深海
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深海(しんかい)のはっきりした定義はないが、温度差によって表層の海水が対流を起こすのが水深200mまでとされている。現在のところはこの水深200m以深を「深海」として扱うことが多い。これは地球の海全体の、約95%にもあたる広大な世界である。世界最深の海底は、西太平洋のマリアナ海溝・チャレンジャー海淵で、海面下10920±10mである。
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[編集] 深海に分布する海水
深海には深層水と呼ばれる、表層とは違った物理的・化学的特長を持つ海水が分布する。表層と違い風の影響を受けないが、地球上の2箇所(北大西洋のグリーンランド沖と南極海)で形成される深層水(北大西洋深層水と南極低層水)は熱塩循環によってゆっくりと世界中の海洋を移動している。
また、北太平洋には深度数百mに北太平洋中層水と呼ばれる海水が分布することがわかっている。
[編集] 生物
過酷な深海では、俗にいう「深海魚」など、浅い海では見られない異形の動物が多く生息する。しかし深海生物は現代では意外と身近な存在でもある。サクラエビ、ヒゲナガエビ、ホッコクアカエビ、タカアシガニ、ズワイガニ、タラ、キンメダイ、アコウダイ、メルルーサなど、漁具や冷凍・運搬技術の発達により、食用として流通するようになった深海生物は枚挙にいとまがない。
沿岸域からも遠く、光も届かない深海では、光合成をする生物はもちろん生存できない。水深400m以深では太陽光がほとんど届かなくなり、さらに水深600-1000m付近では酸素極小層(溶存酸素量が極端に少ない層)ができる。これは上層から降下してくる有機物を細菌が分解する時に、水中の溶存酸素を使うため、この深度では酸素が使い果たされてしまうのである。酸素極小層ではさすがに生物の姿もまばらになるが、ここを過ぎると溶存酸素量がわずかながら増え、生物の密度もわずかに上がる。
[編集] 化学合成生態系
また、深海での食物連鎖は、海の表層から降下してくる有機物に依存するところが大きいと思われていたが、1970年代から各国で進められている深海探査により、深海には太陽エネルギーに頼らない特殊な生態系が存在することが明らかになった。このように太陽のエネルギーに頼らない生態系を化学合成生態系という。
海嶺や海底火山の周囲にある熱水噴出孔では、300℃以上もの熱水が噴き出しているが、噴出孔の周囲には熱水中に含まれる硫化水素をエネルギーにして生存する化学合成細菌が無数に繁殖している。これらを体内に共生させるチューブワーム(ハオリムシ)やシロウリガイ、細菌を餌にするカイレイツノナシオハラエビ、さらにそれらの生物を餌にするイソギンチャク、シンカイコシオリエビ、ユノハナガニ、ゲンゲなどが世界各地の熱水噴出孔で次々と発見され、世界中を驚かせている。
生物の生息密度は、ふつう沿岸から離れた深海ほど低くなるが、熱水噴出孔の周囲は浅い海もかくやというほどの高密度で生物が生息しており、まさに生命の神秘をうかがわせる。
[編集] 深海探査
新たな水産資源や鉱物資源を深海に求める機運もあり、1970年頃から各国が深海探査に乗り出すようになった。これまでに新種の生物やメタンハイドレート、マンガン団塊などが次々と見つかっているが、まだまだ深海は人類にとって宇宙と同じく未知の世界といえる。
各国の所有するおもな深海探査船には次のようなものがある。
[編集] しんかい6500
日本の所有する有人深海探査船は「しんかい2000」と「しんかい6500」だが、しんかい2000は2003年に引退し、現在はしんかい6500だけが稼動している。
しんかい6500は名のとおり水深6500mまでもぐることができる。3名搭乗できるが、うち2名はパイロットで、オブザーバー(深海調査を行う学者)は1度に1名だけ搭乗する。およそ秒速70cmで潜水し、水深6500mまで2時間ほどで到達する。一度の深海探査は9時間程度である。
[編集] かいこう
同じく、日本の所有する無人深海探査機(直接の搭乗員はおらず、母船とはケーブルで繋がった状態で深海探査を行う)としては「かいこう」、「UROV7K」、「ディープ・トウ」、「ハイパー・ドルフィン」、「うらしま」などがある。このうち、もっとも深く潜航できるのが「かいこう」である。
かいこうはもともと、「ランチャー」という親機と「ビークル」という子機からなっていた。2つが繋がった状態で水深7000mまで潜水し、さらにビークルを分離することで世界のどの探査機より深い水深11000mまで潜水することができた。しかし2003年にケーブルが切れ、ビークルを失う事故が発生した。このため現在は別の無人探査機「UROV7K」を改造してビークルの代用に充てている。なおUROV7Kの潜航深度が7000メートルであるため、現在は「かいこう7000」として運用中である(※)。ちなみに7000メートルであっても潜航深度としては世界のどの探査機よりも深い。
※「かいこう」ランチャー自体は現在も11000メートルまで潜航可能であるが、ランチャーには探査機能がないため。
[編集] アルビン
アメリカ合衆国が所有するアルビン号は、水深4,500mまで潜水できる有人深海探査船である。3名搭乗できるのはしんかい6500と同じだが、内訳はパイロット1名、オブザーバー2名である。
1964年完成の古い探査船だが、いまだに現役で、これまでに数々の発見をしてきた。世界中の深海探査船の潜水時間を合わせてもアルビンの潜水時間に及ばない。
[編集] ミール
ミールといえばロシア所有の宇宙ステーションが有名だが、ここで挙げるのは同名の有人深海探査船である。アルビンと同じく6000mまで潜水でき、深海に沈むタイタニック号を撮影したことでも知られる。