降着制度
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降着制度(こうちゃくせいど)とは、競馬の競走に出走する競走馬が、レース中に他の出走馬の進路を妨害(斜行)したり、何らかの不利を与えた場合に、加害馬の着順を被害馬の次に繰り下げる制度のことを言う。
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[編集] 概要
- 日本での導入は、中央競馬においては1991年1月5日から、地方競馬においては1991年4月1日からである。それまでは進路妨害などの不正行為があった場合は、競走中止につながらなくとも加害馬は一律に失格となったため、特に馬券を購入したファンにとっては、その馬券がフイになるケースも多かった。それを改善しようという目的で実施された制度である。
- 海外においても、「加害馬はその被害馬に対して責任を負うのがより合理的で、進路妨害の処置は加害馬・被害馬の関係のみで考えるべきだ」また「どの馬もそのレースで示した能力を可能な限り尊重すべきだ」としてこれを導入している。
- 騎手の落馬など、加害馬が被害馬の競走中止の原因を作った場合には、加害馬は降着ではなく失格となる。
[編集] 審議の流れ
- レース中に進路妨害(または進路妨害を原因とする競走中止)の疑いが持たれた場合、全馬入線後、裁決委員が場内の電光掲示板に「審」(審議の略)の文字と青ランプを点灯させ、場内アナウンスで案内する。(稀にレース中に電光掲示板に点灯されることもある。)
- (東京競馬場にある新ターフビジョンは着順掲示等もターフビジョンで掲示するため、審議の際は青地に白で「審議」という文字が出る)。
- レース終了後、裁決委員がパトロール・ビデオを見てその競走馬が降着・失格の対象になるか否かを審議する。場合によっては被害馬・審議対象馬双方の関係者を裁決室に呼び事情を聴くこともある。審議終了後、降着・失格の有無に関係なく再び場内アナウンスが行われる。
- 以下に中央競馬における場内アナウンスの例を挙げる。なお、馬名はすべて架空の馬名である。
[編集] 審議の実施
- 「お知らせ致します。京都競馬第5レースは、最後の直線走路で、11番ウィキペディア号の進路が狭くなったことについて審議を致します。お持ちの勝馬投票券は、勝ち馬が確定するまで、お捨てにならない様お願い致します。」
- 「お知らせ致します。京都競馬第5レースは、第3コーナーでの出来事について審議を致します。お持ちの勝馬投票券は、勝ち馬が確定するまで、お捨てにならない様お願い致します。」
[編集] 上位入線馬に審議の対象馬がいない場合
- 「お知らせ致します。京都競馬第5レースは引き続き審議しておりますが、第3着までは到達順位の通り確定致します」
- 「お知らせ致します。京都競馬第5レースは引き続き審議しておりますが、第5着までは到達順位の通り確定致します」
(審議終了後、降着・失格のあるなしに関わらずその結果がアナウンスされる)
[編集] 審議終了(進路妨害等が認められないと判断した場合)
- 「お待たせ致しました。京都競馬第5レースは、最後の直線走路で、11番ウィキペディア号の進路が狭くなったことについて審議を致しましたが、到達順位どおり確定致します。なお、審議の対象馬は7番でした」
- 「お待たせ致しました。京都競馬第5レースは、最後の直線走路で、11番ウィキペディア号の進路が狭くなったことについて審議を致しましたが、到達順位どおり確定致します。なお、同馬は充分な進路が取れなかったため控えたものでありました」
- 「お待たせ致しました。京都競馬第5レースは、最後の直線走路で、11番ウィキペディア号の騎手が落馬したことについて審議を致しましたが、到達順位どおり確定致します。なお、同馬は他の馬に関係なく、つまづいて騎手が落馬し、競走を中止したものでありました」
[編集] 審議終了(降着が生じた場合)
- 「お待たせ致しました。京都競馬第5レースの審議についてお知らせ致します。第3位に入線した、7番ウィクショナリー号は、最後の直線走路で急に内側に斜行し、11番ウィキペディア号の走行を妨害したため、第9着に降着とし、着順を変更の上、確定致します。従って、3着までの着順は、1着4番、2着8番、3着1番となります」
- 「お待たせ致しました。京都競馬第5レースの審議についてお知らせ致します。第3位に入線した、7番ウィクショナリー号は、2周目6号障害で急に内側に斜飛し、11番ウィキペディア号の走行を妨害したため、第9着に降着とし、着順を変更の上、確定致します。従って、3着までの着順は、1着4番、2着8番、3着1番となります」
[編集] 審議終了(失格が生じた場合)
- 「お待たせ致しました。京都競馬第5レースの審議についてお知らせ致します。第3位に入線した、7番ウィクショナリー号は、最後の直線走路で急に内側に斜行し、11番ウィキペディア号の走行を妨害したため、失格とし、着順を変更の上、確定致します。従って、3着までの着順は、1着4番、2着8番、3着1番となります」
- 「お待たせ致しました。京都競馬第5レースの審議についてお知らせ致します。第3位に入線した、7番ウィクショナリー号は、2周目6号障害で急に内側に斜飛し、11番ウィキペディア号の走行を妨害したため、失格とし、着順を変更の上、確定致します。従って、3着までの着順は、1着4番、2着8番、3着1番となります」
[編集] 審議終了(被害馬先着が生じた場合)
- 「お待たせ致しました。京都競馬第5レースの審議についてお知らせ致します。7番ウィクショナリー号は、最後の直線走路で11番ウィキペディア号の走行を妨害しましたが、被害馬が先着したため、到達順位の通り確定致します」
[編集] 降着になるケースとならないケース
- 加害馬が進路妨害などを犯したと判断された場合、その加害馬の着順は被害馬の着順の下に繰り下げられる。
- 例-1:加害馬がゴールに3位、被害馬が7位でそれぞれ入線した後、進路妨害などがあったと判断された場合は、加害馬は7着に降着となり、4-7位で入線した馬はそれぞれ3-6着に1つずつ順位を繰り上げて確定となる。
- 例-2:加害馬がゴールに5位、被害馬が2位でそれぞれ入線した後、進路妨害などがあったと判断された場合は、被害馬先着のため着順の変更は行われず、被害馬2着、加害馬5着のまま確定となる。
- 例-3:加害馬が、被害馬を騎手の落馬やその他競走中の事故・疾病等による競走中止に追い込んだ場合は、加害馬は入線順位に関係なく失格となる(ただし加害馬が競走中止した場合は到達順位どおり確定する)。
- 例-4:同一レース内で、第1コーナーで馬Aが馬Bの進路を妨害し、第4コーナーで今度は逆に馬Bが馬Aの進路を妨害するなど、加害・被害の関係が循環する場合は、関係する全馬は到達順位のとおりに確定となる。
[編集] 騎手への制裁
- 降着や失格となった馬の騎手は、過失の程度に応じて騎乗停止日数を科される。また、降着や失格が無くても、過失が軽微な事案に対しては騎乗停止は科されず過怠金や戒告となる。ただし、危険・悪質な騎乗やスポーツマンシップに欠ける騎乗を行った騎手に対しては過怠金ではなく騎乗停止(競馬開催期間2日間)を科される場合もある。過失の程度に応じた制裁制度は中央競馬において2005年1月1日より実施されている。
- 騎乗停止競馬開催期間6日間もしくはそれ以上(危険、悪質など、重大な過失によるもの)
- 騎乗停止競馬開催期間4日間(不注意によるもの)
- 騎乗停止競馬開催期間2日間(偶発的なもの)
- 過怠金(1万円~10万円)
- 戒告
[編集] 走行妨害申立て
- 加害馬の関係者(馬主・調教師・騎手)は失格・降着の裁決について、被害馬の関係者は審議の棄却の裁決について、それぞれ、必要書類と保証金10万円を添えて裁定委員会に対して不服申立てをすることができる。過去に何度か不服申立ては行われていたが、すべて棄却されている。(平成3年までは「異議申立て」という制度だった。)
[編集] 降着の事例
[編集] 代表的な降着
- 1991年の天皇賞(秋)において1位に入線したメジロマックイーンが発走直後左に進路を取った。しかし、その進路の取り方が他馬を妨害したとして18着(最下位)に降着となった(繰り上がりで1着となったのは、3番人気のプレクラスニー)。この年は降着制度が適用された初年度でもあり、降着について理解していなかったファンも多かったため、勝馬投票券の払い戻しなどを巡り大混乱を招いた。GIで1位入線馬しかも圧倒的人気を背負っていた馬の降着は各地で波紋を呼び、後に東京競馬場芝2000mのスタート地点が改修されるきっかけになった。
- 2006年のエリザベス女王杯で1位に入線したカワカミプリンセスが最後の直線で右に斜行し、ヤマニンシュクルの進路を妨害したとして12着に降着となった(繰り上がりで1着となったのは7番人気のフサイチパンドラ)。カワカミプリンセスは1番人気に支持されており、なおかつこれまでの戦績が5戦5勝ということで、勝てばファインモーション以来の無敗での古馬GI制覇かと思われた。なお、GI競走において1位入線馬が降着となるケースは上記の天皇賞(秋)以来15年ぶりだった。
[編集] 重賞における主な1位入線降着・1位入線失格
- 1939年 オークス ヒサヨシ 1位入線失格 薬物検査で陽性
- 1939年 目黒記念(秋) スゲヌマ 1位入線失格 薬物検査で陽性
- 1955年 中山4歳S(現ラジオNIKKEI賞) イチモンジ 1位入線失格 決勝線手前で内斜行
- 1958年 中山4歳S(現ラジオNIKKEI賞) ヒシマサル 1位入線失格 向正面で内斜行
- 1985年 朝日チャレンジカップ ニシノライデン 1位入線失格 最後の直線で外斜行
- 1991年 天皇賞(秋) メジロマックイーン 1位入線18着降着 2コーナーで内斜行
- 1993年 阪神障害S(秋) ヤマノジパング 1位入線3着降着 2周目4コーナーで内斜行
- 1996年 函館記念 マイヨジョンヌ 1位入線4着降着 最後の直線で内斜行
- 1996年 ユニコーンS バトルライン 1位入線10着降着 4コーナーで内斜行
- 1999年 アーリントンC バイオマスター 1位入線2着降着 最後の直線で内斜行
- 2001年 京都大賞典 ステイゴールド 1位入線失格 最後の直線で外斜行し被害馬が落馬
- 2002年 カブトヤマ記念 カンファーベスト 1位入線10着降着 最後の直線で内斜行
- 2003年 東海S ディーエスサンダー 1位入線3着降着 最後の直線で内斜行
- 2006年 エリザベス女王杯 カワカミプリンセス 1位入線12着降着 直線入口で内斜行
[編集] G1レースにおける主な1位入線以外の降着・失格
- 1987年 天皇賞(秋) ニシノライデン 2位入線失格
- 1988年 皐月賞 メイブレーブ 7位入線失格
- 1988年 皐月賞 マイネルフリッセ 16位入線失格
- 1988年 有馬記念 スーパークリーク 3位入線失格
- 1992年 阪神3歳牝馬S マルカアイリス 12位入線16着降着
- 1993年 皐月賞 ガレオン 3位入線8着降着
- 1996年 オークス ノースサンデー 5位入線12着降着
- 1996年 エリザベス女王杯 ヒシアマゾン 2位入線7着降着
[編集] 降着があってもおかしくなかったレース
2002年のNHKマイルカップで1位に入線したテレグノシスだったが、最後の直線で明らかに進路妨害をしているように見え、しかもその被害馬は圧倒的人気を背負っていたタニノギムレットであった。審議が異常に長かったためテレグノシスの降着で2位に入線していたアグネスソニックの優勝だろうと推測するファンも出始めたところだったが、審議の結果は到達順位通りだった。審議する人物によっては降着と判断されていたかもしれないが、審議は極めて曖昧であり審議する人物によって判断の仕方も変わることが分かっている。