コチャバンバ水紛争
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コチャバンバ水紛争(こちゃばんばみずふんそう)とは、ボリビアのコチャバンバで2000年1月から4月にかけて発生した一連の抗議行動のこと。
[編集] 概要
コチャバンバでは公営だった水供給公社が民営化され、世界銀行の主導によって民間会社であるロンドン国際水供給会社(International Waters Limited of London : IWL)に売却された。IWL社は米ベクテル社(Bechtel Corporation)の完全子会社で、コチャバンバでは「トゥナリ水供給会社(Aguas de Tunari)」と称した。世界銀行のボリビアに関する1999年6月の報告では、上水道の使用料金を低く抑えておくための公的補助金を中止することが求められていた。
地元紙の記事には、水供給公社の売却は競争入札により行なわれたが、一人の応札者しか現れず、数百万ドルの価値が見込まれる上水道システムがわずか2万ドル以下で売却されたと報じられた。
トゥナリ水供給会社がコチャバンバの上水道設備を手にした数週間後に、ミシクニ(Misicuni) ダムの建設の資金調達のためとして水道料金の大幅な値上げを行なったところ、抗議行動が発生した。最低月収が100ドル以下であるこの地において、20ドル以上の水道料金は多くの住民の家計を直撃した。
1月の中旬、新しくできた労働者同盟、人権問題指導者たちの先導で4日間連続のストライキが発生し、コチャバンバの町は活動を停止した。政府は水の価格を元に戻して2週間以内に収拾を図ることを約束せざるを得なかった。これにより、抗議行動はひとまず収まった。
3月に6万人以上の住民に調査を行ったところ、90%の人がトゥナリ水供給会社は撤退して水供給は公社に戻すべきであると答えた。民営化反対論者たちはブエノスアイレスの上水道民営化の例を引き合いに出し、その時は7,500人もの労働者が解雇された上に水道料が上がったとして、上水道施設の民営化がなぜ良くないのかを主張した。
4月4日には再びコチャバンバは機能停止に陥った。IWL社は、コカ絶滅作戦に反対するコカ生産農家たちの煽動により暴動が悪化していると主張した。
デモが4日目に入った時、ボリビア政府は戒厳令を発令した。警察は反乱指導者たちを深夜急襲して逮捕し、地元ラジオ局を閉鎖。武装兵士が町を監視した。
4月10日、水道会社の民営化撤回を迫るため、数千の人々がコチャバンバでデモ行進を計画した。しかし、ウゴ・バンセル・スアレス大統領は武力でこれを鎮圧しようとした。バンセルはかつて1970年代に独裁政治を行なった事がある大統領である。彼は警察に指示して2日間に渡りデモ隊に催涙ガスを浴びせ続け、6人の死者と175人の負傷者を出した。この負傷者の中には失明した2人の子供も含まれる。
この騒乱はラパスにも飛び火し、チチカカ湖周辺の住民も道路封鎖などの抗議行動を起こす。4月8日にはボリビア軍により17歳の少年が顔面を撃たれて死亡。逆に農民がボリビア軍大尉を撲殺するという事件も起こる。
ラパスやサンタクルスなどの大都市では、警官や消防士などの中に反対運動に賛同するものが現れ始める。また、ボリビア中央労働者連盟(Central Obrera Boliviana : COB)の呼びかけに応じて教職員組合が無期限ストライキを始めた。
4月12日にトゥナリ水供給会社は事業撤退を表明。ボリビア政府も最終的に抗議者たちの主張を全て受け入れることを表明した。世界銀行は援助停止の形で圧力をかけた。
[編集] 宣言文
コチャバンバの活動家による宣言文は次の通り[1]:
私たち、ボリビアとカナダとアメリカ合衆国とインドとブラジルの市民たち:
農民、用水番、労働者、先住民、学生、専門家、環境論者、教師、非政府組織メンバー、年金生活者たる私たちは、今日、大切な水の権利を守るため、力を結集し一致団結した。
私たちはこの地、組織や政府による虐待に立ち向かった市民の行動・勇気・犠牲によって、商業主義が握りつぶそうとしていた権利を取り戻したこの地、世界に輝けるこの地において、私たちの自由と尊厳に基づいて、次の宣言を行なうものである:
生きる権利に基づき、また、自然と私たちの祖先と私たちの土地の習俗に対する尊敬に基づき、大地から与えられた水の使用については未来永劫侵されざる以下の権利があることを明らかにしなければいけない。
- 水は大地と全ての生物のものにして神聖にして犯す事ができないものであり、全世界の水資源は温存され、営繕され、保護されて子孫に伝えられ、その自然の状態が尊重されなければならない。
- 水は人間の基本的な権利であり全ての政府機関によって公共性が保証されなければならない。すなわち、金儲けの手段になったり、民営化されたり、商業的に取引されてはならない。この権利は全ての政府機関で尊重されなければいけない。特に国際的な協定においてはこの原則に異論を挟む事は全く許されない。
- 水は地域社会と地域住民によって守られることが望まれ、この地域住民は水の保護と調整の上で政府と同じ重要性を持たされなければならない。世界の中の地域住民こそ、地球の民主化を促進し、水を守るための原動力なのである。
[編集] 新自由主義に対する拒絶
このコチャバンバの紛争は、1980年代から1990年代にかけてアメリカ合衆国がラテンアメリカなどの諸国において進めてきた新自由主義経済モデルに対する、初めての拒絶行動であったといえよう。すなわち、経済の自由化や民営化、特に水資源の民営化に対する反対運動であった。