歩留まり

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歩留まりないし歩止まり（ぶどまり）とは、製造において「原料（素材）の使用量に対する製品生産数（量）比率」のことで、高低で優劣を表す。この歩留まりが高いほど、原料の質がいいか、あるいは製造ラインとしては優秀といえる。

[編集] 概要

例えば製鉄の際に、同じ精錬方法を使って鉱石10から鉄1を製造できる場合と、鉱石8に対して同量の鉄1が得られる場合、後者の鉱石の方が質が良い。また同じ鉱石100を使って鉄を10精錬できる方法と、11精錬できる方法があった場合、後者の精錬方法の方が優れている。またこの考えは食料生産（農業・食品加工）にも適用され、原料に対する可食部の比率を指し、その残りが所謂食品廃材である。

工業分野では、工業製品の製造数に対する良品（不良品の対義語）の比率を指している。

歩留まり率が低いと、その分余計に原料が必要となり、それが製造コストを圧迫する。このため生産・製造分野での歩留まり向上は、至上命題のひとつである。

[編集] 歩留まりと技術

理想論から言えば歩留まり率は限りなく高い方が良いのだが、不良品をゼロとする事は製造の関係もあり、現在の技術では純粋な素材を製造することができないことや、製造ラインの作業面における人的ミスや機械トラブルを完全に廃せない以上、不可能である。

また良品と不良品の境界が曖昧な工業製品では、検査や品質の基準を下げるだけでも歩留まりを上げることはできる。例えば液晶ディスプレイはドット落ちなどの関係で、一定以上ないし目立つ個所の不良表示画素子がある製品を不良品とするが、この基準を「何処まで容認するか」によって歩留まりは大きく変化し、仮に不良画素を一切認めなかった場合には、液晶パネルの歩留まりは現行の十分の一程度に下がると言う話もある。

[編集] 半導体製品と歩留まり

工業製品の歩留まりが低いものの代表格には半導体製品（→半導体素子）があり、かつてトランジスタがまだクリーンルームもなく手作業で製造されていた時代には、季節やその日の天候・湿度によっても歩留まり率が大きく変化していた。これは空気中の埃などが半導体表面の膜生成に影響したためであるが、この問題は集積回路としてICからLSIに進歩していく過程で必ずと言って良いほどに突き当たる壁で、現在のCPUのような微細な回路を持つ集積回路でも常に技術的改良が進められている。

なお余禄ではあるが、日本で1975年当時に5億円を投入したある設備で行われたIC回路試作量産では、最初の内は一ヶ月以上に渡って歩留まり率0％（全て不良品）という惨憺たる有様だったと、当時開発にあたっていた西久保靖彦は語っている（三栄ハイテック記事）。

[編集] 工業における歩留まり向上に関する備考

日本では製造段階のトレーサビリティ導入をはじめとした様々な品質管理のための努力が成されているが、その一方で日本人が物品の製造に適した精神性をしているという説（日本人論）もみられる。このような説ではアニミズム的観点から、日本人は自身の製造している製品や、あるいはその製造に用いている機械設備に対しての思い入れが強く、この関心の高さから製造面での異常に気付き易く、結果的に歩留まりの向上に貢献しているとしている。

この節の是非は複雑な問題を含むが、その一方で1980年代までの米国の自動車産業を含む製造業では、自分たちの作っている製品に無頓着な労働者が多く、例えば自動車では腕にアクセサリを付けたまま作業して車のボディに傷が入ろうと然程気にされていなかった。しかしこの塗装面にキズの残る車両を日本に輸入した場合に、新品に対して思い入れの強い日本人客からクレームも出たため、製造面でそのような傷を付けないよう徹底された。結果的に労働者らは自分の作って居る製品に注意を払うようになり、歩留まり率も向上したなどと言う話も漏れ聞かれる。

一般に製造業では、労働者が製品に対して好意的であるか否かによっても、歩留まり率に大きな較差が出る傾向がある。

[編集] 食料生産と歩留まり

食料生産では、より食品廃材を減らして可食部を多く得るかが至上命題となる。例えばと畜場では家畜一頭から採れる食肉や家畜由来製品を少しでも多く得ようと、屠殺の方法から解体方法、あるいは利用方法まで様々な分野での研究・技術開発が進んでおり、また無駄なく家畜を利用するため、料理方法も世界各地で様々な工夫が見られ、屑肉はハンバーグなどの料理に、もつ（内臓肉）も工夫を凝らして食べる方法が存在する。

ただ、この歩留まり向上の技術的な発展は、必ずしも福音ばかりとはいえない。例えばBSE問題では、肉骨粉のような食品廃材を飼料として利用した結果として問題が拡大しているし、また米国産牛肉の生産で導入されている「先進的食肉回収システム」はこの歩留まり向上を目指したシステムだが、これが「骨周辺の肉を高圧の水ないし空気で吹き飛ばす」という性質のものであるため、危険部位として問題視されて居る神経組織の混入を招くのではないかと見る識者もいる（HOTWierd記事）。このため生産側ではBSE汚染の可能性がある牛への同システム使用を厳重に制限している（米領事館記事2003年）。

その一方で、食料の生産方法に関し、食用の蛋白源生産に、与える飼料に対して得られる蛋白質の量も歩留まりの範疇に含められるかもしれない。極論から言えば、微生物を別にすれば昆虫食が最も少ない飼料で食用動物性蛋白質を製造することができる。昆虫食では動物性蛋白質を得るうえで与える飼料換算でいくと、哺乳類家畜の約13～40倍も効率が良い。ただ昆虫食は近年において余り主流ではなく、普及には生産設備の開発も含めて、様々な解決すべき問題もあるだろう。しかし予測される世界規模の人口爆発に伴う食糧不足に向けて、一つの解決策とも考えられている。