ヴィンランド・サガ
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『ヴィンランド・サガ』(VINLAND SAGA)は、幸村誠による漫画作品。2006年現在3巻。
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[編集] 概要
11世紀初頭の北ヨーロッパ及びその周辺を舞台に繰り広げられる、当時世界を席巻していたヴァイキングたちの生き様を描いた歴史漫画である。2005年4月より「週刊少年マガジン」(講談社)で連載が始まったが、2005年10月に週刊連載は結局無理だったということで同誌での連載を終了。同年12月より「月刊アフタヌーン」(講談社)にて連載を再開し、現在に至る。
デビュー作『プラネテス』で星雲賞を受賞した幸村誠による緻密でリアリズムにあふれた描写と、主人公たちが口にする数々の名言は本作においても健在である。
なお単行本は「マガジン版」の1・2巻が出されたあと、「アフタヌーン版」に装いを改めて1巻から再販されている。
[編集] あらすじ
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
主人公の少年・トルフィンは、デンマークに拠点を構えるアシェラッドの傭兵団で戦場を駆け巡っていた。武器は父・トールズの形見の短剣。素早い立ち回りと一撃必殺を得意とし、鎧は一切身につけず、とある経緯でイングランド人からもらった服を常にまとって戦場に赴いている。彼は超人的な身のこなしで戦場を駆け抜け、二本の短剣を巧みに操って次々と標的を倒していく、凄腕の剣士である。寡黙でプライドが高く、他人に気を許さない。
だが、子供の頃の彼はやんちゃで心の優しい、アイスランドの小さな村に住む男の子だった。しかし、眼前で父を殺されたことで、彼の性格は大きく変わってしまった。トルフィンがアシェラッドの傭兵団に属する理由はただひとつ。父・トールズを罠にはめて殺したアシェラッドを殺し、父の敵をとること。ゆえに彼がアシェラッドに要求する『褒美』は、常に『アシェラッドと決闘する権利』である。その『褒美』のためにトルフィンは日々戦う。最も憎むべき存在であるアシェラッドの命ずるがままに――。そして、彼はもうひとつの『渇望』を抱いている。
豊穣な大地で奴隷もいない『ヴィンランド』。父が生きていた頃、レイフ・エリクソンが幼い自分たちに語っていた世界……トルフィンは常にその世界を渇望してやまない。時はイングランド侵攻の真っ只中。トルフィンはこれからの戦いで何を得るのか? 父の敵は討てるのか? アシェラッドはなぜ、トルフィンを殺さずに自分のもとに置いているのか? そして……トルフィンは『ヴィンランド』を見つけられるのか? これは、ひとりの『戦士』の『物語(サガ)』――である。
[編集] 主な登場人物
- トルフィン
- 物語の主人公。本名、トルフィン・トールズソン。アシェラッド傭兵団に属する戦士階級(ヤルル)の若者。戦いでの強さのみが求められる傭兵団の中にあっては、元より人の良さは求められよう筈も無いが、王子クヌートにメンチを切ったり、傭兵団たちの享楽に誘われても舌打ちしてその場から離れたりと、必要以上に極めて無愛想である。しかし人の情が解らないほど非人間的なわけではなく、他人の流す血に歓喜している訳でもない。戦いで得られる決闘の権利と、ヴィンランドの幻だけが心の拠り所であり、関心事である。ヴィンランド移住を果たしたトルフィン・カールセフニ・トールズソン(西暦970年-?)が彼のモデルという説がある。ちなみにミドルネームの『カールセフニ』は『男気』という意味。
- アシェラッド
- 本名、アシェラッド・ウォラフソン。傭兵団のボスであり、トルフィンの父の敵。狡猾で腕っ節が強い。幸村氏の父がモデルとの噂あり。享楽的で不真面目に振舞うが、戦では部下に最大の富と栄誉を勝ち取る場を提供し、また自身も様々な戦場で功を立てた勇士でもあるため、部下から信奉されている。狡猾といえば聞こえは悪いが、用兵の才にも長け、時に大胆な奇策で確実に任務をこなす。だが傭兵の常として、儲けのためなら雇い主にすら仇を成す人物でもある。トールズの人間性を高く評価しており、トルフィンを手元に置いている理由もここにあるのではないかと思われる。決闘の際に「我が祖アルトリウスの名にかけて」と発言したとおり、アーサー王の原型ともなった古ブリタニアの軍神アルトリウス(アーサーのローマ名。)の唯一の子孫でウェールズ人とデーン人との混血である。しかし、本人はデーン人のことを嫌っている。
- ビョルン
- アシェラッド傭兵団の一員。殺しが好きな男で、トールズと戦った際に、狂戦士のキノコを食べて敵味方容赦なく攻撃した。戦士としての矜持(プライド)が高く、その行動がトルフィンに大きな悲劇をもたらした。実質、アシェラッドの片腕で十数年間ともに戦ってきた傭兵団一の古参であるが、彼自身、アシェラッドに関して何も知らないことに少なからずジレンマを感じている。
- ゴルム
- デンマークのユトランド半島の中西部の地方領主で、アシェラッドの叔父。アシェラッド兵団を冬のあいだ世話している。金に異常に執着しており、その終着ぶりは甥であるアシェラッドに『カネの奴隷』とからかわれるほど。
- フローキ
- トールズの元同僚。ヨーム戦士団に属し、現在はスヴェン王に仕えている。アシェラッドにトールズ暗殺を依頼した。
- トルケル
- 類まれなる巨体を武器に大暴れする傭兵団のボス。ヨーム戦士団の首領・シグヴァルディの弟。強者との戦いに快楽を求める彼もまた、かつてはヨーム戦士団の一員であった。己の指を2本奪ったトルフィンの正体をいち早く悟り、彼との再戦を渇望している。トルフィンとは親戚の関係にある。
- クヌート
- デンマーク国王兼ノルウェー国王・スヴェンの次男。キリスト教を心から信奉しているゆえ優しすぎる性格を、戦場に出ることで変えようとスヴェンがイングランド遠征に彼を送るも、部下とともにトルケルの捕虜になってしまう。しかし、アシェラッドの予想もつかぬ姦計で一命を取り留める。豪奢な兜の下に隠した顔は、アシェラッドが『姫』と疑ってしまうほど崇高で美しい。非常に臆病で、忠臣のラグナル以外に口を開くことがなかったが、同い年であるトルフィンの挑発的な態度に対して激昂し初めてラグナル以外に口を開いた。
- ラグナル
- クヌートの忠臣であり教育係。トンガリ頭が特徴。家族兄弟ですら敵であり、権力のために常に殺し合いを繰り広げる王宮でクヌートを守ってきた。
- 神父
- クヌートやラグナルと行動をともにするアル中神父。髪がボサボサで身なりもみずぼらしいが、アル中の症状が軽い時はアシェラッドの手下たちに愛を語っている。トールズの話を聞いた際、彼に愛を見出す。
[編集] 幼少篇の登場人物
- トールズ
- トルフィンの父。本名、トールズ・スノーレソン。心優しく礼節のある人物。かつてはヨームの戦鬼(トロル)と呼ばれ、ヨーム戦士団大隊長だったが、ユルヴァの誕生がきっかけで、戦うということに悲しみを覚えるようになる。ノルウェー沖海戦で自分が『死んだ』ように見せかけ、脱走。妻子とともにアイスランドの果ての小村で、穏やかな平和のうちに暮らすようになる。だが、再び戦場に駆り出されて遭遇したある事件で、元同僚フローキに雇われたアシェラッドの罠にかかり、命を落とす。トルフィン・カールセフニ・トールズソンの父トールド・スノーレソンがモデルという説がある。
- ヘルガ
- トルフィンの母。本名、ヘルガ・シグヴァルディスドーテル。シグヴァルディの娘にして、トルケルの姪。彼女がトールズの生き方を変えたといっても過言ではない。身体がもともと丈夫ではない。
- ユルヴァ
- トルフィンの姉。本名、ユルヴァ・トールズスドーテル。サバサバした性格で父親似の美人。彼女もまた、トールズの生き方に新たな分岐点を与えた。現実的で勝気な性格の持ち主で、雪の中に埋まっていたハーフダンの奴隷を『親戚』と偽ろうとしたり、告白しに来た村の若者たちに「ほかあたってくれる?」と言って相手にしなかったりする場面がある。トールズの死後、男に混じって捕鯨に行ったり、寝る間を惜しんで機織に専念したりと、男手を失った家庭を必死に支えようと懸命に働く毎日を送る。しかし、それは父の死と消息不明の弟のことを生活の中で意識しないようにするためであったが、「もういい」という母の前で初めて号泣した。アフタヌーン版の1巻の巻末には彼女を主役にした4コマギャグマンガ『ユルヴァちゃん』が掲載されている。
- ハーフダン
- トルフィンたちの村の隣にある村の主。鎖こそが人間を人間たらしめると信じてやまない冷酷な男で、常に右手に鉄の鎖を持っている。彼の村の衆は、トルフィンたちの村の衆と牧草地の境界線のことで何度ももめている。
- アーレ
- トルフィン一家の隣人で、ユルヴァに惚れている。好戦的で戦にあこがれている。ほかの若者と同様、トールズがフローキに招聘された際、彼とともに船に乗った。トールズの死に激昂してアシェラッドに戦いを挑むも、一発で倒されてしまう。
- ファクシ
- 幼少時代のトルフィンの遊び友達で、戦ごっこの『やられ仲間』。トルフィンと一番仲がよかったが、彼の豹変についていけなくなってしまった。
- レイフ・エリクソン
- 大西洋を旅する陽気なオジサン。彼の語った旅の話は今もなお、トルフィンに影響を与えている。ちなみに実在する人物であり、ヨーロッパ人としてはじめて北米に到達した人物である。