天竜三郎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』

天竜三郎（てんりゅうさぶろう、1903年（明治36年）11月1日-1989年（平成元年）8月10日）は、大相撲の力士で最高位は関脇。春秋園事件の首謀者として知られる。

静岡県浜松市に農家の三男として生まれ、学問を志していたがその体躯が話題となって、常陸山の出羽ノ海の勧誘を受けて入門。大正9年初土俵を踏む。士族出身で力士の地位向上に心をくだいた常陸山に師事したことは、彼のその後の行く末に影響を与えた。

1928年（昭和3年）5月に新入幕、同部屋で6歳年下の武蔵山武とははげしく出世を争い、昭和6年7月の満州巡業では、最終日に組まれた両者の対戦が水入り取り直しの大一番となり、その決着のために興行を一日延長したほどだった。のちに「松翁」となる20代庄之助が、自分が裁いた中で最も記憶に残る一番はと問われて、この相撲をあげたという逸話がある。

昭和7年1月場所を前に、幕内力士の大半を引き連れて料亭「春秋園」に立てこもり、相撲協会の体質の改善、力士の待遇の向上などを要求、いわゆる「春秋園事件」を起こす。要求がいれられないとみると、大日本関西角力協会を設立して、関西を拠点に独自に興行した。しかし、玉錦、双葉山らの台頭で東京の相撲協会が隆盛を取り戻すと、帰参を希望する力士も増え、昭和12年に関西協会を解散した。

関西協会の解散後、満州に渡って相撲の普及、育成に尽力。戦後、その功績によって吉田司家からも故実門人免許を授与されている。また、満州国では合気道開祖の植芝盛平を知り入門する。

戦後帰国してからは、スポーツ用品店を経営。のちに請われて、TBSラジオの相撲実況放送などで解説者を務めた。

昭和32年、相撲協会の体質を問題視した国会の特別委員会に出席、往年の主張を公にくりかえす機会を得た。

相撲解説者として、同時代の玉ノ海梅吉や神風正一と並んで人気があったが、その反面極端な毒舌であり角界きっての名力士として名高い貴ノ花健士に対しても「あれは兄（初代若乃花幹士）の人気の上に乗っかっているだけだ」と吐き捨てたほどである。だが、ただ一人富士櫻栄守に関しては「あれほどの力士はいない」と終始絶賛していた。昭和32年の特別国会で相撲協会を公に批判した後、TBSが自主的な配慮から彼を降板させた時には、「協会からの圧力か？」といった抗議が聴取者から多く寄せられた。TBSとしては、急遽聴取者からの質問に天竜が答える特別番組を放送して対応した。

春秋園事件の発生直後には、ライバル武蔵山に大関昇進を先んじられた逆恨みや、当時実質相撲界の全権を把握していた元小結両国の出羽海が武蔵山ら自身の直弟子を優遇して、自分たち常陸山直系の力士を冷遇していると見ての反発など、私怨からの行動と見る向きが強かった。戦後まで彼に好意的な評者でも、その主張の正しさは認めながらも、ことを起こした時期のために誤解を招いたという見方が主流だった。しかし、その目指したところは多くのちの改革で実現し、現在では近代的感覚をもった先見的力士として再評価されている。

字の書けない相撲取りもまだ少なくなかった時代に達筆で知られ、昭和の「角界三筆」のひとりにも数えられる。富岡八幡宮の〈出羽海一門友愛之碑〉の碑銘は彼の揮毫による。