パウルス3世 (ローマ教皇)

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パウルス3世（Paulus III 1468年 2月29日 - 1549年 11月10日）は第220代ローマ教皇（在位,1534年 - 1549年）。本名アレッサンドロ・ファルネーゼ。イエズス会を認可し、プロテスタント側との対話を求め、教会改革を目指してトリエント公会議を召集したことで知られる。

[編集] 生涯

アレッサンドロ・ファルネーゼはトスカーナのカリーノに生まれる。母は教皇ボニファティウス8世も輩出したガエタノ家の出身であった。アレッサンドロはもともとローマやフィレンツェでウマニスタ（人文主義者）として知られ、インノケンティウス8世時代の教皇庁で頭角を現し、アレクサンデル6世時代に大抜擢され、1493年に枢機卿になった。

教皇クレメンス7世時代にはポルトゥスの司教枢機卿、教皇庁立大学の学長になり、クレメンス7世没後のコンクラーヴェで教皇に選出され、パウルス3世を名乗った。

教皇は手始めに14歳と16歳でしかなかった二人の甥アレッサンドロ・ファルネーゼとアスカニオ・スフォルツァを枢機卿に任命した。教皇庁がネポティズムの害悪から逃れられない時代であった。しかし、続けざまにガスパロ・コンタリーニやレジナルド・ポール、ジャコポ・サドレト、ジョバンニ・カラファ（後の教皇パウルス4世）といった優秀な聖職者たちを枢機卿に任命してもいる。

パウルス3世は当時、緊急課題であるという認識が高まっていた教会改革に対して非常に積極的であった。1536年 6月2日、教皇はイタリアのマントヴァに公会議を召集する旨を発表し、対話による教会分裂の回避を目指してプロテスタントの代表者たちにも参加を呼びかけたが、ドイツのプロテスタントたちがイタリアでの会議には参加しないと表明したため、マントヴァ侯の尽力も空しく会議の開会は延期、やがて中止となった。

1536年、パウルス3世は9人の優れた高位聖職者たちを招集して委員会をつくり、教会改革の現状分析と課題について検討させた。1537年に委員会は有名な報告書「コンチリウム・デ・エメンデンダ・エクレジア」をまとめ、教皇に提出した。報告書は教皇庁における不正や汚職などの問題点や教会のかかえる多くの課題を指摘していた。この報告書はローマのみならず、ドイツにまで持ち込まれた。

1538年、ルターはこの報告書に序文をつけてドイツで出版したが、そこには枢機卿たちが教皇庁のつもりつもった汚れをほうきでなく、自分のシッポで掃除しようとしている風刺画が書かれていた。しかし教皇自身は改革に対して真摯な姿勢で取り組んでおり、公会議開催こそが改革の原動力になると信じて疑わなかった。そのため、公会議の実現に向けて力を尽くした。しかし、これまでの公会議主義運動がほとんど実りをもたらさなかったことに加え、先に委員会が提出した報告書の勧告も実行には至っていないことが不安材料であった。

教皇自身が政治問題を引き起こすこともあった。たとえば1540年には自分の孫にあたるオッタヴィオ・ファルネーゼをカメリーノ侯にしようと、ウルビーノ大公からカメリーノ侯の地位を剥奪している。また、過酷な税を課したことで教皇の支配下にある都市との間で戦争が勃発したこともあった。たとえばペルージャは税の支払いを拒否して教皇の軍隊に包囲され、降伏。抵抗したコロンナ市民も制圧され、アスカニオも1541年に屈服させられた。こうして後顧の憂いをたった教皇はいよいよプロテスタント問題に取り組むことになる。

1540年に、教皇はイニゴという中年のバスク人に率いられた小さなグループを正式に修道会として認可することになった。このとき教皇も含め誰も、後にこのグループがカトリック教会と世界史に名を残すほどの大きな業績を残すことを予見できなかった。このグループこそがイグナチオ・デ・ロヨラに率いられたイエズス会である。

そのころ、神聖ローマ帝国のカール5世はドイツのプロテスタント問題を解決すべく、自らのプランにローマが協力することを求めてきた。教皇はこれに答えてハゲノー（1540年）とヴォルムス（1541年）での帝国議会に特使ジョバンニ・モローネ枢機卿を派遣。さらにレーゲンスブルグの宗教会議にはコンタリーニ枢機卿を代理として派遣した。当時、義認の問題が論争の中心であったため、コンタリーニは「信仰によってのみ義化される」というプロテスタント側の主張と人間の協働も評価するカトリックの伝統的な義認観を融和させるべく「二重義化説」を唱えた。この説はいわば苦肉の策の折衷案で非常に妥協的なものであったため、カトリック教会からもマルティン・ルターたちからも受け入れられなかった。

ここにいたってプロテスタント側との対話による和解は困難なことが誰の目にも明らかとなった。残る方法は実力行使によるプロテスタントの打倒であり、教皇がローマに新しい異端審問所を設置したようにプロテスタントに対して断固たる態度をとるという見方が強くなった。しかし、カール5世はあくまで公会議による解決を主張した。カール5世の熱意はトリエント公会議の実現によって実を結んだ。公会議はさらに開催へ向けて紆余曲折があったが、1545年のパウルス3世の回勅『レターレ・エルサレム』によって正式に召集された。

1544年のクレピーの和約以降、カール5世はドイツ国内における発言力を急速に増し、プロテスタントと肩入れする諸侯を武力で粉砕しようとたくらんだ。ヴォルムス帝国議会の合間に、皇帝は教皇使節として派遣されていた教皇の孫アレッサンドロ・ファルネーゼ枢機卿との間に約定を交わし、プロテスタントに対する武力攻撃に対する教皇のお墨付きを得た。

教皇はカール5世がドイツ問題にかかりきりになっているすきをつく形で、息子ピエル・ルイジをパルマおよびピアチェンツァ公にしようと考えた。教皇領内の問題ではあったが、枢機卿会にも反対者が多く、教皇は息子をカメリーノおよびネピ公とすることで妥協せざるを得なかった。教皇はあきらめきれずに皇帝に協力を求め、皇帝は兵力と軍資金の提供と引き換えに尽力を約束した。

カール5世は1542年からドイツ西部において対プロテスタント諸侯戦を開始、すでに破門されていたヴィエドのヘルマンを破り、これを追放することに成功した。ひきつづき、反皇帝で連合していたシュマルカルデン同盟軍との全面戦争に入り、これを破ることで、南ドイツ全域を完全に支配することに成功した。1547年 4月24日のミュールベルクの戦いでの勝利によって、シュマルカルデン同盟の主要な指導者であるザクセン選帝侯とヘッセン方伯を捕らえることに成功し、ドイツ全域に対して影響力を持つようになった。

皇帝は「暫定規定」にしたがいながら、ドイツにおけるカトリックの勢力回復に尽力していたが、協力者であったはずの教皇との関係は冷え込んでいった。一つの原因は皇帝が協力を約束していた教皇の息子をパルマおよびピアチェンツァ侯にするという約束が果たされなかったことであった。それどころか皇帝の圧力を受けた使節フェランテ・ゴンザカによってピエル・ルイジが追放されたことで教皇と皇帝の関係決裂は決定的となった。

やがてピアチェンツァでピエル・ルイジが暗殺されると、教皇は事件の黒幕が皇帝であると信じて疑わなくなった。が、その年に同盟関係を模索していたフランスのフランソワ1世が死去したため、状況的に教皇はカール5世と手を組まざるを得なくなった。ピエル・ルイジの死に関連して教皇が教会の名によってもとめた賠償は、皇帝とルイジの後継者であるオッタヴィオ・ファルネーゼが拒否したため、支払われなかった。このことがファルネーゼ枢機卿と教皇との間のいさかいにつながり、81歳の高齢であった教皇は精神的にダウンし、病を得るとこの世を去った。

パウルス3世の治世に明らかになったのは、もはやプロテスタント運動が教皇の意思一つでどうにかなるほど小さなものではないということであったが、彼の時代に教皇庁改革とトリエント公会議が始められたことで対抗改革の基盤が築かれたといえる。