トーマの心臓
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ウィキポータル |
日本の漫画作品 |
日本の漫画家 |
漫画原作者 |
漫画雑誌 |
カテゴリ |
漫画作品 |
漫画 - 漫画家 |
プロジェクト |
漫画作品 - 漫画家 |
『トーマの心臓』(とーまのしんぞう)は、萩尾望都による漫画作品。
目次 |
[編集] 概要
漫画雑誌『少女コミック』1974年19号から52号に連載された。ドイツのギムナジウム(高等中学)を舞台に、人間の愛という普遍的なテーマを描いた、少女漫画の傑作。
独特のみずみずしい世界観、繊細で緻密な心理描写、物語としての完成度は、非常に高い文学性を備えている。愛、友情、家族、人種、信仰など壮大な主題を、一人の少年の死の謎をめぐる挿話を積み上げることで描いていく、構成の素晴らしさは著者の真骨頂といえよう。少女漫画の巨匠・萩尾望都作品の中でも最高傑作に挙げる声の高い作品だが、少年達の妥協の無い設定や、題名に心臓という文字が入っていたことなどから、雑誌掲載時の評判は芳しくなく、連載打ち切り寸前だったという話は有名である。
番外編に「訪問者」・「湖畔にて - エーリク 十四と半分の年の夏」、原型となった作品に「11月のギムナジウム」がある。また舞台・映画にもなっている。現在も根強い人気を持つ作品である。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] あらすじ
ある雪の日、シュロッターベッツ・ギムナジウムのアイドルだったトーマ・ヴェルナーが陸橋から転落し死んでしまう。
シュロッターベッツがトーマの死で騒然となる中、ユリスモール・バイハン(ユーリ)のもとにトーマからの遺書が届く。トーマはユーリを慕って自殺したのだ。ユーリは表向き平静を装いながらも、トーマの死を利己的な愛の押しつけと感じ、理不尽さと罪責感にさいなまれ苦しんでいた。そんな彼を同室のオスカー・ライザーは心配そうに見つめている。
数日後、ギムナジウムに転校生のエーリク・フリューリンクがやって来る。彼は亡くなったトーマとそっくりだった。エーリクを見るたびにユーリはトーマと重ねてしまい、怒りや憎しみをあらわにすることすらある。エーリクはそれを迷惑に思うが、同時にユーリの存在が気にかかり、過去にトーマとユーリの間に何があったのか知ろうとするが、謎は深まるばかりだ。
そこにエーリクの母の事故死の知らせが入る。悲しみにくれるエーリクをユーリは慰め、これを機会に2人は次第に心を通わせて行く。
後日、エーリクは偶然、図書館でユーリにあてたトーマの詩を見つけ、トーマの死の真相そしてトーマのユーリへの深い愛を知る。
エーリクはユーリへの気持ちを深めていくが、ユーリはいよいよ頑なな態度を取るようになる。しかし、ひたすらにユーリを愛し信頼を得たいと願うエーリクの言葉から、ユーリは、トーマは自分の命を代償とし、ユーリの罪を引き受け贖おうとし、自殺したことを悟る。トーマはユーリを苦しめる罪が何かは知らなかったが、生きるためには愛が必要であり、愛するユーリを愛と幸福のもとに生かしたいと思ったのだ。ユーリは、自分を取り巻く多くの愛と幸福、そしてユーリを見守っていた周囲の人びとに気付く。
神はどんな人をも愛し、許していることを知ったユーリは、神父となるためにギムナジウムを出る。
[編集] 登場人物
- ユリスモール・バイハン/(ユーリ)
- シュロッターベッツ高等部1年。14歳。品行方正、成績優秀でみんなから信頼される委員長だが、ある事件以来心を閉ざしている。トーマのことを愛していたが、自分には資格がないと思い手ひどくふってしまう。混血で南欧系の特徴を持っているため、自分に向けられる差別に対抗して優等生であろうとしている。
- トーマ・ヴェルナー
- シュロッターベッツ中等科4年。13歳。フロイラインと呼ばれ、誰からも愛される子どもだった。ユーリを救うために自殺する。
- エーリク・フリューリンク
- シュロッターベッツ高等部1年。14歳。ル・ベベ(フランス語で赤ちゃん)と呼ばれるくらい自由奔放で勘がいい。母親とずっと2人暮らしだったためマザーコンプレックスだったが、母親の死によって自分の依存心に気付く。
- オスカー・ライザー
- シュロッターベッツ高等部1年。15歳。シュロッターベッツ・ギムナジウムに預けられる前は1年間父親と旅行をしていたため、1年遅れて入学している。不良っぽいが兄貴肌。ミュラー校長が実の父で、そのことが原因で父親は母親を殺害し、その父親も死亡していることを察している。ユーリのことが好きだが、ある事件のことを知ってしまったため見守ることしかできない。
- サイフリート・ガスト
- シュロッターベッツ高等部を放校。素行が悪いが頭の切れる悪魔的な魅力を持っていた。己の主義の実証のためにユーリの心身に深い傷を負わせる。
- アンテ・ローエ
- シュロッターベッツ中等科4年。13歳。オスカーとユーリを引き離そうとして、トーマとどちらがユーリを落とせるか賭けをした。
- レドヴィ
- シュロッターベッツ中等科4年。13歳。盗癖がある。トーマがユーリに宛てた詩を見つけていた。
- ヘルベルト
- アロイス
- シュロッターベッツ高等部1年。14歳。ユーリとは常に対立しているが、実は好きである。
- リーベ
- アーダム
- シュロッターベッツ高等部1年。14歳。ユリスモール親衛隊。
- ホセ
- シュロッターベッツ高等部3年。16歳。暴力的な性格。時計を盗まれたことからレドヴィにしつこく付きまとう。
- バッカス
- シャール
- ヘニング
- シュロッターベッツ高等部の最上級生。毎週土曜日の午後に「ヤコブ館のお茶会」を主催している。トーマはこのお茶会の常連だった。
- マリエ
- エーリクの母。エーリクと2人で暮らしてきた。恋多き女性であったがエーリクの編入後、ユーリ・シドとの結婚を目前に事故で亡くなる。
- ユーリ・シド・シュヴァルツ
- マリエの婚約者。マリエとともに事故にあい、片足を切断。エーリクの卒業後、彼を引き取る。
- アルフォンヌ・キンブルグ
- エーリクの弁護士。
- マクス・ドッドー
- ユーリ・シドの友人で医師。ユーリ・シドがエーリクに会いに行く際に同行する。
- ロジェ・ブラウン
- エーリクの実父。
- ミュラー
- シュロッターベッツ・ギムナジウムの校長。オスカーの実父。ライザー夫妻とは大学時代の旧友。オスカーを養子にしたいと思っているが言い出せない。
- グスターフ・ライザー
- オスカーの父。妻を殺害したあと、オスカーを連れて逃亡。シュロッターベッツ・ギムナジウムにオスカーを預けて南米に旅立ったが、おそらく死亡している。
- ヘレーネ・ライザー
- オスカーの母。長く夫との間に子供が出来ず、ミュラー校長との間に子供をもうけるが、そのことが原因で夫に殺害される。オスカーを溺愛した。オスカーはヘレーネそっくりの顔をしている。
- シェリー・バイハン
- ユーリの母。
- ユーリの父
- ギリシア系ドイツ人。事業に失敗し多額の借金を残して亡くなる。
- ユーリの祖母
- 娘の結婚には反対だった。南欧系の特徴を持つユーリを嫌っている。
- エリザベート・バイハン
- ユーリの妹。8歳。体が弱い。
- ユーリとは違い、金髪であるため、祖母からはかわいがられている。
- ベルンハルト・ヴェルナー
- トーマの父。元シュロッターベッツ・ギムナジウム教諭。
- アデール・ヴェルナー
- トーマの母。エーリクの父の従兄弟。
- トーマの兄
- ブッシュ先生
シュロッターベッツ・ギムナジウム教諭。(古典?)大変厳しい先生。
- ホーマン先生
シュロッターベッツ・ギムナジウム教諭。(化学)元ヨハネ館の舎監。
- 保健の先生(アルット)
校医。校長からの信頼も厚い。ユリスモールの傷のことを心配している。
[編集] 番外編
[編集] 湖畔にて - エーリク 十四と半分の年の夏
「トーマの心臓」の後日譚。『ストロベリーフィールズ』(新書館、1976年11月)に書き下ろされた。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
ユリスモール・バイハンが転校してすぐの夏休み、エーリク・フリューリンクは義父のユーリ・シド・シュヴァルツと湖畔で過ごしていた。2人はなかなか亡くなったマリエの話をすることが出来なかったが、ユーリ・シドがエーリクはマリエによく似ていると言ったことからそのような悩みもなくなる。ユーリから手紙が来た。エーリクはうまく返事を書けない。オスカー・ライザーが訪ねてくる。神学校へ行ってユーリに会ってきたと言う。エーリクは考える。失ったものは帰ってくるのだろうか、いつか思いは実を結ぶのだろうか、と。
[編集] 訪問者
「トーマの心臓」のオスカー・ライザーがシュロッターベッツ・ギムナジウムに来るまでの話。漫画雑誌『プチフラワー』1980年春の号に掲載された。母親を殺害した父親と初めて親子らしい日々を過ごす1年間を描いたロード・ムービーのような作品で、独立の作品としても人気が高い。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
オスカー・ライザーは母ヘレーネ・ライザーからは溺愛され、父グスターフ・ライザーからは家で無視され、家庭内に居場所がないように感じていた。それでも家族がうまくやっていると思い込んでいたが、一方で自分は父親の子どもではないのではないかと疑っていた。それは事実で、子どもがほしかった母は大学時代の旧友ルドルフ・ミュラーの子を産んだのだった。父グスターフも知っていたが、妻が事実を告げると衝動で殺してしまう。そして、オスカーは父が母を殺したこと、自分が父の子どもでないことを悟る。オスカーは父を必死に警察からかばうが、父はオスカーと飼い犬のシュミットを連れて逃亡の旅に出る。旅に出てから2人は初めて親子らしい時間を過ごし、絆が深まっていく。しかし殺人のプレッシャーから父は片目が見えなくなり、母にそっくりのオスカーにも当たってしまう。そして、実の父ミュラーが校長を勤めるシュロッターベッツ・ギムナジウムにオスカーを預けると、父は南米に行ってしまうが、オスカーは父が自分を捨てたことを分かっていた。シュロッターベッツ・ギムナジウムに入ったオスカーは、父グスターフの子どもになりたかったと泣く。
[編集] 11月のギムナジウム
「トーマの心臓」の原型となった作品。漫画雑誌『別冊少女コミック』1971年11月号に掲載された。 ごく短編であるためか、キャラクターの心理描写よりストーリー性の強い作品になっている。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
11月の第一火曜日の午後、ヒュールリン全寮制ギムナジウムにエーリク・ニーリッツが転入してきた。転入早々、このギムナジウムのアイドル、トーマ・シューベルとうりふたつのため大騒ぎとなる。エーリクを初めて見たトーマはその場で笑い出してしまうが、短気で気の強いエーリクはその態度に怒り、トーマを殴ってしまう。そのことが元でトーマのことが好きなオスカー・ライザーから手荒い歓迎を受けることになった。家庭内の問題で密かに悩んでいたエーリクは、授業中にオスカーを殴り教室を飛び出し、草地で授業をエスケープしていたトーマと偶然遭遇する。トーマは15年前に死んだ兄とエーリクは特徴がそっくりであると告げ、仲直りをしようともちかけるがエーリクはそれを拒否する。トーマはエーリクと自分の関係をクラス委員のフリーデルに打ち明けるが、雨の週末休暇にトーマはエーリクの実家に行き、エーリクの母親に会ってきたことが原因で病に倒れる。それから数日後、トーマは病死する。トーマの葬儀の翌日、フリーデルはエーリクに全てを打ち明ける。
[編集] 舞台化・映画化
[編集] 舞台「トーマの心臓」
「トーマの心臓」は、男性だけの劇団Studio Life により舞台化された。耽美的な魅力で大成功をおさめ、劇団の方向性を決定付けたといわれる。
- 初演 - 1996年2月10日~2月25日、ウエストエンドスタジオ
- 演出・脚本 - 倉田淳
- 舞台美術 - 松野潤
- 照明 - 森田三郎
- 音響 - 竹下亮
- 舞台監督 - 田中力也
- 衣裳 - 福岡裕子・大浦あけみ
- 制作 - 稲田佳雄
- 出演 - 笠原浩夫・山﨑康一・山本芳樹・児玉信夫・曽世海児・及川健 他
[編集] 舞台「訪問者」
「訪問者」は、男性だけの劇団Studio Life により舞台化された。
[編集] 連鎖公演「トーマの心臓」「訪問者」
「トーマの心臓」と「訪問者」は、Studio Life により同時期に同一の劇場の空間で連続して公演された。
- 初演 - 2000年12月7日~2001年1月8日、シアターサンモール
- 脚本・演出:倉田淳
- 美術 - 松野潤
- 照明 - 森田三郎
- 音響 - 竹下亮
- 舞台監督 - 倉本徹
- 照明 - 小川景子
- 衣装 - 三大寺志保美・大浦あけみ
- ヘアメイク - 角田和子
- 出演:笠原浩夫・甲斐政彦・及川健・石飛幸浩・姜暢雄 他
[編集] 映画「1999年の夏休み」
映画「1999年の夏休み」は、「トーマの心臓」を原案にした金子修介監督の青春映画。公開は1988年3月26日。出演者は4人だけで少女が少年を演じる、という大胆な演出だが、その純粋で繊細な世界観が絶賛されている。
- 監督 - 金子修介
- 製作 - 岡田裕・岸栄司
- プロデューサー - 成田尚哉・肥田光久
- 脚本 - 岸田理生
- 撮影 - 高間賢治
- 音楽 - 中村由利子
- 出演(各人物が「トーマの心臓」のどの人物に対応するかをカッコ内に示す)
- 植村悠(トーマ・ヴェルナー)・薫(エーリク・フリューリンク) - 宮島依里(二役)
- 島田和彦(ユリスモール・バイハン) - 大寶智子
- 直人(オスカー・ライザー) - 中野みゆき
- 則夫(アンテ・ローエ) - 水原里絵(現・深津絵里)
- 声の出演