高津春繁
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高津 春繁(こうづ はるしげ、1908年1月19日 - 1973年5月4日)は、日本の言語学研究者、比較言語学研究者、ギリシア古典文学研究者。文学博士(東京大学)。東京大学文学部教授、武蔵大学人文学部教授、同大学人文学部長(初代)を歴任。東京大学名誉教授。
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[編集] 経歴
- 1908年 - 兵庫県神戸市に生まれる。
- 神戸一中、第六高等学校を経て、東京帝国大学に入学。
- 1930年 - 東京帝国大学文学部言語学科卒業
- 1930年 - 1934年 オックスフォード大学べリオール・カレッジに留学、ギリシア語とサンスクリット語の比較言語学を研究する。
- 1933年 - 東京帝国大学助手
- 1946年 -学位論文「アルカディア方言の研究」によって東京大学より文学博士の学位を受ける。
- 1948年 - 東京大学助教授
- 1951年 - 同大学教授
- 1968年 - 同大学退官
- 1971年 -還暦記念論文集『言語の系統と歴史』(服部四郎編、岩波書店)発行
- 1973年 - 5月4日午前8時55分、がん性ろく膜炎のため東京港区虎ノ門病院で死去。告別式:杉並区和田堀の西本願寺別院で武蔵大学人文学部葬として。喪主は久美子夫人。
[編集] 研究活動
高津春繁は、東京帝国大学(東京大学)においてそれまで福島直四郎(後に改名し辻直四郎)が担当していた印欧語比較文法の講義を、オックスフォード留学から帰国後まもなく始めた。そしてその成果が始めて公にされたのが「印欧語母音変化とLaryngalesの発見」(『言語研究』第3号、1939年)である。これは、近代言語学の祖とも言われるフェルディナン・ド・ソシュールが1878年に提唱し、当時は一般には受け入れられなかった印欧比較文法におけるLaryngales(喉音)理論を詳論したものである。1939年3月脱稿でありながら、その前年に欧州で発行された専門書・雑誌をも充分に活用・言及している。 上記の喉音理論は、提唱者のソシュールの死後ようやく学会の認めるところとなる訳だが、高津は自らの論文を以下の言で終えている。「……私は未だ壮年にして逝った彼に今二三十年の生を与えて、ヒッタイト語の発見・解読を体験せしめ、若き日の理論の確認と発展を自らなすを得さしめたかったと思ふのである……今更の様に此の偉大なる印欧比較文法学者への追慕の念の切なるを覚える」(一部漢字を新字体に変更)。高津のこの思いが、その後の学業に大きな影響を与えたのは容易に想像できる。比較文法と古代ギリシャを中心に、数多くの著作と翻訳をおこなった原動力は、このソシュールに対する「追慕の念」からでもあったように思える。
高津の研究は、大きく分けて以下の分野に分類できる。
- 印欧語比較文法
- 古代ギリシャ語
- 翻訳
- その他(啓蒙書)
[編集] 印欧語比較文法
これに関しては、未だに研究者の間で必読書に一つに数えられる『印欧語比較文法』がある。音韻論・形態論のみに止まらず、統語論及び印欧諸語の近親関係まで説き及ぶ本格的な比較文法である。日本において、本書出版後50年以上経過しても、未だにこれを凌駕するものが現れない事実を見ても、本書の価値が分かる。
高津は、学風としてはフェルディナン・ド・ソシュールのパリでの後継者であるアントワーヌ・メイエに傾注していたようであるが、その主著Introduction à l’étude comparative des langues indoeuropéennesは、「今まで出たこの種の概説中最も秀れたもの」と評価しながらも、「余によく整理されているため、本書によっては印欧語比較文法の未解決不明の点を知ることがむずかしい」としている。この点でも、高津の本著は豊富な参考文献を挙げ、問題点を明確にしている。
[編集] 古代ギリシャ語
高津の古代ギリシャ語の成果は、『アルカディア方言の研究』と『ギリシャ語文法』に集大成されている。前者は高津の学位論文であり、後者は古代ギリシャのみならず、日本で出版された語学書のなかでも、まれに見る傑作といってよいだろう。名詞と動詞の語形変化と、単純な文章だけを羅列する語学書ではなく、各語の方言形の説明のために歴史的発展をも詳述する。また、シンタックスに挙げられた例文は、高津みずからが古典作品から選びぬいたもので、「話者の気持とも称すべきものを併せて説明しようと試みた(「はしがき」より)ものである。
なお、初学者向けの文法・入門書の基礎ギリシャ語文法は、とくに「読本」の部分が良くできている。また、世界言語概説上巻に収められた「ギリシャ語(及びラテン語)」は、余裕のある筆致とあいまって、高度な楽しい「読み物」に仕上がっている。
[編集] 翻訳
古代ギリシャはホメロスの『イリアス・オデッセイア』から古典作家まで、また古代ローマのラテン作家からの翻訳も数多くある。
[編集] その他
高津の専門である古代ギリシャ関係の著書などがここに入る。専門書として高い評価を得た『ギリシャ民族と文化の成立』から、一般読者を念頭に置いた数多くの概説・解説書までだが、一般書と思われるものも、決して学問的価値がないわけではない。例えば『ホメーロスの英雄叙事詩』の125頁以下に説明される詩のテクニックは、一般書のレベルをはるかに超えるものである。
[編集] 著作
主要著書
- 1943年 : 比較言語学(河出書房)
- 1950年 : 比較言語学(岩波書店[全書]、前掲同名書の改訂。なお1992年岩波文庫版『言語学入門』は書名のみの変更。また、風間喜代三の解説付き。)
- 1950年 : ギリシャ民族と文化の成立(岩波書店)
- 1951年 : 基礎ギリシャ語文法(北星堂書店)
- 1952年 : 印欧語比較文法(岩波書店[全書])(2005年11月に再販されている。ISBN 4000218816)
- 1952年 : 古代ギリシャ文学史(岩波書店[全書])
- 1952年 : ギリシャ神話―西洋古典(大日本雄弁会講談社、久美子夫人と共著)
- 1952年 : 世界言語概説 上巻(研究社、市川三喜と共編)
- 1954年 : アルカディア方言の研究(岩波書店、学位論文)
- 1956年 : ギリシャの詩(岩波書店[新書])
- 1957年 : 言語学概論(有精堂)
- 1960年 : ギリシャ語文法(岩波書店)
- 1960年 : ギリシャ・ローマ神話辞典(岩波書店)
- 1963年 : ギリシャ・ローマ文学案内(岩波書店[文庫]、共著)
- 1964年 : 古代文字の解読(岩波書店、関根正雄と共著)
- 1964年 : 古典ギリシャ(筑摩書房)
- 1965年 : ギリシャ神話(岩波書店[新書])
- 1965年 : ギリシャ人の心(講談社)
- 1966年 : ホメーロスの英雄叙事詩(岩波書店[新書])
- 1973年 : 「言語研究」(73年11月号)高津春繁博士追悼号
(辻直四郎「故高津春繁君追悼の辞」、風間喜代三「故高津春繁先生略譜・主要論著目録」)
[編集] 逸話など
- 高津は非常に探偵小説が好きであった。ある時作家の大岡昇平が高津家に現れ、「読んでばかりいないであなた自身も何か書きなさい」と言ったという。
- また、読むのも速く、「京都へ行くと英語の探偵小説が片道に1冊ずつ要るからね」と言っていた。
- 1,2とも柳沼重剛、『語学者の散歩道』研究社より)
- 高津は最期の病床にあっても英語の探偵小説を読み続け、久美子夫人が「買ってきてもすぐ読んでしまう」とこぼす程であった。(風間喜代三、追悼文、月刊『言語』1973年7月号)
- 古代ギリシャ語の先生だと思っていた方が三百頁もあるロシア語の本を三日ほどで読みこなし。。。と千野栄一、『外国語上達法』岩波新書p.3に出てくる「先生」とは高津春繁である。
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