放送倫理・番組向上機構
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放送倫理・番組向上機構(ほうそうりんりばんぐみこうじょうきこう、Broadcasting Ethics & Program Improvement Organization、略称BPO)は、人権や青少年と放送の問題を中心とした、放送番組に対する苦情を受け付け、審議を行い、各放送局へ意見を伝え、番組品質の向上に役立てようとする任意組織。
なお、BPOに置かれた各委員会の出す勧告・見解等に法的拘束力はなく、各放送事業者がその内容を尊重し、番組向上に向けて自主的に取り組むものとされている。
ロゴマークは、BとPの間に人間のシルエットを導入している。
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[編集] 設立経緯
郵政省に設置された「多チャンネル時代における視聴者と放送に関する懇談会」が、1996年12月に出した報告書の中で、「視聴者の苦情に対応するための第三者機関を設けるべき」との意見が盛り込まれたことを受け、日本放送協会(NHK)と日本民間放送連盟が1997年5月に「放送と人権等権利に関する委員会機構」(BRO)を設置。BROのもとに、第三者の有識者で構成される「放送と人権等権利に関する委員会」(BRC)が置かれた。
BROは機能強化のため、「放送と青少年に関する委員会」と「放送番組委員会」を擁する放送番組向上協議会と2003年7月に統合し、放送倫理・番組向上機構(BPO)に改組された。
[編集] 機構
最高意思決定機関は、「理事会」。放送事業者及びその関係者以外から専任された理事長と、設立母体であるNHK・民放連から専任された8名以内の理事で構成される。 理事会は、評議員を選任する。(評議会については以下で詳述。)
理事会のもとで、日常の業務を行う事務局が設置されている。
なお、政府からの独立性を理念の一つとしているため、放送の所管官庁である総務省との人的・財的つながりは無い。
【理事長】
[編集] 評議会
放送事業者及びその関係者を除く7名以内の学識経験者で構成される。 評議会は、下部の三委員会の委員を選任する権限を有する。
【評議員】
- 生田正輝(慶應義塾大学名誉教授) (議長)
- 堤清二(〔財〕セゾン文化財団理事長)
- 津村節子(作家)
- 西澤潤一(首都大学東京学長)
- 濱田純一(東京大学理事・副学長)
- 半田正夫(青山学院常務理事、元青山学院大学学長)
- 三浦朱門(作家)
[編集] 下部委員会の役割・機能
[編集] 放送番組委員会
放送番組の向上に向け、視聴者の意見等も参考にしつつ、懇談を行う委員会。放送業界外部からの「有識者委員」と、放送事業者の編成担当局長である「放送事業者委員」から構成されている。
【有識者委員】
- 天野祐吉 コラムニスト、編集者、童話作家 (委員長)
- 田中早苗 弁護士 (副委員長)
- 石田佐恵子 大阪市立大学大学院文学研究科助教授、社会学博士
- 市川森一 脚本家、日本放送作家協会理事長、シアター1010館長
- 上滝徹也 日本大学教授、放送批評懇談会常務理事
- 清水哲男 詩人
- 吉岡忍 作家
- 米原万里 作家、ロシア語通訳
【放送事業者委員】
- NHK 編成局長
- 日本テレビ放送網 取締役執行役員編成局長
- TBS 取締役編成局長
- フジテレビ 編成制作局長
- テレビ朝日 編成制作局長
- テレビ東京 取締役編成局長
- 関西テレビ 編成局長
- ニッポン放送 取締役編成局長
[編集] 放送と人権等権利に関する委員会(BRC)
放送番組において人権侵害を受けたと考える者による「申立て」に基づき、実際に人権の侵害があったかどうかを検討する委員会。具体的な番組で具体的な個人・企業等の組織が被害を受けたとする場合でなければ、審理の対象とはならない。
この委員会の出す決定には「勧告」「見解(問題あり)」「見解(問題なし)」の三種類あり、重大な人権侵害があったと認定した場合には「勧告」、重大な人権侵害は存在しないものの、制作・編集過程に若干の問題があった場合には「見解(問題あり)」、放送事業者の対応に人権上の問題が見られなかった場合には「見解(問題なし)」が出される。
【委員】
- 竹田稔 弁護士・元東京高等裁判所総括判事 (委員長)
- 堀野紀 弁護士・元日本弁護士連合会副会長 (委員長代行)
- 五代利矢子 評論家 (委員長代行)
- 右崎正博 獨協大学法科大学院教授
- 崔洋一 映画監督
- 武田徹 ジャーナリスト・評論家
- 中沢けい 小説家・法政大学教授
- 三宅弘 弁護士・前第二東京弁護士会副会長
[編集] 放送と青少年に関する委員会(青少年委員会)
視聴者からの苦情等に基づき、放送による青少年への影響を検討し、放送事業者に文書で回答を求めたり、改善を求める委員会。 討議の結果、「見解」「提言」「声明」等を公表する。
【委員】
専門:児童学、児童文化論、児童史研究
専門:子ども論、子ども文化論、55歳時に小学校に転入し1年間小学生を体験
専門:情報行動論、メディア利用の社会的な動態に関する研究
- 鈴木秀美 大阪大学大学院高等司法研究科教授
専門:マスメディア法、ドイツ憲法学、放送メディアと青少年保護
- 橋元良明 東京大学大学院情報学環教授
専門:マスコミュニケーション論、情報社会心理学
[編集] 活動例
- 24時間テレビ 「愛は地球を救う」について、出演者のタレントに法外なギャラが出ているとの噂を否定。青少年委員会 放送局への回答要請
- フジテレビの「めちゃ²イケてるッ!」の1コーナー「七人のしりとり侍」と、テレビ朝日の「おネプ!」の1コーナー「ネプ投げ」(出演者がこの企画をやめたいという説も)において、暴力表現やわいせつ表現が含まれていて青少年に悪影響であるとの視聴者の一部からの苦情が相次いだことを受け、青少年委員会が対応を協議。2000年11月に当該2コーナーについて、「問題あり」との指摘をしている。この結果、両放送事業者は、当該番組中問題があると指摘されたコーナーを中止した。委員会見解全文
- 2003年、アニメ番組「機動戦士ガンダムSEED」について、夕方6時からの放送にも関わらず性行為を想像させるシーンを放送したことで、MBSに回答要請した。なお、続編の「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」についても同様に「放送と青少年に関する委員会」で議題となったが、回答要請は行われなかった(2005年)。
- 2003年、他の放送局では深夜の時間帯に編成されていたアニメ番組「らいむいろ戦奇譚」を、夕方6時からに編成したサンテレビジョンに対し、2回に渡って回答要請した。なお、この件が関係しているかは不明であるが、サンテレビに限らず、全国各地の地方局などでの夕方時間帯におけるアニメ番組は、この時期を境に(昭和60年代以前の作品の再放送を除いて)編成を取りやめる局が相次いだ。
- 2004年6月、総務省がテレビ朝日及び山形テレビにおける誤編集や政治的公平性への配慮の欠如に関し、厳重注意をする旨の行政指導[1][2]を行った。これに対し、BPOは同年11月、「放送の自律や放送界の第三者機関に対する信頼を危うくするおそれが極めて強いと判断せざるを得ない」とし、抗議する旨の声明[3]を発表した。この声明の中でBPOは、総務省がBRCの事実認定や判断を踏まえて行政指導を行ったことに関し、「二重の処分(制裁)を受けたことを意味するとともに、第三者機関としてのBRCの存在意義を甚だしく軽視するものである」と指摘した(なお海外においては、放送事業者に明らかな不備がある場合は、議会や許認可権がある省庁が批判や苦情、警告を発したり、場合によっては罰金を科す事は普通にあることに留意されたい。)。
- 2004年12月、青少年委員会で、血液型性格判断を取り扱った民間放送のテレビ番組について、視聴者から寄せられた苦情を踏まえ、内容についての配慮を各社に要望した。しかし結局このことは全国に回ってしまい、間違った常識となってしまったので後の祭りであった。
- テレビ大阪の深夜番組「フットボール汗」(関西ローカル番組)で漫才コンビ「フットボールアワー」が街角で女性に声をかけて、相手が応じればキスをするコーナーで、女性が拒否したにもかかわらず岩尾望が強引にキスをしようとした行為があり、2004年12月に女性がBPOに訴えた結果、人権侵害の可能性を指摘されてコーナーが打ち切られた。(番組自体も2005年3月で終了された)
- タレントのレイザーラモンHGについて、視聴者から「下品だ」「子どもの見る時間帯に放送すべきではない」などの意見が多く寄せられていることについて2005年10月から青少年委員会が審議。日本テレビ及びTBSに文書で回答を求めた。[4]両局は回答の中で、「本人に同性愛者への差別意識はなく、現状同性愛者からの批判的なご意見は皆無」「本人もいわゆる下ネタは使用せず、奇抜なファッションとパフォーマンスで視聴者を楽しませるパフォーマーに徹している」「レイザーラモンHG氏自身は「HG」の意味を“ハードな”“芸風”の略であると言っており、番組の主旨と彼の芸風を合わせて“ハードなものに挑戦する”というコンセプトで、“世直し”“人助け”“巨大企業に挑む”などのコーナーを設けている」「視聴者の方々からのご意見も踏まえ、直接子供たちと接するという構成は中止した」と説明。委員会は、レイザーラモンHGの出演自粛勧告や是正提言等の特段の措置は行わず、「今後とも一層の配慮を求める」との方向で当面の対応をする方針。[5]きっかけとなった番組「爆笑問題のバク天!」は2006年3月で終了。同じくきっかけとなった番組「ラジかる!!」は、「ラジかるッ」へ時間帯の変更などのリニューアルが行なわれたものの、コーナー等は前番組をほぼ引き継ぐかたちで構成されており、レイザーラモンHGも引き続き出演しているのが現状である。
- タレントの杉田かおるの元夫である投資会社社長の鮎川純太が、杉田が関西テレビの「たかじん胸いっぱい」に出演して鮎川との結婚生活等を赤裸々に語ったことに関し「バラエティー番組における元妻の発言等によって、名誉・プライバシー権の侵害を受けた」として人権委員会に申し立てた。委員会は2006年1月から3月にかけて4回の審理を経て、「鮎川の名誉・プライバシーを侵害した」と認定。再発防止に向けた製作体制の整備を勧告する旨の処分を下した。この「勧告処分」は、人権委員会決定の中で最も重いもので、バラエティ番組に関して勧告処分が下るのは人権委員会の設置以降初のケースとなった。しかし、人権委員会よりもたかじんの影響力がはるかに強大であるため、処分後も番組のスタイルは全く変わっていない.
[編集] 問題点・BPOに対する批判
- 「政府からの独立性を保ち、なおかつ放送事業者の外部に設置する機関」という理念で設立されたものの、実質的には人材や財政基盤を、設立母体であるNHKや民放連に頼らざるを得ない点などから、「実質的な運営についてNHK・民放連の影響を強く受けている」との指摘もあり、また放送事業者に対する勧告や提言に法的な拘束力が無いことから、「実効性が無いテレビ局のお手盛り機関」「馴れ合い機関」「張子の虎」との批判がある。
- BPOへの苦情の申し立ては、番組により被害を蒙った直接の個人(または団体)当人でなければならない(代理人を指名するのは原則不可)。また、裁判で争っているものや損害賠償を求めるものは受理されないとされる。つまり、放送被害者が、自分で訴訟を起こしても赤字になるから、仕方なしに事実だけでも公にしたいなどの特殊な理由でもなければ、BPO経由で苦情を申し立てるのは殆ど単なる無駄である。何故なら、放送事業者は、BPOの仲裁が成立すれば訴訟と賠償金を示談で回避できるという一応のメリットがあるが、被害者は、BPOへの申請条件により、BPOへ仲裁を希望した時点で、仲裁で納得せざるを得ない状況に自分の身を置いたも同然だからである(もちろん、仲裁に同意できなければ、改めて訴訟を起こすことはできるが、それなら最初から訴訟を起こせば済む話である。)つまり、BPOの仲裁の成立案件というのは、被害者が自腹を切って加害者と示談するという、なんとも奇妙なシステムとなっている。これにより、前記の「実効性が無いテレビ局のお手盛り機関」「馴れ合い機関」「張子の虎」との批判へと繋がるわけである。
- 一方、日本PTA全国協議会等によるいわゆる「低俗番組批判」の高まり等の影響を受け、具体的なバラエティ番組名や番組コーナー名を挙げて青少年への悪影響を懸念する趣旨の見解や提言を積極的に発表しており、実際にいくつかの番組やコーナーが中止や内容変更を余儀なくされたことから、若年層を中心とする番組ファンからは「PTAの手先」「番組つぶしの受付窓口」との批判の声もある。
- 明らかに的外れで身勝手な意見と考えざるを得ないような、私的憎悪や強引なこじつけによるクレームも多数寄せられており、番組向上に資する建設的な意見と同一視してしまうのではないかという懸念も指摘されている。何かと「子供に悪影響が~」と子供が不愉快に思っている様な意見を送る視聴者もおり、「自身の教育が成っていない事を、番組のせいにして逃げているだけ」という意見が若者を中心に多い。