三島弥彦

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三島弥彦（みしまやひこ、1886年2月 - 1954年 2月1日）は明治期のオリンピック日本代表選手。「彌彦」とも書かれる。

警視総監三島通庸の三男として1886年（明治19年）2月、東京府に生まれる。

2歳のとき父を失う。長じて学習院に学び、東京帝国大学法科に進む。

170cmを超える長身を誇り、学習院時代に野球と出会い、東大時代にスキー術を修め、スポーツに対する造詣浅からぬ青春時代を過ごした。

1911年（明治44年）、陸上競技に夢中になりつつあった頃、ストックホルム（スウェーデン）で開かれる第5回国際オリンピック大会代表を決める「オリムピク大會予選競技会」が羽田で挙行されることになり、審判委員として来場するよう要請があった。要請には答えなかったが、このようなイベントがあることを知り、元々スポーツが大好きであったから、来場のうえ外野で学友と観戦しようと決め込んでいた。ところが、である。「生来の好戦癖はムクムクと起って、到底ジッとして傍観しては居られぬ。久しく練習も絶えていたけれども、兎にも角にも交はって走って見やうという位の考で」突如飛び入り参加し、周囲を唖然させた。すると驚いたことに、100ｍ、400ｍ、800ｍの各短距離徒競走で第一位、200ｍで第二位を獲得。

夕闇せまる羽田グラウンドに満場の拍手沸き起こるなか、大日本体育協会会長嘉納治五郎より、予選会賛助企業大阪毎日新聞社寄贈の大トロフィーを授けられた。而して立高跳び優勝の後藤欣一、立幅跳び優勝の泉谷祐勝、走幅跳び優勝の霜田某を退けて、マラソンおよび一万メートル走に出場が予定された金栗四三とともに、栄えある日本人五輪選手がここに誕生した。

以後毎週土曜日、金栗と二人してアメリカ大使館書記官キルエソンに師事して、陸上競技の様々な技法、心得を学び、例えば400ｍ走は予選競技会時の59秒30が50秒台にまで縮まった。

しかし彼は「『かけっこ』如きで洋行してよいものか」という自己内部の迷妄、欧米人のスポーツショーに官立学校の生徒が派遣されると誤解した文部省の無理解に苦しめられるが、学友や帝大総長の励ましに後押しされ、卒業試験延期をも決して、五輪出場の意を固めた。（卒業式は大会期間中に予定されていた）

1912年（明治45年）5月16日午後6時40分、長兄三島弥太郎（当時・横浜正金銀行総裁）、実姉日高たけ子が見送るなか、野球試合で縁のある慶応義塾野球部員から「万歳」大合唱のうちに花飾りの大輪を首に架けられ、いざ新橋駅からストックホルムへと旅立った。「愈々出発することになりました。身体も只今の処健康です。この分で身体に支障が起こらない限は遣って見ます。無論名を汚さざらん事に力めます」(『東京日日新聞』)

1912年（明治45年）7月6日、旗手として開会式に登場。出場選手わずか2名のため、行列人数が非常に少なく蕭条の観があったが、かえって群集の同情をひいた、と日本人記者は報じている。

当日午後いよいよ短距離予選に出場したが、最初の100ｍ予選でいきなりトップに1秒以上の差をつけられ敗退。スウェーデンではキルエソンの助言を得ることもできないため、すっかり意気消沈してしまい、金栗四三に「金栗君。日本人にはやはり短距離は無理なようだ」と語った。

つづく200ｍ予選は英米独3選手に敗れ最下位。400ｍ予選は100ｍ、200ｍで金メダルを取ったクレーグ（アメリカ）が他選手に謙譲して棄権したこともあり、見事準決勝進出の権利を得たが、「右足の痛み激しきが為」棄権してしまった。近年の資料では「精神的肉体的困憊のため」あるいは「勝機無しと見たため」を理由に掲げるものの方が多い。

金栗の競技も終えると、嘉納団長、金栗と語らって4年後のベルリン大会での雪辱を誓い、閉会式を待たずに出国、次大会開催国であるドイツに向かった。

さて、そのベルリン大会が第一次世界大戦で中止となり、8年間の中絶を経て1920年（大正9年）アントワープ大会が開催されたが、おそらく、このころ既にオリンピックに出場できるような肉体を失っていたのであろう、予選にも姿を見せなかった。

1913年（大正2年）、帝大を卒業して兄のいる横浜正金銀行に入行。青島支店支配人を経、1939年（昭和14年）本店に戻り検査人に就任している。大学卒業以降、スポーツ界から全く退いたようで、1954年（昭和29年）2月2日、東京都目黒区でその前日死没したことを伝える訃報記事が新聞紙面のわずかな一隅を占めるまで、メディアに登場したことが殆どない。

しかし、日本人初の国際アスリートであることには一寸の疑念も差し挟む余地がなく、日本スポーツ史に刻まれた三島の名は永遠に不滅であろう。