ピアノ協奏曲 (ラヴェル)
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モーリス・ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調は、ラヴェルの作曲したピアノ協奏曲。「左手のためのピアノ協奏曲」と並行して作曲され、ラヴェルの作品としては、歌曲集「ドゥルネシア姫に心を寄せるドン・キホーテ」の前、ピアノを交えた作品としては最後の曲に当たる。
目次 |
[編集] 作曲の経緯
ラヴェルは1928年に自作を指揮してのアメリカ演奏旅行が大歓迎で迎えられ、2度目の演奏旅行を計画した。その際に自身が演奏することを前提として、ピアノ協奏曲の作曲にとりかかった。1929年に着手されたが、「左手のためのピアノ協奏曲」の作曲のために途中から同時並行作業となり、結局完成したのは1931年である。
なお、1906年に着手したもののスケッチのみで終わってしまった“Zazpiak Bat”(「バスク風のピアノ協奏曲」。直訳だと「7集まって1となる」)の主題が、第1楽章と第3楽章に流用されている。
完成時、ラヴェルは自分自身のピアノ兼指揮で初演したかったが、自分の力量を見極めて(体調不良で医者から休養を薦められたこともあった)、ピアノをマルグリット・ロンに任せた。2ヶ月近いリハーサルの末、初演は1932年1月に彼女の独奏とラヴェル自身の指揮によるラムルー管弦楽団によって行われ、好評で迎えられた。
[編集] 編成
独奏ピアノ、ピッコロ、フルート、オーボエ、コーラングレ、小クラリネット、クラリネット(以上各1)、ファゴット2、ホルン2、トランペット、トロンボーン(以上各1)、ティンパニ、大太鼓、小太鼓、シンバル、タムタム、トライアングル、ウッドブロック、鞭、ハープ、弦五部
「左手のためのピアノ協奏曲」とは対照的にオーケストラの規模は小さいが、管楽器は少人数ながら多彩であり、また多様な打楽器とハープが用いられている点は共通している。
[編集] 楽曲解説
この曲はよく「左手のためのピアノ協奏曲」と比較され、後者が非常に高度なピアノ演奏で戦争を批判した鬼気迫る迫力と哀愁を醸し出しているのに対し、こちらは管弦ピアノ共にすっきりと溶け込んでいて、ユーモアと、洗練された高雅な美しさが漂える。
またラヴェル本人は友人への書簡でこの協奏曲について「モーツァルトやサン=サーンスと同じような美意識のもとに書かれた、あらゆる意味で協奏曲らしい協奏曲」と語っている。
第1楽章 Allegramente 4/4拍子 ト長調 ピシャリという鞭の音(演奏会では3楽章で出てくるグロッケンシュピールで代用することもある)でインパクト強く始まるこの曲は、複調のピアノとフルートとホルンの協奏がジャズのブルースを思い起こさせる。典型的な主題、展開部、再現部の3部構成で、途中で仄かな感傷的部分を挟みながらも、終始リズミカルでユーモラスなイメージが続く。
第2楽章 Adajio assai 3/4拍子 ホ長調 2分以上の長いピアノの主題提示の後に様々な木管楽器が旋律を歌い上げるこの曲は、モーツァルトのクラリネット五重奏曲に感化されたと言われる。3/4拍子とあるが、6/8拍子で3つ区切りの印象を受ける。
弦の繊細な和声にフルート、オーボエ、クラリネットが途切れること無く唄い、その後もファゴットやホルン等も出て来て盛り上がった後、イングリッシュホルンのソロで最初の主題を再度演奏する。ピアノは伴奏に回り、短2度や長7度の不協和音を奏でる弦が一層感傷的なものにする。イングリッシュホルンが終わった後、フルート、オーボエ、イングリッシュホルンがまた一つの旋律をつなげ、ピアノのトリルで儚げに終わる。
マ・メール・ロワ以降ラヴェルが目標としていた、簡素ながらも見事なまでの精緻で美しいこの曲の音色は、ラヴェルの作品の中でも際立っており、この協奏曲の素晴らしさを物語っている。
第3楽章 Presto 2/2拍子 ト長調 2楽章と打って変わって1楽章に似た諧謔さを持つこの曲は、よりアグレッシブに、より軽快になっている。トランペットと小太鼓で不意をつく冒頭の音がこの曲の性格を印象づけている。当時最新の流行音楽であったジャズの影響を受けているとも言われている。
ピアノはトッカータ風で、只の半音階を左右のオクターヴにずらしたりなど、独特の使い方も見せる。また管弦はファゴットが非常に長い主題を演奏する等、複調を効果的に用いるなど管弦楽の魔術師らしい超絶技巧ぶりも見せてくれる。最後は楽章冒頭の音をピアノも一緒に叩いて歯切れよく終わる。
なお、この楽章の一部のメロディは伊福部昭の『ゴジラのテーマ』に似ているが、もちろんこちらの方が先である。
[編集] その他
- 「左手のためのピアノ協奏曲」が「左手」と略されるのに対し、この曲は「両手」と呼ばれることがある。