキーボード(いわゆるJISキーボードなど)を親指シフト化して使用することが多い。この場合、ステッカーなどを貼り付けてNICOLA刻印を再現しないかぎりキーボードの刻印を見ながら文字入力を行うことが不可能であり、タッチタイプでの入力が前提となる。この事はサイトメソッド(いわゆる一本指打法)が使えないという欠点とも、盤面を見る悪習がつかないという利点とも言える。親指シフトは前述のとおりもともと盤面を見る悪習がつきにくいが、エミュレータではこの利点がさらに強調され、つきにくいを通り越して絶対につかない。

[編集] エミュレータ一覧

エミュレータには以下のようなものがある。各プラットフォームに対応する様々なエミュレータが主に個人の親指シフト支持者によって作成されており、熱心な支持者が少なくないことを物語っている。

[編集] エミュレータを内蔵した日本語IME

Windows(32bit)用

UnixLinuxなど)用

[編集] 単体エミュレータ

個人が作成し、フリーウェアまたはシェアウェアとして配布しているものが多い。

Windows(32bit)用

Windows CE

Mac OS(OS9以前)用

  • ニコラアシスト
  • Nickey

Mac OS X

Unix(Linuxなど)用

Emacs

MS-DOS

[編集] 参考文献

[編集] 外部リンク

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