三菱・デボネア
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デボネア(Debonair)は、かつて三菱自動車工業(及びその前身三菱重工業)が製造していた高級自動車である。ライバルにはトヨタのクラウンやメルセデス・ベンツを標榜するものの、最後まで三菱グループの重役専用車としての域を出なかった。車内は広く実用的であり、中古車市場では同クラスの車に比べはるかに安価である場合が多い。また、韓国の現代自動車にて2代目、3代目をグレンジャーの名称で生産・販売していた。
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[編集] 歴史
[編集] 初代(A30-A33型 1964-1986年)
1964年(昭和39年)に製造開始。以後、1986年までの22年間モデルチェンジすることがなかったことから「走るシーラカンス」という愛称もついた。当時の道路交通法の規程ギリギリのサイズで設計され、1960年代のアメリカ車の雰囲気から見た目はかなりの大型に見えるが、ドアミラーに付け替えない限り、現行法で5ナンバークラスに収まる。1970年代に2回にわたり搭載エンジンの見直しが行われており、当初の直列6気筒の1991ccOHVから、2回目のマイナーチェンジで直列6気筒の1994ccSOHC、3回目のマイナーチェンジでバランサーシャフト(サイレントシャフト)付きの直列4気筒の2555ccSOHCの排気量のエンジンにそれぞれ換装されている。
三菱自動車のフラッグシップであったことから、三菱グループ各企業で重役専用車として重用される一方、そのイメージを嫌った企業(特に、非三菱系列の大企業関係者)に敬遠され、古臭いデザインのため晩年は一般ユーザーにもほとんど売れなかった。しかし、古き良きアメ車の雰囲気を保ちつつ1980年代半ばまで生産されていたことから、ノスタルジックカーとしては程度の良い車が手に入りやすく、近年、旧車好きの間で人気が高い。なお、法人需要が多かった関係から現存個体は黒塗が圧倒的に多い。また、特装車として後席左側屋根が開くブライダル仕様もあった。
[編集] 2代目(S10系 1986-1992年)
売れない車に開発費を投じることができない状態が続いていたが、意外な理由で22年ぶりのモデルチェンジが行われる。理由のひとつは、当時提携関係にあった大韓民国の現代自動車は、ソウルオリンピックを前に、訪韓するVIP送迎用に自社生産による高級車の製造を目論んだが、高級車製造のノウハウも時間的余裕もなく、現代がノックダウン生産をする前提 (現地名:ヒュンダイ・グレンジャー) でその開発を三菱自動車に依頼する。もうひとつの理由は三菱自動車は当時、6気筒以上のエンジンをラインナップしておらず、またデボネアの販売量で新たにエンジンを開発するには困難であったが、ちょうどその頃、提携関係にあったクライスラー向けにV6エンジンの生産、供給することが決まり、そのエンジンを流用することができたためである。以上の理由で古色蒼然としていたデボネアのモデルチェンジが行われた。1983年発売されたギャランΣのプラットホームを利用した為、このモデルより前輪駆動化され、一般ドライバーをもターゲットにしたラインナップの充実が行われた。ドイツのチューナーに監修を依頼したAMG仕様、大人向けのアパレルメーカーに内装を依頼したアクアスキュータム仕様などの特別仕様車の登場がその例である。エンジンはV6の2000ccSOHC、同スーパーチャージャー、V6の3000ccSOHCのエンジンを搭載する。後に3000ccDOHCが追加された。タクシー、ハイヤー用として2000LPGも用意。スタイルはボディが5ナンバー車用であるという制約の中、最大限広い室内空間を確保する必要があったこと、トランクに多数のゴルフバッグを入れる必要があったことなどから、直線的な四角い形にせざるを得ず、型遅れの四角いクラウンのような姿であった。このためか、思うように販売量が伸びなかった。しかし、2000ccの廉価版モデルが200万円を遙かに下回る価格で販売されたことから、タクシーなどの業務用車両に多く用いられていた。 CMにはクラシック指揮者の井上道義氏がタクトを揮うオーケストラの演奏シーンが映るベートーベン交響曲6番「田園」最終楽章であった。
[編集] 3代目(S20系 1992-1999年)
1990年に発売されたディアマンテ/シグマが3ナンバー専用車で、5ナンバー車がベースのデボネアVとサイズの逆転現象が起きており、3代目はメルセデス・ベンツを凌げとばかりに高級感あふれる仕様となった。製造開始は、バブル末期の1992年(平成4年)である。3代目も現代自動車ではグレンジャーの名称で生産・販売され、グレンジャーをベースに更に高級化したダイナスティも登場している。全長4,975mm、全幅1,810mmを誇る車体であるが、サスペションはフロントがストラット、リアにマルチリンク方式を採用しているように、ベースはディアマンテ。グレードは大きく分けて2シリーズあり、ハイヤー、社用車向けのエグゼクティブシリーズ、オーナー向けのエクシードシリーズがあった。エンジンはV型6気筒(V6)3000SOHCとV6 3500DOHC。タクシー用はV63000LPG。バブルが崩壊し始めた時期であり販売は当初から伸び悩んだ。1999年(平成11年)には、販売量の少なさや顧客の特異性などから自社一貫開発を取りやめ、新たに現代自動車が主導の共同開発の形で製造を始めたプラウディアに道を譲り、モデルの命運を閉じている。
[編集] 車名の由来
「愛想の良い、礼儀正しい、陽気な」という意味の英語。