関数行列
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関数行列(かんすうぎょうれつ)とは、座標変換
に対し、次のように定義される行列 Jf のことである。
この行列は、カール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビによって定義されたため、ヤコビ行列とも呼ばれる。また、 m = n の場合の関数行列の行列式 | Jf | を、関数行列式またはヤコビアンと呼ぶ。一般に良く用いられるのは行列式の方である。|Jf| は次のように表記されることもある。
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[編集] 性質
関数行列は、座標変換 f の一次近似をあらわしていると見ることができる。つまり、点 p の近傍で f は
といった形式で評価できる(o はランダウの記号で、誤差項と考えてよい)。
関数行列に関して連鎖律
が成立する。これはしばしば
のように略記される。恒等写像の関数行列は明らかに単位行列 E であるから、逆関数の関数行列 Jf -1 は、元の関数の関数行列の逆行列、即ち Jf-1 となる。
上の性質は積に関する式であるから、行列式に関しても同じ事が言える。
従って、逆関数の関数行列式は | Jf -1 | = 1 / | Jf | となる。もし、| Jf | = 0 となるような点 S があれば、その点で | Jf -1 | は定義できないため、その点での逆関数は存在しない。従って、対応は 1 対 1 にはならず、点 S に於ける座標変換は不可能となる。この時の S を特異点という。関数行列式は、特異点を見つけるのにしばしば用いられる。
[編集] 極座標系に関する具体例
ここでは、いくつかの極座標系から直交座標系への座標変換で、関数行列式がどのようになるか述べる。
[編集] 円座標
円座標は、直交座標への座標変換 (x ,y ) = f (r, θ) = (r cosθ, r sinθ) を与えるから、関数行列式は
となる。従って、特異点は r = 0 となる点、即ち (0,θ) である。これは直交座標での (0,0) を表す。
[編集] 円柱座標
円柱座標は、直交座標への座標変換 (x, y, z ) = f (r, θ,z ) = (r cosθ, r sinθ, z ) を与えるから、関数行列式は
となる。従って、円座標のときと同じく、特異点は r = 0 となる点、即ち (0,θ,z ) である。これは直交座標での (0,0,z ) すなわち z 軸上を表す。
[編集] 球座標
球座標は、直交座標への座標変換 (x, y, z ) = f (r, θ,φ ) = (r sinθcosφ, r sinθsinφ, r cosθ) を与えるから、関数行列式は
となる。従って、特異点は r = 0 または sinθ = 0 となる点、即ち (0,θ,φ) と (r, 0,φ)、(r, π,φ) である。これは直交座標での (0,0,0)、(0,0,r )、(0,0,-r ) すなわち z 軸上を表す。