ネオテニー
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ネオテニーは、動物において、性的に完全に成熟した個体でありながら非生殖器官に未成熟な、つまり幼生や幼体の性質が残る現象のこと。幼形成熟、幼態成熟ともいう。
いろいろな動物で見られるが、よく知られたものとしてはアホロートル(ウーパールーパー)が挙げられる。他にイソギンチャク類やクラゲ類などにも見られる。また、ヒトもネオテニーだといわれる。これについては後に述べる。
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[編集] 両生類の場合
両生類は、幼生は鰓を持ち、空気呼吸をしないが、成体になる際に変態を行い、鰓を失って肺呼吸をするようになる。しかしながら、性的には成熟した成体でありながら、鰓があるなど、幼生の形をとどめる例があり、そのようなものがネオテニーといわれる。もっとも有名なのはアホロートルである。この動物はサンショウウオ類の幼生の姿のままで性的に成熟して繁殖する。生育条件を変えればサンショウウオ類の標準的な成体の姿に成長することも知られているから、明らかに変態を行わないという選択があったことを示している。成体は水中生活のできない構造を持っているから、水中で全生活史を過ごすための適応とも考えられる。
同様に成体でも幼生の形を残すものはホライモリやサイレンなど他の群にも散見される。これらの場合は条件を変えても成体の形にはならないが、やはりネオテニーと考えられている。
[編集] その他の動物群の場合
幼形成熟と考えられるものが見いだされやすいのは、やはり幼生と成体の形が大きく異なる、変態を行う群においてである。たとえば昆虫がそうで、幼虫の形で生殖を行う例がいくつか知られている。たとえばミノガ類には雌が幼虫型のまま成熟する例がある。ホタル類やネジレバネにも同様の例が知られる。
ただ、ややこしいのは、昆虫の場合、性的二形として雌が羽を発達させない例が多々あることである。昆虫の場合、幼虫と成虫のはっきりした差のひとつが羽が発達するかどうかなので、単に羽を発達させないのか、それとも幼生成熟と見なすべきかの判断がむずかしい例がある。たとえばガ類のフユシャクは雌がごく短い羽しか持たないが、一応羽はあるし、それ以外の体は成体の形である。しかし、より成虫と幼虫の形の差が少ない群では、この区別は困難になる。
[編集] ネオテニーと進化論
進化論においてネオテニーは進化の過程に重要な役割を果たすという説がある。なぜならネオテニーだと脳や体の発達が遅くなる代わり、各種器官の特殊化の程度が低く、特殊化の進んだ他の生物の成体器官よりも適応に対する可塑性が高い。そのことで成体になるまでに環境の変化があっても柔軟に適応することができるとされる。
[編集] ヒトもネオテニー?
1920年にL・ボルクが、「人類ネオテニー説」を提唱した。チンパンジーの幼形が人類と似ている点が多いため、ヒトはチンパンジーのネオテニーだという説である。幼体が例えば突然変異などで発育不全に陥り、何らかの理由によって性的に成熟できたもの中で進化したのが人類だと主張する。