アラン・コトック

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アラン・コトック(Alan Kotok、1941年11月9日 - 2006年5月26日)は、アメリカ合衆国の情報工学者。World Wide Web Consortium (W3C)での仕事を通したインターネットとWorld Wide Webへの貢献、ディジタル・イクイップメント・コーポレーション(DEC)における仕事を通した情報工学への貢献、マサチューセッツ工科大学(MIT)で作成したコンピュータゲームとコンピュータチェスを通したゲーム関連への貢献で知られている。

コトックはコンピュータ歴史博物館で2004年に自身の回顧録をビデオに記録した。

コトックはスティーブン・レヴィのHackers: Heroes of the Computer Revolutionにも登場する。

1941年ペンシルバニア州フィラデルフィア生まれ^[1]だが、彼の家族はニュージャージー州南部の Vineland に住んでいた。一人っ子である。3歳になるとコトックはねじ回しでコンセントをいじるという危険を冒し、6歳になると電気スタンドを作れるまでになった^[2]。コトックは父の金物屋で鉄道模型に親しんだ。コトックは2年飛び級して16歳で大学に進学した^[3]。

コトックは2006年5月26日、自宅で心臓発作により亡くなった^[2]。

目次 1 MIT時代 1.1 チェス 1.2 スペースウォー! 1.3 ソフトウェア 2 DEC時代 3 W3C 4 参考文献 5 注釈

[編集] MIT時代

MITでコトックは電気工学の修士号を取得した^[4]。彼に影響を与えた先生として、Jack Dennis とジョン・マッカーシーがいる。コトックはMITの鉄道模型クラブに属していた^[1]。

大学院生で鉄道模型クラブの一員でもあった Dennis はリンカーン研究所のTX-0をMITの学生に無制限に使わせていた。1959年春、マッカーシーはプログラミングの最初のコースをMITの新入生向けに開講して教えていた^[5]。コトックは鉄道模型クラブの仲間と共に講義の終わった時間を使ってTX-0をいじった^[6]。Dennisのおかげで彼らはバッチ処理を通さずにパーソナルにTX-0を使うことができた^[7]。

1961年9月^[8]、DECは9Kメモリとディスプレイ装置を備えたPDP-1を寄付した。Dennis はTX-0の隣の部屋に設置されたPDP-1を管理することになった。学生たちはサポートスタッフとしてその新しいコンピュータのプログラミングを行った^[6]。

[編集] チェス

1959年、マッカーシーの監督の下コトックらはIBM 704上でチェスプログラムの開発を開始した。コトックはこの仕事について MIT Artificial Intelligence Project Memo 41 に書いており、卒論のテーマにもなった。このチェスグループが1962年に卒業するころには、IBM 7090上で「100回ぐらいチェスをしたことがあるアマチュア程度」のチェスプログラムに仕上がっていた^[9][10]。

彼らはゲームについて詳しくなったが、コトックもマッカーシーもチェス選手ではない。コトックは後にコントラクトブリッジを好むようになった^[11]。3回チェスの世界チャンピオンとなったミハイル・ボトヴィニクは自身の著書 Computers, Chess and Long-Range Planningでコトック-マッカーシーのプログラムについて「動きを制限する規則がきつく、いい手を逃している」と評した^[12]。このプログラムは Richard Greenblatt に批評され^[13]、最近では Hans Berliner からも批評された^[14]。Bill Wall は自身のサイトComputer Chess HistoryでこのMITのプログラムが世界初の賢いチェスプログラムだったとしている。

スタンフォード大学に移った後、マッカーシーはソビエト連邦を1965年に訪問し^[15]、そこで自分たちの作ったプログラムとモスクワ理論実験物理研究所(ITEP)の Alexander Kronrod の研究室で M-20 コンピュータ上で作ったプログラムを対戦させたいという挑戦を受けた^[16]。テレグラフを介した9ヶ月(1966年～1967年)の世界初のコンピュータ同士のチェス対戦が行われた^[16]。ITEPのプログラムはクロード・シャノンが1950年に行った分類^[17][16]によればタイプAに属する力づくの戦略を使用していた。一方コトック-マッカーシーのプログラムは選択的手法でシャノンの分類で言えばタイプBに属していた^[16]。アルファベータ法による枝刈りもしていないし、ましてやキラーヒューリスティックはコトック卒業後に編み出された手法だった。結局コトックらのプログラムはITEPのプログラムの弱いバージョンと引き分け、強いバージョンには負けたのである^[16]。

Greenblatt はコトックのMITメモのコピーを目にし、次の1手の候補を生成するサブルーチンREPLYSで"4 3 2 2 1 1 1 1 0 0"よりも"7 7"の方がうまくいくのではないかと考えた。1965年、彼はこの考えに基づいた改良を行った^[13]。1967年、Greenblattのプログラム MacHack VI はトーナメントで人間を負かし、全米チェス協会の名誉会員となった^[18]。

[編集] スペースウォー!

スティーブン・ラッセルらは1961年、ハーバード大学でスペースウォー!というコンピュータゲームを設計した。マービン・ミンスキーのThree Position Display(Minskytronとも呼ばれた)に触発されたもので、さらにコトックを含めたMITの人々も参加して実働するバージョンが1962年に完成した。スペースウォー!は世界初の対話型コンピュータゲームの1つである^[19]。

コトックはスペースウォー!のコードは書いていない。彼はDECに出向いてラッセルが必要とした三角関数サブルーチンを入手した^[20]。Martin Graetzは、コトックらがコントローラ(ジョイスティックの原型のような機械)を制作したとしている。

Samsonは、当初ランダムな光点に過ぎなかった背景の星空を「Expensive Planetarium; 高価なプラネタリウム」というソフトウェアに置換した。Dan Edwardsは宇宙船の高速描画と重力発生源となる中心星を追加した。Graetzはハイパースペースを追加した^[19]。

Gratezが提供したソースをプリントアウトしたものから、Barry Silverman、Brian Silverman、Vadim Gerasimov らは1999年にJavaアプレットにスペースウォー!を移植した^[21]。

[編集] ソフトウェア

Edward Fredkin (一時期BBNテクノロジーズに在籍し、BBNはPDP-1の1号機を購入)、マッカーシー、ラッセル、コトック、Samson、Harlan Anderson、ゴードン・ベルは2006年5月、コンピュータ歴史博物館でのPDP-1再構築を祝う式典に出席した。

彼らの講演によると、TX-0 および PDP-1 のユーザーは様々な世界初のアプリケーションソフトウェアを書いたという。Piner は「Expensive Typewriter; 高価なタイプライター」を書き、これによってTX-0やPDP-1を直接操作できるようになった。Wagner は「Expensive Desk Calculator; 高価な電卓」を書いた。物理学科の2台目のPDP-1では、Daniel L. Murphy が TECO というテキストエディタを書き、これがEmacsの原型となった。Samson は TJ-2 というページレイアウトプログラムを書き、戦争というカードゲームを実装した。波形の計算の研究成果として Samson と Dennis は TX-0 上で Harmony Compiler を作り、これを使ってPDP-1向けに音楽をコード化した。コトックと Samson は製図プログラム T-square を開発し、それを使ってスペースウォー!のコントローラを設計した^[6]。

初期のPDP-1ユーザーはプログラミングソフトウェアも作成した。例えば、TX-0からの変換を行うアセンブラは1961年に1週間ほどで作成された^[6]。コトックはTX-0用デバッガ FLIT を移植した DDT オンラインデバッグプログラムを作成した^[11]。 コトックは後に TECO のマクロ用にLISPインタプリタを作成した^[6]。

[編集] DEC時代

1961年、コトックはDECでPDP-4向けのFORTRANコンパイラの開発を開始した^[1]。次にPDP-5の命令セット設計に関わった^[1]。ゴードン・ベルの率いるチームの一員として、コトックは最初のタイムシェアリング用コンピュータPDP-6の論理回路設計助手として働いた^[22]。DECがPDP-6で開始した36ビットマシンはLISPを使用する人工知能の研究によく用いられ、IBMのメインフレームに対抗するものであった^[23]。

地球規模のネットワーク接続としては世界初かもしれないが、1965年に西オーストラリア大学のPDP-6とアメリカのボストンをテレックス回線で接続した。DECはPDP-6を操作するコトックとゴードン・ベルの写真を撮っている(オーストラリアとの接続の話はその写真の解説にある)。

コトックは主任アーキテクト兼デザイナーとしてPDP-10、DECsystem-10、DECSYSTEM-20に関わった^[4]。コトックらはDECsystem-10がバッチ処理からタイムシェアリングおよびシングルユーザーシステムへの移行を促したと書いている^[24]。

コトックは VAX 8600 のシステムアーキテクトでもあった^[4]。1984年に登場したとき、VAX 8600 はDEC史上最高の性能を誇っていた(当時の一般的システムの4.2倍の性能)^[25]。

彼はDECで34年間働き、ストレージ、通信、ソフトウェアの分野のシニアエンジニアの立場となった。戦略グループの技術担当重役として、コトックはインターネットビジネス部門の立ち上げに尽力し、インターネットとウェブ技術を早い時期に採用し統合しようとした^[26]。

DECは、検索エンジンAltaVista、インターネットファイアーウォール、ポータルサイト、ネット配信、ネット上の選挙速報などを生み出した^[27][28]。困難な時期になっても、DECはインターネットとウェブ関連の開発をリードし続けた。しかし、コトックは自身の興味と会社の方向性の違いを感じ始めた。DECは自社製品(ハードウェア)を売るための手段としてしかインターネットを見ていなかった^[29]。例えばウェブコンテンツの小額決済システム Millicent (1セント未満の価格でコンテンツを売買するシステム)は機会を逃してしまった^[30]。

コトックは 1962年から1997年までDECの企業コンサルティングエンジニアでもあった。1994年から1996年まではW3C諮問委員会にDECを代表して参加した。また、1996年から1997年にかけて GC Tech Inc. 社のマーケティング担当副社長を務めた。Cylink社の科学諮問委員会の委員、コンパック社のコンサルタント、コンピュータ歴史博物館の展示内容アドバイザなども務めた^[4][31]。

Berlekampの提案で、コトックは1975年から1976年にかけての9ヶ月間、カリフォルニア大学バークレー校で論理回路設計を教えた^[1]。

コトックは1978年クラーク大学で経営管理の修士号を取得した^[32]。

DECとGC Techは初期のW3Cメンバーであり、1995年ボストンで開催されたFourth International World Wide Web Conference(WWW4)のスポンサーでもあった。コトックはサンタクララで開催された1997年4月7日のWWW6でSelection of Payment Vehicle for Internet Purchases(インターネットでの購入に使用すべき支払い方法の選択)というBoF(会議の一種)を主催した^[33]。1997年の Electronic Payments Forum では Micropayment Systems(小額決済システム)についての講演を行った^[34]。

[編集] W3C

DEC時代にウェブの可能性を理解したコトックはWorld Wide Web Consortiumの設立に関わった。1994年初め、スイスのチューリッヒでティム・バーナーズ＝リーとマイケル・ダートウゾスはMITに新たな組織を設立する件を話し合った^[35]。1994年春、コトックらDEC代表者はCERNのバーナーズ＝リーを訪れ、ウェブ開発のためのオープンスタンダードを作成するコンソシアムの必要性を話し合った。バーナーズ＝リーは Weaving the Web でこのDECとの話し合いについて言及している^[36]。

コトックは1997年3月、W3Cの副会長となった^[32]。

コトックは数百人ものW3Cメンバーを勧誘し、利害の一致する勢力を代表するようになった^[1][32]。彼はMITコンピュータ科学・人工知能研究所にあるW3Cのサイトを管理していた^[32] 彼はワールドワイドなW3CシステムとWebチームを率いて数百万ページを抱えるW3Cのウェブサイトとメーリングリストのアーカイブを管理した^[26]。

コトックはW3Cホスト、会員組織、オフィスなどの契約関係も管理した^[26]。インドと中国に新たなW3Cオフィスを設立する件でも尽力した。彼はW3C管理チームやW3C諮問委員会などと共に途上国向けの会費の削減にも取り組んだ。コトックはHTMLに関する特許勧告グループも指揮し^[37]、W3Cの特許方針策定にも深く関与した^[38]。

コトックは大まかに言えばW3Cの活動を構成していた技術と社会の領域を先導したと言える。当時の活動には、デジタル署名、電子商取引、公的政策、PICS、RDFメタデータ、プライバシー問題、セキュリティ問題などが含まれる^[39]

[編集] 参考文献

• Kotok Family Home Page
• コトック, アラン (2004年11月15日). "Oral History of Alan Kotok" コンピュータ歴史博物館. .
• コンピュータ歴史博物館 (2005年9月). "Mastering the Game: A History of Computer Chess" .

• 特に コンピュータ歴史博物館 (2005年9月). "Section 2.4: Opening Moves: Getting Going" .

[編集] 注釈

1. ↑ ^{1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5} コトック, アラン (2004年11月15日). "Oral History of Alan Kotok" コンピュータ歴史博物館. .
2. ↑ ^2.0 2.1 Marquard, Bryan, "Alan Kotok; he tred vanguard of computers with brilliance, wit", The Boston Globe, The New York Times Company, 2006/6/6. Retrieved on 2006/7/1.
3. ↑ Markoff, John, "Alan Kotok, 64, a Pioneer In Computer Video Games", The New York Times, 2006/6/3. Retrieved on 2006/7/1.
4. ↑ ^{4.0 4.1 4.2 4.3} "W3C Folio" 1999年. .
5. ↑ Levy, Steven. "Hackers: Heroes of the Computer Revolution" Project Gutenberg.
6. ↑ ^{6.0 6.1 6.2 6.3 6.4} "The Mouse That Roared: PDP-1 Celebration Event Lecture 05.15.06" コンピュータ歴史博物館: 2006年. .. Kotok begins at 0:53.
7. ↑ TX-0 alumni reunion (1984年). "The Computer Museum Report, Volume 8" .
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