ラインハルト・フォン・ローエングラム
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ラインハルト・フォン・ローエングラムは、銀河英雄伝説の銀河帝国側主人公。旧姓ミューゼル。
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[編集] 略歴
帝国暦467年(宇宙暦776年)、帝国の首都星オーディンに下級貴族セバスティアン・フォン・ミューゼルの長男として生まれる。
幼い頃、事故で母クラリベルを失い、5歳年上の姉アンネローゼにより育てられる。父親が財産を食いつぶして下町へ移り住む事となったが、そこで唯一無二の親友であり、後に盟友となるジークフリード・キルヒアイスと出会い、共に少年時代をすごす。
10歳の時、アンネローゼが宮内省の役人に見いだされ、皇帝フリードリヒ四世の後宮に召された。ラインハルトは姉を奪ったゴールデンバウム王朝と皇帝を激しく憎悪し、これがきっかけとなって門閥貴族による専横がまかり通っている帝国の現体制に疑問を持つようになる。そして姉を取り戻すため、ゴールデンバウム王朝を倒し、帝国の現体制を変える事を密かに誓う。この決意を唯一知らされたキルヒアイスも同意し、最も早く栄達するための方法として軍人になる道を選び、二人で帝国軍幼年学校に進む。幼年学校卒業後、通常は准尉に任官するところ、特別待遇で少尉から軍歴を開始する。初陣は願っていた宇宙での艦隊勤務ではなく、惑星カプチェランカでの地上戦。その後中尉として駆逐艦ハーメルンIIの航海長、第5次イゼルローン攻防戦では、少佐として駆逐艦艦長、中佐として巡航艦ヘーシュリッヒ・エンチェンの艦長、大佐として憲兵隊勤務、准将としてヴァンフリートの会戦に参加、第3次ティアマト会戦時には中将、第4次ティアマト会戦時には大将として戦った。参加した戦いでは天賦の才を発揮して数々の軍事的功績を挙げ、20才にして上級大将となり、断絶していたローエングラム伯爵家の名跡を継ぐと言う異例の出世を果たす。また、そこに至る戦いの中で、後の臣下となる優秀な人物に出会っていった。しかし、門閥貴族や軍上層部からは、皇帝の姉に対する恩寵による出世と嫉まれ、「スカートの中の大将」と揶揄された。ベーネミュンデ侯爵夫人やフレーゲル男爵にはしばしば命を狙われて何度か絶対絶命の危期に陥ったが、キルヒアイスの活躍もあり暗殺の魔の手から逃れつづけた。(皇帝になってからも暗殺者に狙われた事は度々あり、キュンメル事件、ウルヴァシー事件、ルビンスキーの火祭りによるハイネセンの大火、地球教徒による最後の襲撃などが起こっている。)
アスターテ会戦の功積で帝国元帥・宇宙艦隊副司令長官、アムリッツァ会戦の功績で宇宙艦隊司令長官・侯爵と軍の実権を着実に握る。リップシュタット戦役では帝国軍三長官を一身に集めた帝国軍最高司令官となり門閥貴族勢力を打倒し、さらに帝国宰相リヒテンラーデ公も排除する。そして自らが帝国宰相も兼任し、幼い皇帝の元で事実上の支配者となる。
だが、門閥貴族との戦いの中で自らの過失により盟友キルヒアイスを失ってしまう。一時は自失状態になるが、やがて立ち直り、銀河を我が手に掴む事を亡き親友に誓い、フェザーン自治領、自由惑星同盟を制圧・併呑し、銀河の統一を果たす。宇宙暦799年/帝国暦490年/新帝国暦1年、ゴールデンバウム朝から皇帝位の禅譲(実態は簒奪であったが)を受け、ローエングラム朝を建て初代皇帝ラインハルト1世として即位する。
新帝国暦2年暮れ、門閥貴族抗争の際に出会い、首席秘書官を経て大本営幕僚総監に就任していたヒルダを皇妃に迎えた。
その後の動乱も陣頭に立ち続けたが、その陣中で変異性劇症膠原病に冒されていることが判明する。この病には治療法がなく、後に皇帝病と呼ばれることとなる。新帝国暦3年(宇宙歴801年)7月25日、25歳で崩御。在位は満2年余であった。
乗艦は「タンホイザー」→純白の戦艦「ブリュンヒルト」。ブリュンヒルトは大将になった際に下賜された艦で、彼はこの艦を寵愛していた。
[編集] 能力
軍人としては「戦争の天才」「常勝の英雄」として帝国軍将兵の畏敬と忠誠を一身に集める。ただし、その常勝の英雄も、唯一ヤン・ウェンリーにだけは勝利し得ないままだった。
政治家としても才と力量に優れ、前王朝の悪しき制度を一新し、帝国人民の支持を集めた。特にリップシュタット戦役を経て帝国の実権を握った直後から大掛かりな司法/行政改革に着手し、農民金庫の新設や(不敬罪を除く)言論の自由の保障などを実行、さらに開明派のブラッケやリヒター、(皇帝即位後に)実力派技術官僚(テクノクラート)のシルヴァーベルヒ等を登用して改革を促進している。こうした政策からラインハルトは民衆の圧倒的支持を集め、ヤンもラインハルトを最も理想的な専制君主と称した。
その一方、旧体制下で既得権を得ていたシャフトやラングを登用するなど、清廉とは言えない選択を行う事もあり、心情と合理性を両立させようとする傾向が伺える。
[編集] 人柄
自己主張をはっきりと行うタイプで、好戦的で激情家としての側面がしばしば登場する。状況の解決に軍事的手段を優先させがちである事から、「戦いをたしなむ」と揶揄される事がある。
姉を奪われた事が契機となって門閥貴族のあり方そのものを嫌う様になり、転じて同盟の腐敗政治に対しても否定的な発言を口にしている。
皇帝に即位した後も、自らを必ず最前線の陣頭に置いた。重臣達からしばしばその危険性を上申されたが、ほとんどの場合はそれを一蹴した。ロイエンタールの叛乱においても、実際にはミッターマイヤーではなく自分が戦いたかった様子が表れた場面がある。
優れた人材を集めることに余念が無く、相手が優秀とみれば、貴賤、相手の年齢、所属勢力を問わず麾下に招いている。リップシュタット戦役において敵対したファーレンハイトやシュトライトをその後招いたり、バーミリオン星域会戦の後にヤンと直接会談した際、ヤンを帝国に招く提案をしたのもその現われであると思われる。対して、己の才を過信・誤認している者や、自分の行動原理に反する様な言動を表した者には容赦なかった。(トゥルナイゼン、グリルパルツァー、ロックウェル等)
ヴェスターラントの惨劇の黙認、それに関連して自ら招いた盟友キルヒアイスの死と、それによって姉アンネローゼが遠ざかった事は、一種のトラウマとなって彼の生涯に影を投げかけ続けた。
容姿はきわめて端麗で、豪奢な金髪とアイスブルーの瞳を持つ白皙の美青年として描かれているが、私生活では質素を好み、帝国皇室の式典や貴族のもてなしなどを嫌う一面もあった。権力を握った後は、様々な女性、或いは女性を利用してラインハルトに取り入ろうとした者が数多く接近したが、いずれも拒絶している。考えられる理由は幾つか提示されているが、姉が権力によって後宮に入れられた事から、そういう風習を嫌う精神気質が生じた事と、後に病死する事から推察される肉体的な欲望の弱さなどが複合したのではないかといわれている。
やや常識に疎いところがあり、作品の中においても「無趣味でワーカホリック気味」という性質で描かれている。ヒルデガルドへの求婚の際には、ミッターマイヤー夫婦の前例に倣って巨大なバラの花束を持参し、ヒルダの父親を内心苦笑させている。
崇拝者からは「金髪の有翼獅子(グリフォン)」「玉座の革命家」、敵対者からは「生意気な金髪の孺子(こぞう)」、また後世の歴史家からは「獅子帝ラインハルト」などと呼ばれる。
また、「マイン・カイザー(我が皇帝)」と呼ばれる事も多い。これはラインハルトを崇拝する兵士や民衆が即位前の彼を敬意の念を込めてそう呼んだものだが、ラインハルトの信奉者(特にロイエンタール)はラインハルトが即位した後も好んでこの呼称を用いた。
ヤン・ウェンリーとの軍事的能力以外での共通点に私生活がきわめて質素であることや、悪びれない図々しい者への寛容さがあげられる。また私生活が質素である点は同じ田中芳樹の作品であるアルスラーン戦記の主人公アルスラーンにも共通しており、二人とも部下から「一番上が質素すぎると、下の者が贅沢出来ない」と進言されている。
モデルは戦争の天才で、生涯を通じて実質的に不敗なまま幼い子を残して早世し、神話となったという点からアレクサンドロス大王、(銀河英雄伝説を宇宙版三国志と見立て)多彩な才能を持ち最大勢力を支配したという点から曹操、やはり戦争の天才だが異性への関心が極めて薄かった事からカール12世、貧乏貴族として生を受け、少尉から出発し軍人として高位を窮めた後に自らの手で帝冠を頂き皇帝に即位したエピソードが酷似するナポレオン1世等が上げられている。
[編集] 家族
妻(ヒルダ)、長男(アレクサンデル・ジークフリード)、姉(アンネローゼ)。幼い頃に死んだ母親クラリベルに対する印象はほとんど無く、姉が後宮に召された際に金を受け取った父セバスチャンを終生許すことはなかった。従ってラインハルトの意識内に於いては、両親を家族とは認識しておらず、むしろ盟友だったキルヒアイスを家族の一人として認識していた様子が伺える。ラインハルトやアンネーローゼは度々キルヒアイスをラインハルトの兄として扱っている。
[編集] 声優
アニメにおいてラインハルトの声を担当した声優は以下の通り。
堀川の話によると、銀英伝の言葉は難しい言葉が多く、例えば「孺子(こぞう)」と読む事が出来ず、キャスト陣みんなで困り「じゅし」と読んだ人もいたそうである。