フリッツX
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フリッツX(FritzX)とはナチス・ドイツが第二次世界大戦中に開発した誘導爆弾である。ルールスタール/クラマーX-1(Ruhrstahl/Kramer X-1)という名称も持っており本来はこちらが本名であるが、こちらはあまり有名ではないため、本稿ではフリッツXとする。SD1400X、FX1400X、PC1400Xという呼称もある。
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[編集] 概要
開発は1938年からベルリンのアドラースホフで始まった。ドイツ最大の航空研究所DVLのマックス・クラマー博士がSC-250爆弾を使い箱型尾翼の研究を行っていたが、これにドイツ空軍が関心を示したのが始まりである。 なお、フリッツXはHs293と違い徹甲弾であるPC1400を基にしている。
機体の主要構成部品である誘導装置は、無線操縦用送信機はテレフンケン社、無線受信機はシュトラフスト・ルントフンク製作所でそれぞれ開発した後ラインメタルボルジク社で完成された。 1942年ごろからベルリン南方60kmのヨーテボーグにて飛行試験を開始(使用機はHe111)、またペーネミュンデにて風洞実験も行った。1942年秋にはほとんどの問題を解決する。1943年には天候の問題(フリッツXの真価は高度6,000mから投下しなければ発揮されなかったが、地上からその高度まで晴れているという条件がドイツではなかなか満たされることがなかった)から試験場をドイツ国内からイタリアのシポントに移している。イタリアでも改良が続けられるが、どうも実戦配備と改良は平行して行われていたようである。
誘導方式は目視誘導で、母機(主にDo217が使用された)から5,000m~8,000mという高高度で投下、母機はそのままスロットルを戻し着弾時には目標の真上にいられるようにする。このとき照準手は母機に据え付けられているロフテ7爆撃照準機でフリッツXを追尾した。なお、フリッツXの後部にはHs293と同じようにフレアーが出るようにされていたほか、一部は夜間使用のためのライトが点滅するようにもなっていた。尾翼には無線機器と誘導ジャイロスコープが、安定翼には無線操縦用ソレノイド(電磁気)作動スポイラーが装備されており、このスポイラーが母機からの信号を受け取って爆弾を制御する。なお、このスポイラーはあまり調子が良くなかったようである。イタリアで実験中に作動方式を空気圧式に変えてみたのものの、温度変化の問題からこの案は破棄されている。
なお、命中精度は6,000mから投下して目標までの誤差60cmとされているが、これはあくまでも理論値であり、実際は誘導員の技量に大きく左右された。また、相手の電波妨害を考慮して有線誘導も試みられたが、8kmもの長さのワイヤーを必要とするため不経済であり、廃案となった。一説にはワイヤー繰り出し速度がフリッツXの加速に追いつかなかったとも言われている。
1943年、イタリアは連合軍に降伏、同年9月9日にはイタリア艦隊が連合軍に投降を始める。これを阻止するためドイツ軍はイタリア艦隊を空襲、ドイツ第100爆撃航空団第3飛行隊所属の機体が攻撃する。このとき3機のDo17(Do217,またはHe111であるという説もある)から発射されたフリッツXが戦艦ローマの前部弾薬庫、機関室、左甲板(2番砲塔と艦橋の間付近)に命中、ローマは撃沈した。原因は前部弾薬庫の弾薬引火のためとされている。なお、このときの命中弾は2発とする説があり、その場合は前部弾薬庫への命中弾は除かれ、左甲板に命中したフリッツXのせいで火災が発生、ダメージコントロールに失敗したため弾薬庫に引火したというものである。なお、同日に同型艦イタリアもフリッツXが命中し大破している。
高高度から射出され、目標到達時には音速近く(1,035km/h)という速度まで加速して敵艦に命中するフリッツXの威力は絶大であり、当時イタリア最新の戦艦である2隻に大損害を与えたのである。その後の連合軍サレルノ上陸作戦では上陸支援を行っていたアメリカ巡洋艦サヴァンナや輸送船、イギリス戦艦ウォースパイトにも被害を与え、ウォースパイトは航行不能に陥り、マルタ島に曳航される羽目になった。
フリッツXの月産数は66機程度とされており、生産効率は良くない。最終的に1,386機(2,000とする資料もあるがこれは少々多すぎるように思える)が生産されたが、1943年~1944年までの実験に半数が使用されており、実戦参加数はそれほど多くない。その後フリッツXプログラムは途中で打ち切られる。これは生産上の問題ではなく、母機の損失があまりにも多かったからである。
フリッツXはその射出方法と誘導方式から母機は常に低速で目標の上空を飛び続けなければならなかった。そのため母機は敵からの回避行動をとることができず、非常に脆弱だったのである。
戦後フリッツXで培われた技術は連合軍に持ち帰られることになる。その技術は米ソ両国で活用され、戦後の有望な誘導爆弾の基礎技術となっている。戦後にアメリカ、フランスといった戦勝国が開発した初期の誘導爆弾および対艦ミサイルは、洗練されてこそいるものの土台はこのフリッツXとHs293である。
[編集] データ
[編集] 派生型
- X-1:初期生産型
- X-2:操縦装置改良型
- X-3:量産型。誘導精度は少々犠牲となっている。このX-3までがフリッツXの派生型といえる。
- X-4:ほとんど別物であるルールスタール空対空ミサイルのこと。
- X-5:重徹甲弾版。2500kg爆弾仕様とされており、大型化している。
- X-6:X-5の高性能炸薬型
[編集] 備考
- 最大速度には諸説あり、これほどの高速では操縦不可能ではないかという説がある。ただし機体にはエアブレーキが搭載されていたので、この数字が操縦可能な限界値であったと見ることもできる。
- イタリア戦艦に被害を与えたのはHs293であるという説があるが、Hs293は爆風爆弾であるため戦艦の装甲を貫通できたかというと疑問であり、また現在フリッツXのほうが有力であるため、フリッツXの撃沈としている。
- 母機には諸説あり、He111などが使われていたという資料も存在する。
- ルールスタールX-4は、開発系列が同じだけであって派生型といえるかは疑問である。またX-5,6も使用弾頭が変わっているため、準派生型と考えられる。
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