賢所乗御車

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賢所乗御車（かしこどころじょうぎょしゃ。賢所奉安車（かしこどころほうあんしゃ）とも）とは、日本国有鉄道の前身である鉄道院が、天皇の即位御大礼（即位式）の際に、東京の宮城（皇居）と京都御所の間を、宮中三殿の賢所に祀られている神鏡を移御（輸送）するために製造された鉄道車両（皇室用客車）である。他の鉄道車両と異なり、記号や番号、形式は一切付与されておらず、「賢所乗御車」がこの客車の名称である。

1915年（大正4年）の大正天皇の即位式のために製造され、1928年（昭和3年）の昭和天皇の即位式に際しても、内装などを更新の上、使用された。従って、本車が実際に神鏡を乗せて走ったのは、両天皇の即位御大礼の際の往復、合計わずか4回だけである。

現在は、東日本旅客鉄道（JR東日本）東京総合車両センター内の御料車庫に大切に保管されている。

[編集] 製作の背景

1915年11月10日、大正天皇の即位御大礼が京都御所で行なわれることとなり、賢所の神鏡が東京から京都に移御されることとなった。これは当時の皇室典範で、「御大礼ハ京都ニ於イテ賢所ノ御前で行ナフ」こととされていたためである。明治天皇は京都で即位してから東京に移ったため、大正の御大礼が神鏡を移御する最初の例となった。このために7・8・9号御料車とともに製作されたのが本車である。なお、太平洋戦争後にこの条項は廃止され、今上天皇の即位御大礼は東京で行なわれており、神鏡の移御は行なわれていない。

本車の製作にあたり、鉄道院の設計担当者を一番悩ませたのが、神鏡の寸法と重量であった。神鏡は、皇室が最も崇敬する神器であり、その御座所内では皇太子ですら歩行を許されず、膝行するのである。宮中の古い慣習に縛られ、空前絶後の神鏡の寸法計測にこぎ着けるまでには、宮内省との幾度にもわたる粘り強い折衝が行なわれた。とはいえ、さすがに重量までは量ることができず、明治の初めの東京遷都に際して賢所の神鏡が京都から東京に移御されたときの「16人の若者が賢所の神鏡の乗御する御羽車を担いで東海道を上ったが、いずれも重さに汗をかいた」という記録を元に重量を推定し、奉安室内部と移御装置の設計を行なったという。

[編集] 車両の特徴等

製造 - 1915年（大正4年）鉄道院大井工場製
構造 - 木造3軸ボギー車・ダブルルーフ
寸法 - 全長19,991mm・全幅2,590mm・全高3,778mm
制動装置 - 真空ブレーキ式
廃車 - 1959年（昭和34年）10月。廃車後は浅川分庫に保管されたが、浅川駅の廃止後は大井工場（現・JR東日本東京総合車両センター）内の御料車庫に移動し保管されている。

車内は、車両を横から見て中央に賢所奉安室、その左右（車両としては前後）に各3室ずつの掌典室がある。

賢所奉安室の床面は30cmほど高くなっており、移御台を定位置に固定できるようになっている。天井は格天井で、室内は総ヒノキの白木神殿造りとなっており、金具にはすべて金メッキが施されている。片側に幅2438mmの戸口があって観音開きの折戸が設けられており、神鏡の乗降は、この扉を開けて行われる。扉を閉じ、施錠した後は、天皇家の紋章である「菊の御紋章」を外から合わせ目に取付けるようになっている。

賢所奉安室の奥には壁を隔てて側廊下があり、その側には戸口がないため、車両側面は左右でまったく異なっている。