仮面舞踏会 (ヴェルディ)
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「仮面舞踏会」は、ジュゼッペ・ヴェルディが作曲し、1859年2月17日に初演された全三幕からなるオペラである。
目次 |
[編集] 作品のデータ
- 原語曲名:Un ballo in maschera
- 原作:ウジェーヌ・スクリーブの戯曲「グスタフ3世 または 仮面舞踏会」
- 台本:アントニオ・ソンマ
- 初演:1859年2月17日、ローマ・アポロ劇場
[編集] 作曲の経緯
ナポリのサン・カルロ劇場から新曲依頼を受けたヴェルディは当初、シェークスピアの「リア王」のオペラ化を計画したが、サン・カルロ劇場がヴェルディが望む歌手達と契約しなかったことで「リア王」オペラ化計画が頓挫した。そこでヴェルディが選んだのがスクリーブの戯曲であった。この戯曲は、スウェーデンの啓蒙専制君主グスタフ3世が1792年に仮面舞踏会の壇上で暗殺された事件を題材に、王と暗殺者アンカーストレム伯爵の妻との架空の恋を絡ませたものであった。
しかし、国王暗殺という内容を検閲の厳しいナポリで上演する事が不可能となり、検閲があまり厳しくないローマで上演する事になった。ただし、これには条件がついた。その条件とは、作品の舞台をヨーロッパ以外の場所することだった。そこで、舞台をイギリス植民地時代のアメリカ・ボストンに移し、主人公グスタフ3世はボストン総督リッカルド、暗殺者アンカーストレム伯爵は総督の秘書レナートに、国王に反対する貴族ホーン伯爵とリッビング伯爵をそれぞれトムとサムエルとした。そして、リッカルドの殺害に使われた凶器をピストルから短剣に変えた。
しかし最近は舞台をスウェーデンに戻し、改定前のヴェルディの初期版に配した上演も増えてきている。
[編集] 初演の熱狂
こうして完成した作品は1859年2月17日ローマのアポロ劇場で上演され、大成功を収め、「仮面舞踏会」は「運命の力」「ドン・カルロ」と並ぶヴェルディ中期を代表する三大傑作の一つとなった。ヴェルディは、このオペラの中でしばしば登場するリッカルドの民衆への愛、リッカルドに対する反逆者の敵意・そしてリッカルドとアメリアの愛という三つのモチーフを音楽で見事に表現していると評される。 なお、初演の時はイタリア統一運動全盛期であり、初演に熱狂した人々は街のいたるところにViva VERDI! (ヴェルディ万歳!)と落書きした。もちろんこれには素晴らしい作品を作曲したヴェルディを賞賛するのと同時に、VERDIが偶然にも「イタリア国王ヴィットリオ・エマヌエーレ」(Vittorio Emanuele,Re D'Italia)の頭文字を取ったものでもあり、イタリア統一を目指すサルディニア国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世と重ね合わせられ、それによってヴェルディは愛国のシンボルとなったのである。
[編集] 構成
全三幕六場
- 前奏曲
- 第一幕第一場ボストン総督リッカルドの接見用大広間、朝
- 第一幕第二場郊外にあるウルリカの家、深夜
- 第二幕ボストン郊外の死刑台のある荒地
- 第三幕第一場レナート邸の書斎
- 第三幕第二場リッカルドの書斎
- 第三幕第三場仮面舞踏会が開かれている大広間
[編集] 登場人物
- ボストン総督リッカルド【グスタフ3世】(テノール)
- リッカルドの秘書レナート【アンカーストレム】(バリトン)
- その妻アメリア【アメリア】(ソプラノ)
- 女占い師ウルリカ【マダム・アルヴィドソン】(メゾ・ソプラノ)
- 小姓オスカル【オスカル】(ソプラノ)
- 水夫シルヴァーノ【クリスティアーノ】(バリトン)
- 陰謀者サムエル【リッビング伯爵】(バス)
- 共謀者トム【ホーン伯爵】(バス)
- 判事(テノール)
- アメリアの召使(テノール)
墨括弧は初期の人物名。
[編集] あらすじ
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
- 第一幕第一場
ボストン総督リッカルドを賞賛する人々とそれにまぎれた反逆者たちの陰謀の合唱で幕が上がる。そこにリッカルドが現われ、小姓オスカルが差し出す仮面舞踏会の招待客名簿から密かに思いを寄せるアメリアの名を見つけ心をときめかせてロマンツァ「恍惚とした喜びの中で」を歌う。人々が退出して独りになったリッカルドは物思いにふけりながら「アメリア」と独白するが、その時アメリアの夫レナートが入ってきて狼狽する。しかしレナートはこれに全く気が付かなかった。レナートはアリア「希望と喜びに満ちて」で反対派がリッカルドの命を狙っている、もし万が一のことがあったら・・と注意を促す。そこへ判事がやってきて人心を惑わせる占い師ウルリカの追放を求めるが、ウルリカと仲のいいオスカルがバラータ「浅黒い顔で星を仰ぎ」を歌ってこれを弁護する。ウルリカへの関心を抱いたリッカルドは、心配するレナートを押し切って人々を伴ってウルリカの所へ行こうと提案する。これに対して反逆者たちはリッカルドへの暗殺のチャンスと喜ぶ。
- 第二場
ウルリカの家では大勢の信者が集まっている。ウルリカはアリア「地獄の王よ」で不気味な呪文を唱えながら、占いをしている。そこへ漁師に変装したリッカルドがやってくる。占いが始まり、総督に仕える水夫シルヴァーノが自分に出世の芽があるか占ってくれと言う。それに対してウルリカは「金と位がすぐ手に入る」と予言。これを聞いたリッカルドはシルヴァーノを士官に任命する辞令と金をシルヴァーノのポケットに入れる。それを見つけてシルヴァーノは大喜び、人々は占いの的中に驚く。そこへアメリアの召使が現れ、主人が内密に占ってくれるよう求めるのでウルリカは人払いを命じる。そこへアメリアが現われ、総督リッカルドを愛してしまい、苦しんでいる。不倫の思いを消す方法を教えて欲しいと言う。ウルリカは「郊外の死刑台に生える薬草を深夜摘め」と言う。人の来る気配にアメリアは退出する。しかし、この話の一部始終をリッカルドは物陰で聞いていた。「アメリアが自分を愛している!私も死刑台へ行こう」と決心する。そして、再び人払いをされていた人々が戻るとリッカルドは舟歌「告げておくれ・・・」で占いを頼むが、ウルリカは手相からリッカルドの正体を見破り、「親しいものの手にかかって死ぬ」と予言。さらに「最初に握手する者が加害者」と聞いて周囲の人々は握手を求めるリッカルドに誰も応じない。反逆者たちもウルリカの占い結果に真っ青になる。そこへリッカルドの身を案じるレナートが現われ、何も知らずにリッカルドと握手する。これを見たリッカルドは私が忠実なレナートに殺されるはずがないと笑う。そこへ、シルヴァーノを先頭に総督が着ていると気づいた民衆が押しかけ大騒ぎとなる。しかし、ウルリカだけはこの中に反逆者がいると見破る・・・
- 第二幕
死刑台にヴェールで顔を隠したアメリアが現われ、アリア「でも、ひからびた茎から」でこの恐ろしい場所で薬草を摘む勇気を!と神に祈る。そこに夜中の12時の鐘におびえるアメリアのもとへリッカルドが姿を現し、驚くアメリアに愛を告白し、情熱的に迫る。アメリアもやがてこらえきれなくなり、二重唱「ああ、何と心地よいときめきが」でリッカルドを愛していると打ち明ける。しかし、そこに人の近づいてくる。それはアメリアの夫レナートだった。レナートは反逆者たちがあなたを狙っている。私とマントを取り替えて逃げてくださいと勧める。リッカルドは迷うが、アメリアの強い勧めもあってその通りにし、立ち去る。そこへ反逆者たちがやってくるが、総督がすでに逃げた事を知った彼らは腹いせに「総督の愛人」の顔を見ようとして小競り合いになる。それを止めようと仲裁に入ったアメリアだったが、被っていたヴェールが落ちてしまう。レナートは妻の裏切りに愕然となり、反逆者たちはレナートを嘲る。怒り狂ったレナートは総督に復讐を誓い、立ち去ろうとする反逆者たちに明朝屋敷に来るよう言う。
- 第三幕第一場
屋敷に戻ったレナートは妻の弁明に耳を貸さず冷たく死を命じる。死を覚悟をするアメリアはアリア「私は死んでまいりましょう。でもその前にこの願いを」で子供との別れを求める。これを受け入れアメリアが退出するとレナートはアリア「おまえであったか、この魂を」でリッカルドの裏切りに憤り、妻との幸福だった生活を懐かしむ。そこに反逆者一派のサムエルとトムが訪れる。レナートはこの2人の陰謀を察知していたが、これを黙っておく代わりに総督の暗殺を引き受けると言う。しかし、サムエルとトムも自分が暗殺をすると言って聞かない。くじ引きで選ぶ事になり、名前の書いたカードを壷に入れ、仮面舞踏会の招待状を持ってきたオスカルが来たことを告げに来たアメリアに引かせる。かくして暗殺はレナートがやる事になった。喜ぶレナートにリッカルド暗殺を直感したアメリアだったが、これをリッカルドに知らせるべきか迷う。
- 第三幕第二場
アメリアとのことが露見したとも知らずにリッカルドはアメリアを諦める決心をし、レナートとアメリアを本国に帰す辞令に署名する。アリア「もしも、私が永遠に」でアメリアの事は美しい思い出にしようと歌う。そこへオスカルが見知らぬ女性からと手紙を差し出す。そこには総督暗殺計画が仮面舞踏会の日にあると言う内容だった。この手紙を書いたのはアメリアだった。しかし、逃げる事を嫌ったリッカルドは舞踏会に出ることをオスカルにつげ、もう一度アメリアに会っておこうと決心する。
- 第三幕第三場
華やかな仮面舞踏会の会場に暗殺者三人組が現れる。レナートはオスカルに総督の扮装を聞くが、勘のいいオスカルは上手くはぐらかすが、大事な話があると言うレナートに結局は教えてしまう。そこへリッカルドが会場に現れるが、アメリアが近寄り危険だから立ち去るように言う。リッカルドはアメリアに本国に帰るよう言い、別れを告げる。しかし、そこへレナートが近寄ってリッカルドを刺す。倒れるリッカルド、総督が刺されたということで仮面舞踏会の会場は騒然となるが、リッカルドはこれを制し、レナートにアメリアが潔白だと告げて懐から本国への帰国と栄転を記した辞令を渡す。呆然とするレナートを尻目にリッカルドは事件の関係者の特赦を言い残し、民衆への別れの言葉を最後に息を引き取る。
[編集] 聴きどころ
- ロマンツァ「恍惚とした喜びの中で」(リッカルド)*テノールの美しさを堪能できる
- アリア「希望と喜びに満ちて」(レナート) *レナートのリッカルドへの思いが切々と伝わる
- アリア「地獄の王よ」(ウルリカ) *出番が少ないウルリカの出来を左右する曲。メゾ・ソプラノの腕の見せ所
- 二重唱「ああ、何と心地よいときめきが」(リッカルド&アメリア) *愛の陶酔の極致ともいうべき情熱的な二重唱
- アリア「おまえであったか、この魂を」(レナート) *リッカルドへの怒りとアメリアへのレナートの思いが切ない
- アリア「もしも、私が永遠に」(リッカルド) *アメリアへの思いを諦める決心を歌う。切々とした思いが伝わる
[編集] 参考文献
- イタリア・オペラ<下> スタンダード・オペラ鑑賞ブック〈2〉音楽之友社 1998年
- 200CD アリアで聴くイタリア・オペラ―ベルカントの魅力 立風書房 2002年
- 仮面舞踏会 オペラ対訳シリーズ (13) 音楽之友社 1967年