ニホンアマガエル
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ニホンアマガエル | ||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||
Hyla japonica Günther, 1859 | ||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||
Japanese Tree Frog |
ニホンアマガエル(日本雨蛙・学名Hyla japonica)は、両生綱・カエル目(無尾目)・アマガエル科に分類されるカエルの一種。日本列島、朝鮮半島、中国東部まで広く分布し、その姿や鳴き声はよく知られている。日本では20世紀末以降、両生類全体が減少傾向にあるが、ニホンアマガエルは依然普通種であり続けている。
目次 |
[編集] 特徴
体長は3-4cmほどで、メスの方がオスより大きい。鼻筋から目、耳にかけて褐色の太い帯が通っている。前足に4本、後足に5本の指があり、すべての指先に丸い吸盤がある。この吸盤で枝から枝へ飛び移ったり、ガラスの垂直面に張りつくこともできる。
体色は腹側が白色で、背中側が黄緑色だが、背中側は黒っぽいまだらもようの灰褐色にも変えることができ、保護色の一例としてよく知られる。この色の変化は、まわりの環境、温度、湿度、明るさなどに応じてホルモンを分泌し、皮ふの色素細胞を拡張・伸縮させることによる。また、たまに色素細胞の変異がおこり、体色が青や黄色の個体がみられることもある。
皮ふはつるつるした粘膜におおわれるが、この粘膜からは体を細菌などから守るため毒が分泌されている。手で触る分には問題ないが、傷ついた手でさわったり、さわった手で目や口をこすったりすると、激しい痛みを感じ、目に入った場合は失明することもある。アマガエルのみならず、生物をさわった後は必ず手を洗うことが望ましい。
カエルは水辺にすむものと思われがちだが、ニホンアマガエルは樹上での生活に適応していて、水辺の植物の上や森林などに生息する。春から秋まで活動し、冬は温度差の少ない地中で冬眠する。
食性は肉食性で、小さな昆虫類やクモ類を捕食する。動いているものに反応するので、死んだものや動かないものは食べない。捕食するときは飛びかかりながら短い舌で獲物を押さえつけ、次の瞬間には大きな口で獲物をくわえる。大きな獲物は眼球をひっこめ、眼球の裏側で口の中の獲物をのどの奥に押しこんで呑みこむ。夜には人家の窓や自動販売機の照明前にも現れ、明かりに集まる昆虫を捕食する姿が見られる。
天敵はサギ、アカショウビンなどの鳥類、ヤマカガシやヒバカリなどのヘビ、イタチやタヌキなどの哺乳類だが、トノサマガエルなどの大型のカエル、タガメやタイコウチ、ゲンゴロウなどの水生昆虫も敵となる。
似た体色のシュレーゲルアオガエルやモリアオガエルとは、体が小さく、体の横に褐色の帯があること、特に、目から鼻にかけて褐色の帯がでること、灰褐色の体色ではまだら模様が出ることなどで区別できる。
[編集] 広告音と雨鳴き
ニホンアマガエルの鳴き声は「ゲッゲッゲッゲッ…」「クワックワックワッ…」という表現をされる。鳴くのはすべてオスで、オスの喉には鳴嚢(めいのう)という袋があり、声帯で出した声を鳴嚢で共鳴させて大声を生みだしている。
カエルの繁殖期はおもに春で、この時期の夜の水田にはたくさんのカエルの声がこだまし、場所によっては集団で大合唱になることもある。この繁殖期の鳴き声は、オスがメスに自分の存在を知らせるためのもので、「広告音(こうこくおん)」とよばれる。
ふつうのカエルは繁殖期の夜に鳴くが、ニホンアマガエルは「雨蛙」の和名のとおり、雨が降りそうになると繁殖期でなくとも、昼間でも鳴くのが大きな特徴である。この時の鳴き声は「雨鳴き(あまなき)」「レインコール(Raincall)」などとよばれ、繁殖期の広告音と区別される。
雨鳴きについては、以下のような昔話が各地に伝わっている。
- むかしむかしある所にアマガエルの親子がすんでいた。しかし子ガエルは大変なヘソ曲がりで、親ガエルの言いつけと反対のことばかりやっていた。
- いよいよ死ぬという時に、親ガエルは(墓が流されないように、山の上に墓を作ってもらいたい。しかしこいつは言いつけと反対のことをするから…)と考え、「墓は川のそばに建ててくれ。」と言い残し死んだ。
- ところが子ガエルはこの時になって反省し、「遺言は守らなければならん」と、本当に川のそばに墓を建ててしまった。そのため雨が降りそうになると「親の墓が流される」と泣くのだという。
この話から派生してか、九州地方にはヘソ曲がりの子どもを「ぎゃくぎゃくどんく(逆々蛙)」などとよんで戒める地方がある。また、ぎゃくぎゃくどんくはニホンアマガエルを指す方言呼称としても用いられる。
[編集] 生活史
成体は春になると、水田や池などの止水域に集まる。この頃のオスの鳴嚢は茶色っぽくなり、メスと区別しやすい。
オスの鳴き声を手がかりにメスが現れると、オスはメスの背中に抱きいて抱接する。つがいは抱接した状態で水面を泳ぎ、逆立ちしながら産卵・放精をおこなう。受精卵はトノサマガエルやヒキガエル類の卵ほどのかたまりにはならず、細い寒天質のひもで数個ずつつながって水面を漂い、植物の茎などにからみつく。
受精卵は急速に細胞分裂し、水温など環境条件にもよるが2-3日ほどでふ化する。ふ化した幼生は褐色で、外鰓(がいさい、そとえら)を持つが、やがて鰓は体内におさまり、「オタマジャクシ」の形になる。ニホンアマガエルのオタマジャクシは全身が褐色で、うすいまだら模様があるので、全身が黒いヒキガエル類などと区別できる。オタマジャクシの小さな口にはヤスリのような歯があり、動植物の死骸や藻類などを、削りとるように食べる。
1か月ほどかけて、ゆっくりとオタマジャクシからカエルの姿へ変態する。成長するにつれ尾のつけ根に小さな後足が形成され、同時に体内で前足も形成されてゆく。後足が大きくなると、えら穴から前足が出て、尾が徐々に短くなってゆく。褐色だった体色がうすくなり、背中が黄緑色へ変わる。子ガエルは尾が短くなったころに上陸し、思い思いの方向へと散ってゆく。寿命は数年ほどとみられる。
なお、アマガエル類は吸盤を持つため壁に囲まれた水場にも産卵できる。日本の九州以北で、開けた場所に置かれたタンクやビンなどで卵やオタマジャクシを観察できた場合、それらはまずニホンアマガエルである。
[編集] ほかのアマガエル
アマガエル科は全世界の熱帯・温帯から650種類ほども知られ、種類によってさまざまな体色や繁殖形態が知られている。
喜界島から沖縄本島にかけての南西諸島には、ハロウェルアマガエル Hyla hallowellii Thompson, 1912 が分布する。ニホンアマガエルよりも体や足がほっそりしていて、まだらもようが出ない。また、オスの鳴嚢や手足の腹側が橙色を帯びる。
南西諸島には他にヒメアマガエル Microhyla okinavensis Stejneger, 1901 というカエルも分布するが、このカエルはアマガエル科ではなくジムグリガエル科(Microhylidae)という全く違う科に分類される。成体の体長は2-3cmほどで、体は褐色をしている。オタマジャクシは体が半透明で、プランクトン食性である。