山岳ユダヤ人
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山岳ユダヤ人（יהודי ההרים）は東部コーカサス地方、特にダゲスタンに住み、ペルシア系のユダヤ・タート語を話すユダヤ人のこと。東部コーカサスユダヤ人、あるいは単にコーカサスユダヤ人とも呼ぶ。ただし山岳ユダヤ人にコーカサス地方のアシュケナジムやグルジームは含まないので、コーカサスユダヤ人という名称は、本来は不適切である。
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名称
彼ら自身は、自分たちをJuhuro（あるいはクバ方言でJuwuro）と呼んでいる。単にユダヤ人という意味である。彼らがJuhur imuni（われわれユダヤ人）と言えば山岳ユダヤ人のことだが、その一方でアシュケナジムユダヤ人のことを彼らはJuhur Eshgeneziniと呼んでいる。ヘブライ語で'ivri（ヘブライ人）あるいはyehudi（ユダヤ人）と名乗る者もいるが、これは高齢者に多い。
文献の中で彼らは東部コーカサスユダヤ人、山岳ユダヤ人、ユダヤタート人、ジュフール、ダグ・チュフートなどと呼ばれている。ロシア語での名称ゴルスキエ・エヴレイは、やはり山岳ユダヤ人という意味である。
居住地域
彼らの大多数は、ダゲスタンに住んでいる。また彼らの中の少数は、アゼルバイジャンに住んでいる。さらに少数は北部コーカサス地方に住んでいる。1970年から1990年にかけて、山岳ユダヤ人の多くはイスラエルや米国に移住した。モスクワに移った者もいる。
民族的な起源と歴史
山岳ユダヤ人の言い伝えによると、彼らが東部コーカサス地方に住み着いたのは西暦722年のことである。ペルシア系の言語を話すのは、かつてペルシア南西部に住んでいた名残と考えられている。
彼らの起源については諸説が唱えられている。
1.遊牧民の侵入を防ぐ目的でパルティア朝とササン朝の王たちの意向で配備された、ユダヤの武装入植者の子孫であるという説。
2.ユダヤ教に改宗したタート人の子孫であるという説。（ただし、イスラム教徒タート人こそイスラム教に改宗した山岳ユダヤ人であるという説もある。）
3.ハザール人の子孫であるという説。
3.については信憑性が乏しい。なぜなら、ハザールが勃興する前から山岳ユダヤ人はコーカサスに定住していたからである。しかしながら、山岳ユダヤ人がハザールと同盟を結んでいた可能性はある。また、ユダヤ教に改宗したハザールの王侯貴族が、10世紀から11世紀にかけてハザールが崩壊した後、山岳ユダヤ人のコミュニティに受け入れられたこともありうる。とはいえ、近年の遺伝子学の研究により、山岳ユダヤ人の起源はほぼ明らかになった。山岳ユダヤ人のY染色体は、他のユダヤ人コミュニティのY染色体と一致したからである。これによって、山岳ユダヤ人は古代イスラエル人の末裔であることが明らかになった。
山岳ユダヤ人は18世紀から19世紀に山地からカスピ海沿いの低地に移ったが、山岳ユダヤ人という名前はそのまま持ち続けている。
山岳ユダヤ人の代表的な仕事は、農耕、造園、養蚕、あるいは穀物や煙草や葡萄の栽培などである。特にワインの醸造は、イスラム教徒が宗教上の理由で従事できない仕事であるため、山岳ユダヤ人とアルメニア人の専売特許となった。その代わりユダヤ教は肉食を厳しく制限しているので、山岳ユダヤ人は家畜をほとんど飼わなかった。
農耕や造園に続く第3の仕事は皮なめしだった。19世紀末には、山岳ユダヤ人の6%が皮なめし業を営んでいた。手工業と商業は、主に都市在住の山岳ユダヤ人の仕事だった。
ソ連政府は山岳ユダヤ人に対して、集団農場に入ることを強制したが、上記のような伝統的産業に携わることをも許可していた。しかしながら、山岳ユダヤ人の旧来の孤立した生活態度は払拭され、今では他の民族集団と肩を並べて暮らしている。
もともと山岳ユダヤ人社会での教育は対象を男子に限りシナゴーグでおこなわれる授業に限定されていたが、ソ連政府の方針によりタート語が新制小学校で有料科目化され、この状態は第二次世界大戦開戦まで続いた。1928年、第一民族語紙Zakhmetkesh（労働者）の発行が始まった。戦後になると、ロシア語がダゲスタンの学校で受入可能な唯一の言語とされ、民族語紙は廃刊とされた。今日、山岳ユダヤ人出身の知識人は、俳優、芸術家、作家、詩人など、ダゲスタンの文化界で目立った存在となっている。しかしながら、今のところ、彼らの文化に光を当てているのはアマチュアの演劇やコンサートのみである。
