はやぶさ (探査機)
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はやぶさ(第20号科学衛星MUSES-C)は、2003年5月9日(金)13時29分25秒に宇宙科学研究所が打ち上げた小惑星探査機(正式名称:工学実験探査機)である。小惑星(25143)イトカワに2005年夏に到達し、サンプルを採集して2010年に地球に持ち帰ることを目的としている。
なお、はやぶさの探査情報を基に、小惑星イトカワの解析結果とその論文がアメリカ科学論文誌『サイエンス』の2006年6月2日号に特集として掲載 (日本の宇宙研究・開発では初) された。 さらに、アメリカのInternational Space Development Conference (ISDC 2006)においてSpace Pioneer Awardとしてアメリカ National Space Societyから表彰を受けている。
目次 |
[編集] 概要
打ち上げはM-Vロケット5号機で行われ、太陽をめぐる軌道に投入された。その後、搭載する電気推進(イオンエンジン)で増速し、2004年5月に地球によるスイングバイを行って2005年夏に「イトカワ」に到着する(EDVEGA参照)。約5ヶ月の小惑星付近滞在中、カメラやレーダーなどによる科学観測を行い、小型ジャンプ・ロボット「ミネルヴァ」による表面上を移動しながらの探査を行う。そして、小惑星表面に重さ数グラムの金属球を発射し、その衝撃で発生する破片をサンプラー・ホーン(採取機)で捕まえる。この間の操作は、片道の通信時間が数分にもなるため、すべて探査機の自律的な制御により行われる。その後地球への帰還軌道に乗り、2007年夏、大気圏再突入操作を行ってパラシュートで降下する計画であったが、2005年12月のトラブルにより帰還は 2010年に延期された。
小惑星からサンプルを持ちかえる計画は国際的にも例が無く、成功が期待される。もっとも、この計画は工学試験のためのミッションであり、次のような各段階ごとに実験の成果が認められるものである。
- イオンロケットエンジンによる推進実験
- 微小な重力しか発生しない小惑星への自律的な接近飛行制御
- 小惑星からのサンプル採取
- 大気圏再突入・回収
なお、探査機との通信は、臼田宇宙空間観測所の64 mパラボラアンテナを用いて行われている。
[編集] 経過
年 | 日時 | イベント |
---|---|---|
2003年 | 5月9日 | 13時29分25秒にM-Vロケットで「はやぶさ」打ち上げ。 |
9月 | 搭載するイオンエンジンは計画通りの動作をしており、推進時間は1,000時間を越えた。この時点で地球から52,000km後方を飛行中であった。 | |
2004年 | 5月 | 地球スイングバイに成功。 |
2005年 | 2月7日 | イオンエンジンの積算稼働時間が2万時間を突破。2月18日、遠日点(1.7天文単位)を通過。イオンエンジンを搭載した宇宙機としては、世界で最も太陽から遠方に到達した。 |
7月29日・30日、8月8日・9日、12日 | 搭載された星姿勢計(スタートラッカー)により小惑星「イトカワ」を捉え、合計24枚の写真撮影に成功した。そして、これらの画像をもとに地上からの電波による観測と組み合わせて精密な軌道決定が行われた。 | |
7月31日 | リアクションホイール(姿勢制御装置)3基のうち1基が故障したため、2基による姿勢維持機能に切り替えて飛行した。なお、当初より2基の運用も想定されていたため、支障なく運用。 | |
8月28日 | イオンエンジンを切り、イトカワ接近に備えた。9月4日、点状ながら初めてイトカワの形状を撮影。イトカワの自転周期が予想通り約12時間であることを確認。さらに、レーザー高度計の送信試験に成功。9月10日の撮影では、イトカワの細長い形状をはっきり捉えた。 | |
9月12日 | イトカワと地球を結ぶ直線上で、イトカワから20kmの位置(ゲートポジション)に静止した。公式にはこれによりイトカワとのランデブー成功とされた。 | |
9月30日 | イトカワから約7kmの位置(ホームポジション)まで接近し、近距離からの観測モードに移行した。 | |
10月2日23:08 (JST) | リアクションホイールがさらにもう一つ故障した。残ったリアクションホイールはZ軸の1基であり、これだけでは姿勢制御が不可能なため、化学エンジンを併用して姿勢制御を行い、観測が続行された。 | |
10月28日 | リアクションホイールの故障への対応に伴い、帰還に充分な燃料確保が急務の課題となり、検討の結果、エンジン噴射を精度よく制御する方法に目処がついた。これを受けて、サンプル採取の予定が決定した。 | |
11月4日※ | リハーサル降下中に異常が発生し、降下を中止。 | |
11月9日 | 再リハーサル降下で高度70メートルまで接近。ターゲットマーカー(署名なし)を正常に分離。 | |
11月12日 | 再度リハーサル降下を行い、高度55メートルまで接近。探査機ミネルヴァを投下したが、重力補償のためのスラスタ噴射の最中、上昇速度を持った時点で分離したためイトカワには着陸せず(機械は順調に機能している)。 | |
11月20日 | 高度約40メートルで88万人の名前を載せたターゲットマーカーを分離。マーカーはイトカワに着地したとみられる。後、はやぶさはイトカワに着陸、30分以上イトカワ表面に留まっていたことが確認された。これにより、はやぶさは世界で初めて小惑星に着陸、離陸した探査機となった。異常が見つかったため弾丸は発射されなかったが、着陸した衝撃で破片が回収された可能性がある。これがイトカワのものならば、月以外からの試料採取に世界で初めて成功したことになる。[1] | |
11月26日 | 二回目のタッチダウンに挑戦。今回は新たにターゲットマーカーを分離せず、前回のものを用いた。午前7時7分、イトカワに着陸し、2本のプロジェクターから弾丸を発射。即座にイトカワから離脱した。地球の管制室は、はやぶさが「WCTモード」に入ったことを確認。これは着陸シーケンスが全て正常に動作したことを示している。離脱の際にスラスターB系から燃料のヒドラジンが探査機内部に漏洩したが、弁を閉鎖し漏洩は止まった。 | |
11月27日 | はやぶさへの姿勢制御命令が何らかの原因で不調に終わる。漏洩した燃料の気化による温度低下でバッテリーが放電し、システム広範囲の電源系統がリセットされたと推定されている。姿勢を制御するスラスターはA/B2系統とも推力が低下し、はやぶさの姿勢は大きく乱れる。 | |
11月28日 | 通信が途絶するが、翌日、ビーコン通信が回復。[2] | |
12月4日 | イオンエンジンの推進剤であるキセノンガスを噴出しての姿勢制御を試み、成功。 | |
12月7日 | はやぶさから得られた情報を解析した結果、11月26日の着陸シーケンスになぜか弾丸発射中止のコマンドが紛れ込み、サンプリング用の弾丸は発射されていなかった可能性が高いということがわかった。ただし、はやぶさの電源系統がリセットされていることや、着陸時にサンプラーホーンの温度が上昇していることなどから、これは最終的な結論ではない。また、二度の着陸により試料が採取されている可能性は高い。[3] | |
12月8日 | 再度の燃料漏れが発生。機体はみそすり運動を始めた。キセノンガスを使っても姿勢を制御することは出来ず、9日以降3ヶ月にわたって通信が途絶した。 | |
12月14日 | 地球への帰還を2010年6月に延期することが発表された。はやぶさは受動的に安定するように設計されているので、2006年12月までに電力と通信が復旧できる可能性は60%、2007年春ならば70%となる。2007年春までにイオンエンジンを再起動できれば、地球帰還の可能性は高いとされている。[4] | |
2006年 | 1月23日 | はやぶさとのビーコン通信が回復。 |
2月25日 | ローゲインアンテナで8bpsでテレメトリーデータの受信が可能となる。 | |
3月1日 | 距離計測を実施。 | |
3月4日 | ミドルゲインアンテナを使用し、32bpsでテレメトリーデータの受信が可能になる。 | |
3月6日 | 3ヶ月ぶりに軌道の推定に成功し、探査機の位置や速度が特定される。位置は地球から3億3000万km、イトカワから1万3000km。 | |
5月31日 | イオンエンジンの起動試験に成功。 |
※予定していた作業日時
[編集] 今後の予定
予定日時 | 予定イベント | 備考 |
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2007年2月 | 地球帰還軌道へ軌道修正 | |
2010年6月 | 地球への帰還(サンプル内包カプセルの地球への再突入) | |
2010年11月20日(EDVEGA) or 2011年11月(Direct) |
はやぶさ後継機(※)を小惑星「1999JU3」へ打ち上げ(予定・計画中) |
※ はやぶさ後継機については『JAXA・「はやぶさ」の近況と「はやぶさ-2」にむけて」』や『毎日新聞・小惑星探査:はやぶさ後継機 2010年に打ち上げへ』の記事を参照。
[編集] 仕様
- 高さ…1.5 m
- 幅…1.5 m
- 初期重量(推進薬含む)…500 kg
- 動力…太陽電池及びバッテリー
[編集] 積載機器
望遠カメラ、広角カメラ、レーザー測距機、星姿勢計、近赤外分光器、ターゲットマーカー、X線蛍光分光器、ロボット着陸機 "MINERVA"、サンプル採取機など
CPUにはSH-3プロセッサを、OSはITRONを積んでいる。[5][6]
クローズアップ現代(2006/11/30放送分)によると、ターゲットマーカーは重力の小さなイトカワに確実に接地できるよう、お手玉のアイデアをもとに東京の町工場の技術によって作られた。
[編集] はやぶさを支える声
はやぶさは88万人の署名入りターゲットマーカーを積んでいたことで、投下成功のニュースには多くの励ましのメールがJAXAに届けられた。[7]
また、管制室の様子がインターネットで中継されたり、ブログによる実況がされたことにより、ネットでの注目を集め、はやぶさを擬人化したキャラクターや、はやぶさをテーマにしたフラッシュが作られた。ファンによるペーパークラフトも存在する。[8]
二度目の着陸の際、栄養ドリンク「リポビタンD」の空き瓶が管制室の机にどんどん増えていく様子がブログを通して紹介され、海外でも話題になった。後にブログの更新時には大正製薬関係者からリポビタンDが2カートン贈られたという。[9]
[編集] 関連項目
- 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
- (旧組織)宇宙科学研究所(ISAS)