モード (旋法)
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モードとは、元来、ある曲を構成し演奏するための元となる、外見上は、数種のスケール(音階)と同様の、1オクターブ内の音の配列のこと。その場合、無数に存在する様々なスケールと区別すべく、いくつかの限定されたきまりがある。
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[編集] 歴史・経緯
現在ある体系とほぼ同様の形に成立したのは、中世以前に成立した教会旋法からといわれているが、その起源は、古代ギリシアの時代まで遡るともいわれている。
1950年代終わりから1960年代に入る当初、マイルス・デイヴィスなどによって、研究やトライアルの末、積極的にジャズにも取り入れられ、特に即興演奏(アドリブ)に効果を発揮した。
ビバップやハード・バップからモード・ジャズ(modal jazz)中心へと移ることにより、それまでの「劇的ではあっても、和音進行(コード進行)から導き出されるスケールの限界」、または、「和音の構成音に縛り付けられパターン化されたフレーズ作りやアドリブ」から開放され、モード奏法の確立によって、「地味に陥る危険性をはらみながらも、自由な発想でアドリブ演奏ができる」ようになったといえる。
[編集] 分類
現在、コンポージット・モードを除けば、モードと呼ばれるものは7種類あり、大きく分けると「長旋法」と「短旋法」とに分けることができる。しかし、実際にはそのバリエーションも多い。また、使用頻度の少ないもの、モードジャズ以外のポピュラー音楽で(スケールとして)用いた場合に、対応性のあまりないものや、違和感のあるものも含まれる。 和音構成音において、基音(ルート)に対して、長短3度のどちらの音がその和音に含まれているかによって、その和音の長短が判別されるのと同様、モードにおいても、それぞれの音列の1度の音に対して、長短3度の音のうち、どちらの音が含まれているかによってこれらの多くは分類される。(この場合の長短は、長調=majorと短調=minorを指す。)
ジャズでは、モードを調として使用する場合に、音の配列がMajor Scale(長音階)と同じ「アイオニアン」を除いた6つを、「モード」と定義することが多い。モードの使用は、従来の狭義の調性(長調と短調)から脱却しようとする試みなので、あまりにも従来の調性である長調を感じさせるアイオニアンは使用されないのである。エオリアンは自然短音階と同一であるが、エオリアンはもともとモーダルな響きを持っているため、モードとして使用される。モードを調として使用しない場合、つまりあるコードのアベイラブル・ノート・スケールを説明する場合には、アイオニアンも用いられる。
グレゴリアンモード(Major Scale やNatural Minor Scale を転回したもの。) 長旋法に属するもの
- Ionian (アイオニアン)
- Lydian (リディアン)
- Mixolydian(ミクソリディアン)
短旋法に属するもの
- Dorian(ドリアン)
- Aeolian(エオリアン)
- Phrygian(フリジアン)
- Locrian(ロクリアン)
[編集] 「教会旋法」と「大衆音楽」
元来、教会旋法として用いられていた際には、特にパイプオルガンなどの、音域の広い楽器を用いていたために、それぞれの旋法の1度の音は、現在の「移動ド」に近い形態であった。(当初は、和音などといった概念がほとんどなかった。)専門家からの反論を承知の上で、初心者にもわかるように、荒っぽくかつ、単純に述べるなら、ある1オクターブ内に存在する白鍵だけを、それぞれ順に1度=基音として、個々の白鍵から1オクターブ=8度までの白鍵の音(8度の音は、1度の1オクターブ高い音。)を一単位として、順に7種類弾いたものがそれぞれ、ここで述べる、「音階」に分類される2つも含めた、ごく狭義でいう「7つのモード」の、元々の正体といってよい。しかし、当初の教会旋法はそれに加えて、いくつかの他の旋法も存在し、楽曲の始まりと最後の音の限定、上行と下行の際に音の配列が変化するなど、モード(旋法)ごとに、細かく厳密な規則も存在した。(教会旋法。) 大衆音楽に頻繁に用いられるようになった段階では、細かい規則は排除され、固定ドでの1オクターブの内の音の配列となり、基本的に基音が固定されることによって、当然ながら、それぞれのモードにおいて、途中の音の配列や個々の音の半音・全音の関係などが変化することとなる。またその結果、現在の各モードを、パイプオルガンにかかわらず、他の鍵盤楽器(キーボード)で弾くと、Major Scaleであるアイオニアン以外は、その音列すべての1音~5音の間で、黒鍵の音が含まれることとなる。 よって、研究段階では、「教会旋法」のシステムが参考にされて取り入れられたが、実用面での各「モード」は、「教会旋法」が自然に変化したものでも、直接関連したものでもないとする主張も多い。
[編集] 「モード」と「スケール」
一般的に'scale'を「音階」、'mode'を「旋法」と訳すことが多く、一般的には正しいともいえるが、この場合の'mode'は「モード」(='modal scale')と、原語のまま捕らえた方が、誤解も少なくない。 また、「モード」導入によって、基本的にコードやコード進行優先の形態が撤廃されたことにより、演奏を縛ることとなる、コード進行や個々のコード名は用いないが、楽曲として存在するためには、その曲自体の「キー」は存在し、それによって、基音やインプロヴィゼイション(ソロ演奏)の際の、最低限のおおまかななコード名が指定されることが多い。その際に例えば、「A(の)リディアンモード」、「C(の)フリジアンモード」などということが多い。(注;そのバリエーションとして、例えばAmのキーの曲で、「Aのエオリアン・スケール」ではなく、「Gのドリアン・スケールを使って弾く」などということもありうる。この場合には、「スケール」という言い方になる。また、厳密には、「コード」や「コード名」は設定しなくとも、複数で演奏した場合だけでなく、ギターやピアノなど一台で複数の音が出せる楽器の場合には、同一基音の同モードの重なり合いの流れの中で、時々に擬似的、あるいは、補助的な和音の状態は存在する。しかし、流れの中で、あえてコードを付けようとすると、ポピュラーなコード名やコード進行などという範疇からは遠くなってしまう。) しかし、こういったジャズ以外のポピュラー音楽の多くは、やはり、コード主体のことが多く、コード展開の中で、こういったモードと同じ音の配列を使って、イントロや間奏、歌などのメロディーラインを作った場合は、これらはモードではなく、スケールと同義になってしまう。この場合、「A(の)リディアンスケール」、「C(の)フリジアンスケール」などという表現に変わってしまい、長旋法の一種であるリディアンスケールの、ここで例を挙げたAは基音であるのと同時に、コードはA(または、Aメジャー)であり、同様に、短旋法に属するフリジアンの基音はCであるのと同時に、コードはAm(または、Aマイナー)となる。 (詳細については、音階の項を参照のこと。但しそれは、「スケール」を主体とした観点から述べられている。英語版においても、'scale (music)'と、'musical mode'と分けて項目を設置しているので、混同しないよう、留意すること。)
[編集] 各モードの構成
以下に、その音の配列と、個々の音の間の半音・全音の関係を( )内に記す。基音は、比較しやすいようにCとする。 (ここでは、初心者やポピュラー音楽しか知らない方々や、一般的なギタリストなどを対象としているため、和音や和声学で主に使われる、ローマ数字の配列による表記は、「音階」の項参照のこと。)
- アイオニアン(CM7→CM7)
ド(全) レ(全) ミ(半) ファ(全) ソ(全) ラ(全) シ(半)ド
- ドリアン(Dm7→Cm7)
ド(全) レ(半)♭ミ(全) ファ(全) ソ(全) ラ(半)♭シ(全)ド
- フリジアン(Em7→Cm7)
ド(半)♭レ(全)♭ミ(全) ファ(全) ソ(半)♭ラ(全)♭シ(全)ド
- リディアン(FM7→CM7)
ド(全) レ(全) ミ(全)#ファ(半) ソ(全) ラ(全) シ(半)ド
- ミクソリディアン(G7→C7)
ド(全) レ(全) ミ(半) ファ(全) ソ(全) ラ(半)♭シ(全)ド
- エオリアン(Am7→Cm7)
ド(全) レ(半)♭ミ(全) ファ(全) ソ(半)♭ラ(全)♭シ(全)ド
- ロクリアン(Bm7♭5→Cm7♭5)
ド(半)♭レ(全)♭ミ(全) ファ(半)♭ソ(全)♭ラ(全)♭シ(全)ド
IM7‐IIm7‐IIIm7‐IVM7‐V7‐VIm7‐VIIm7♭5
(Cメジャースケールの場合、CM7‐Dm7‐Em7‐FM7‐G7‐Am7‐Bm7♭5) 教会旋法当初に忠実な、移動ドに近い状態の各モードの音階に、コードをつけると、メジャースケールの音階を構成する、一つずつの音に順にコードをつけるのと同じになる。
(註;元々、モードはコードとは無関係だが、この音の配列から、あるいは、これをスケールとして用いた場合に、近似的にコードが導き出される。コード名の後のカッコ内に、教会旋法当初と、現在の固定ドとで導き出される場合の、おおまかなコードを記した。よって、キーを変えた場合や、スケールとして他のコードで用いた場合は、「ルート=基音=1度の音と、全音・半音の配列」の関係をそのまま平行移動すること。つまり、例として、「Dのロクリアン」をギターなどで弾く場合なら、半音が1フレット、全音が2フレットのため、レを第1音=基音として、そのままフレットを「基音・1・2・2・1・2・2・2」と、上げて弾いてゆけば、弾くことが可能となる。鍵盤は、視覚でわかりやすいため、省略する。)