ラグジュアリーカー
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ラグジュアリーカーとは、豪華さ(luxury)を備えた高級車の事である。転じて、主として高級車とされる車両(車両形状は不問)に独自のセンスでさらに高級感を演出しようとするカスタム手法を施した車両のことである。
一部では「ラグジー」または単に「ラグ」と略される事もある。
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[編集] 概要
[編集] 起源
ラグジュアリーカスタムは、北米におけるDUBカスタムをモチーフとして日本国内に導入したカスタムジャンルの一種である。 DUBとは「double dime」のスラングで、20インチ超の巨大なサイズのホイール(特にクロームがけされたホイール)のことを指す(dimeは10セント硬貨の意で10を指す隠語)。DUBカスタムはこれをベースに高級車、またはエキゾチックカー(時にはヒストリックカー、ビンテージカーも含まれる)に、元より持っている高級感をさらに北米のセンスで資金を惜しまず潤沢に演出したものであり、ビバリーヒルズに住むようなセレブリティ、特に著名なラッパーやスポーツ選手の間で成功の象徴として流行した(日本において「ラグジュアリー」と呼ばれる所以はここにある)。 スポーツ選手の場合、特にNBA選手らの間で流行していたことからDUBを指して"ボーラースタイル"と呼ぶこともある。また彼らの中の一部には元ギャング出身者もいることから、そのスタイルをモチーフとすることもある。
これらは現在でもアメリカン・ドリームの具体的なイメージとしてヒップホップ等のプロモーションビデオに頻繁に登場する。"黒人の成功者"がDUBカスタムの中心にいることが多く、またそのファッションなどのライフスタイルも同時にフィーチャーされるため、時としてこれをヒップホップ文化の一部として、あるいはヒップホップのライフスタイルから派生した文化として見る動きもある。
発祥は1990年代であり、カスタムジャンルとしての歴史は浅い。 そのルーツは西海岸におけるチカーノらによって行われていた「ローライダー」にあるとされており、そこから主に黒人たちを中心に高級志向へと派生していったといわれている。カスタム手法においてもいくつかの類似性が見て取れる(クロームが施された部品の多用や高級素材を用いた内装の製作、オーディオ類の選択傾向など)。
ベースとなる車両はいわゆる「高級車」であるが、その内容はフェラーリやランボルギーニ等のエキゾチックカー、ハマー・H2、シボレー・アバランチ、キャディラック・エスカレード、インフィニティ・FX等のLUV・ピックアップ・クロスオーバー、あるいはキャディラック、リンカーン、クライスラーのほかメルセデス・ベンツや、BMW、ジャガー、レクサス、インフィニティ、アキュラ製の高級クーペ・セダン等様々で、ベース車両自体の形状についてはあまり問われず、その後のカスタム過程において如何に華やかさを演出できているかが重要視されている。
日本国内への導入は、1990年代後期に従来ミニトラックやピックアップを改造した所謂トラッキンと呼ばれるカスタムを行っていた人々や、ローライダーのほかアメリカ製のSUVやバンをカスタムしていた人々らによって、現地のショーやメディアに露出しだしていたDUBカスタムを既存ジャンルの延長上の手法として取り入れることにより行われた。
[編集] 日本におけるラグジュアリーカスタム
日本国内においてラグジュアリーカスタムの対象となる車種はそのモチーフにより北米で販売されている車となる(よって北米で販売されていないセンチュリー、クラウンやプレジデント、ローレル等のラグジュアリーカスタムはありえない)。愛好家たちにラグジュアリーベースと認知されているのは現地にて高級車としての触れ込みで販売された車両が多い。元々のモチーフとなったDUBカスタム自体は年代を限定するものではないが、ビンテージカーはローライダーと区別するために、国内においては対象からは除外される傾向にある。この場合発売元メーカーの国籍・形状は問われず様々であるが、日本においてはベースの入手のし易さにより、国産、アメリカ産のミドルセダンからビッグセダンが主流となっており、次いで多いのはアメリカ産SUV・国産SUVである。それ以外の国籍・車両形状のカスタム車両も多数存在している。
DUBを意識した北米志向の強いカスタムであることから時にUSDMに含まれることもある。
[編集] 主な改造方法
以下は改造方法のごく一例である。
- その発祥の由来により、多くの場合ベースの車両の外装にUSDMの要素を加味することが行われる(日本車の場合にはエンブレム・グリル等の外装小物の変更を行っているものが多い)。
- 北米にて販売されている大径ホイールの装着(サイズは19インチ~30インチまで様々である)。この場合高級感のあることと共に、時にはその希少さや人目を引くデザインであることも重視される。これは愛好家たちにとってホイールは指輪などの高級アクセサリーに近い意味を持っているからであり、そのために非常に凝った(実用性には目を瞑り完全にデザインに注力したような)造型のものが選択されることが多い。しかし車両本来の持つ全体の雰囲気を打ち消すようなサイズ・デザインは上記同様に敬遠される傾向にある。
- スモークフィルムを装着することがあるが、その際は黒色・茶などよりも薄緑や薄青などの明るい色のカラーフィルムを選択する場合がある。
- スピナー(スピンナー)と呼ばれる、ホイール本体とは別に独立回転するホイールアクセサリーを装着することがある(これは日本の公道で使用すると、時として公安に危険物と判定され検挙される場合がある)。サイズはホイールと同等か、それ以上のものが選択される傾向にある。
- 多連装モニターの装着(これは少し前に北米のカスタム全般で流行っていたスタイルであり、必ずしも主流ではない)。
改造志向としては、高級感を出しつつシンプルで落ち着きのあるスタイルでまとめるといった感じであり、類似したコンセプトを標榜するVIPカーとは大きく異なり、乗り心地や静粛性などといった車内外環境の快適さは殺さずにカスタムする場合が多く、派手さはあまりないのが基本と言える。
[編集] 備考
- 大径ホイールは高価であり(最低でもホイールのみで30万円前後、高いものになると300万円を超え、とある30インチのホイールに至っては1700万円の値がつけられている)、オーディオ類、快適装備の充実を行い、日本車などをベースとした場合にはさらに外装のUS化も推し進めると車両本体と同程度、あるいはそれを上回るカスタム費用を要することがままある。
- ラグジュアリーカーはVIPカーとは異なり、元々の明確なモチーフが存在する。つまり両ジャンルには関連性は無いのだが、セダンが主流となっているためにベース車両の類似性から(カスタムのベースとなる車種の多くはVIPカーのベースと一致するものではないのだが)ラグジュアリーカスタムを語る者の中にはVIPカーそのものの手法を施した(主に”日本的な”派手さを備えた)車両も多く存在し、またラグジュアリーカーを扱う一部のショップではVIPカーも扱っている事、一部の自動車専門誌ではラグジュアリーカーの要素を取り入れたVIPカーをラグジュアリーカスタムと同じように扱っている事があるなどの理由から、その方向性はVIPカーとあまり変わらないものと同一視する者も少なくない。
- 主に国産セダンを用いた場合、改造ポイントがVIPカーとキーワードとして共通している部分があり、中にはその由来を無視してラグジュアリーカスタムに移行した元異ジャンルのカスタマー(≒カスタムを行う人々)により大型マフラーへの交換、社外エアロパーツの取り付けなどを施されている事もある(これらはラグジュアリーカスタムが現状では正しく認知されていない部分があることを示す要素でもある)。しかしこれらはラグジュアリーカー本来のカスタムではないため、通常のカスタマーからは敬遠されている。それらを追い求めた時点でラグジュアリーカーはVIPカーへと変貌してしまうため、注意が必要である。ラグジュアリーカスタムを行う上では、明確なポリシーが必須と言える。
- 上記のような元来のラグジュアリーカスタムを無視したカスタムはタブーの領域である為、この分野の愛好家は同一視されることを嫌う傾向があり、交流を行っていることが少ないとされている。また、この交流が少ない事が災いし、元来のラグジュアリーカスタムを正しく認知できない者が増える要因にもなっている。
- 元々高級な車をさらに(独自のセンスで)高級にする、というラグジュアリーカスタムのコンセプトは、ある意味では矛盾しており、また純正のバランスのとれた高級感を少なからずかき消してしまう可能性もある事、またそのカスタム手法が見方によっては「成金的」である事から、例え高級車オーナーであっても嫌っている者もいる
- なお、ラグジー自体は、経済的に成功した新興成金が、元々希少でブランド性がある高級自動車に、あえて自動車としての機能性を無視したような、ギラギラした派手なモディファイ(例えば超大径のメッキホイールが代表格)を行うことで、それだけの無駄を行う経済力の余裕がある自己を誇示する事で、車としての性能やデザインのまとまりを重視した既存のブランド・モディファイとは一風変わった希少性を自己主張するものである。従って、成金趣味であることには違いない。ただ、当人がそれをストレートに自覚し、むしろプラスに捉えてやっていると言うだけである。
- 前述のように、あくまで経済的に成功した成金である自覚がある上で、車も単なる道具に過ぎないという、ある種クール・乾いた視点なので、パーツなどはワンオフではなく、値段は高いがショップでカタログモデルとして注文可能なパーツ、あるいは特注と言っても、ショップで施工可能なレベルの加工しか行わないのが普通である。ヨーロッパ・中東系の裕福なエンスージアストのように、財力を生かして自動車メーカーそのものやメーカー専属の開発工房に特注車両の製作をオーダーをしたりはしない。
- なお、車両販売時からラグジュアリーを売りにしている車両も存在する。
- 都市圏においてはアメリカ車や欧州車の高級車を使用したラグジュアリーカスタムが多く見られる。
- USDM同様にオーナーたちは車のカスタムに限らず、自身の生活スタイルにもアメリカ文化の一部を取り入れる傾向がある。
- 国内の著名人やスポーツ選手等にもこのカスタムの愛好家がいる(ロッテ・西岡選手のハマー・H2など)。