テクニカルダイビング
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テクニカルダイビング (Technical diving) とは、オーバーヘッド環境(閉鎖環境)と減圧(仮想閉鎖環境)を伴う大深度への潜水のことである。 スポーツダイビング、レジャーダイビングなどと呼ばれる一般人が楽しみで行うスクーバダイビングの一つのカテゴリーであり、レクリエーショナルダイビングと区別される。 テクニカルダイビングは、1950年代より行われていた直接水面まで浮上することのできない洞窟(海中鍾乳洞、泉なども含む)や沈船などオーバーヘッド環境(詳しくは洞窟潜水の項参照。)の潜水技術や知識を元にして、1980年代にNOAA(米国海洋大気圏局)などで研究されてきた混合ガス潜水技術を用い、仮想天井の減圧停止を伴い、それまでは潜る事の出来なかった大深度潜水(水深40mから100m程度まで)を安全に出来るよう体系化されたレジャーダイビングを指す。1990年代に入り雑誌で紹介されてからテクニカルダイビングと呼ばれる。
テクニカルダイビングは、全てのレジャーダイビングの安全管理の基礎となっており、特にケイブダイバーは各レクリェーショナルダイビング指導団体のトレーニング部に所属もしくは顧問をしている。
通常テクニカルダイビングとカテゴリーされる以外の見解として、
システム潜水に用いられるような高度な器材(オンデマンドヘルメット)などを用いてレクリエーショナルダイビングの潜水領域に潜るレジャーダイビングをもテクニカルダイビングと称する場合もある。しかし、Technical DivingのTechnicalは高度なダイビング器材のみを指す形容詞にされる場合もあるが、これらを使いこなすための技術を一般的にTechnical Divingと称することはない。なので、橋梁や油田など水中工事で行う潜水や、自衛隊や海上保安庁などが行う潜水とは理論などで共通するものがあるが別物である。なお、沈船などの水中構造物の内部や水が満ちた洞窟内部に進入する上級スクーバダイビングをオーバーヘッド環境ダイビングと呼ぶダイバーもいる。
実施に当たっては、スモールステップ・プログラムが確立されておりシニア世代にテクニカルダイバーは多い。日本のダイビング業界は利益追求主義であり、少ない経験値でステップアップしたがる傾向のためか、レクリェーショナルを超えた知力、体力、技能が要求され、これらを身に付けるために莫大な時間が必要と勘違いしてるダイバーが多い。またNAUIエンタープライズは、海外本部で40年以上テクニカルダイビング部門NAUI-tecを開催しているにも関わらず、国内NAUIでは取扱う能力のない会社もある。
海外テクニカルダイバーは精神の安定と身体の柔軟をはかるためヨーガを導入する人も多い。
テクニカルダイビングの中でもケイブダイビングは、下記の年表を見れば判る通り、レクリェーショナルダイビングより古くから行われている。いわばレジャーダイビングの原型となった潜水探険を含む。
目次 |
[編集] 歴史年表
1946年 | CDG設立 |
1950年代 | 洞窟探検家やトレジャーハンターによる潜水 |
1960年代 | レクリェーショナル団体創立ラッシュ |
1968年 | NACD設立 NAUIのTec部門新設 |
1970年代 | ケイブダイビング団体創立ラッシュ |
1973年 | CDAA設立 NSSの洞窟潜水部門新設 |
1977年 | NACD-Japan設立 |
1980年代 | 混合ガス潜水の技術がレジャーに進出。 ケイブダイバーによりレジャー向けの混合ガス潜水確立。 |
1985年 | IAND(現IANTD)設立 |
1987年 | PSA設立 |
1990年代 | テクニカルダイビング団体の設立ラッシュ |
1990年 | Cavetek_Club設立 |
1991年 | ANDI設立 |
1992年 | 雑誌でケイブなどに混合ガス潜水を導入した分野をテクニカルダイビングとして紹介される。 |
1994年 | TDI設立 |
1996年 | PADI商品開発部門DSATをテックレック団体として業務変更 ※レクリェーショナルとテクニカルの中間位置づけ |
1997年 | IART設立 日本語初のテクニカル関連メールマガジン「TECHダイビング」発刊 TDI、IANTD、ANDIの各日本支部設立 |
1998年 | GUE設立 DiveRite-Japan設立 |
2004年 | PTA設立 Halcyon-Japan設立 |
2006年 | NSS-CDS日本設立 PATI設立 SSI-TXR新設 |
[編集] オーバーヘッド環境
沈没船などの水中構造物の内部や水が満ちた洞窟内部に進入する際にはその環境に適応するための知識、訓練や装備が必要であるが、OWダイバーやOWインストラクターがそれを知らずに、あるいはそれ知りつつも限界を超えてそういった環境でダイビングすることによる事故は絶えない。OWの場合は垂直方向に進んだり浮力調整装置に給気すれば(減圧症など付随する問題はあるが)水面に達することが出来るが、オーバーヘッド環境においては上記した準備が出来ていないと退出路を発見する事すら不可能になることがある。オーバーヘッドダイビングとは水中構造物の内部や洞窟内部で行うダイビングの事であるが、その意味はその環境で必要とされる知識、訓練と装備を総合したものである。 全てのテクニカルダイビングは、ケイブダイビングの技術や器材、知識を元にして築かれてきた。テクニカルダイビング指導団体トレーニング部には、必ずケイブダイバーが所属している。 またケイブダイビングのランクを有さないダイビング指導団体は、テクニカルダイビング指導団体と呼ばない事も多い。
[編集] ケイブ
ケイブダイビング(Caveケーブとも)は、光の届かない洞窟に潜ることであり、カバーン(Cavern光の届く洞窟)と区別される。上記のオーバーヘッド環境ダイビングの一つである。 主に、ダイバーは泉や海中鍾乳洞に潜り、ケイバー(洞窟探検家)は洞窟内部にあるサンプや地底湖に潜る。 装備は、二系統の呼吸源(レギュレーター)、リールとスプール、3つのライト、目印につかうラインアローやクッキーが最小限の器材になる。 時には、タンクを脇の下に装備したり、ヘルメットを着用して潜る。 詳しくは、洞窟潜水を参照。
[編集] レック
テクニカルダイビングにおけるレックダイビング(Wreck)は、沈没船(戦没船)など海底に沈んだ人工物の中に侵入することである。熱海の沈船で死亡事故が起こった。(1987年)
[編集] 混合ガス潜水
人が水中を深く潜る場合の問題は、潜水中に吸気している空気内に存在する窒素がその水圧によって血中に入り込み、浮上時に水圧が低下する事によって窒素が血管内で膨張し血液の流れを止めてしまう、いわゆる潜水病・減圧症であり、そして、同様にして窒素が体に吸収される事により判断力の低下などが起こる、いわゆる窒素酔いである。ダイビングの際にこれら窒素の弊害やその他の弊害(酸素中毒など)を避けるため、潜水理論やその為の機材、そしてなにより特殊な吸気ガスを用いる潜水を混合ガス潜水という。
[編集] ナイトロックス
広義には窒素(Nitrogen)-酸素(Oxygen)の混合気体を指し、潜水における減圧症の発症可能性および窒素酔いの軽減と無減圧限界の延長を目的としている。一般には、酸素濃度を空気よりも高めた窒素-酸素混合気体(Enriched Air Nitrox)を称してナイトロックス(Nitrox)という。酸素濃度が高くすることでメリットを享受できる反面、同時に酸素中毒の危険性も高まるため最大潜水深度における酸素の分圧が一定以下(通常1.4ata、最大1.6ata)になるよう酸素濃度を制限しなければならない。 ナイトロックスは、酸素濃度の限界により水深40m以浅で用いられる混合ガス。 ナイトロックスの表記としては、例えば酸素40%、窒素60%の場合は「ナイトロックス40」「EAN40」と記述される。
レクリェーショナルダイビングにおいてもスペシャルティーダイバーとしてナイトロックスは取り入れられてる為、単一のナイトロックスによる潜水やナイトロックスによる無減圧潜水をテクニカルダイビングと呼ばない傾向にある。
[編集] トライミックス
意味的には三種類の気体の混合ガスをさすが、ダイビングにおいては通常はヘリウム(Helium)-窒素(Nitrogen)-酸素(Oxygen)の混合気体を指す。 酸素中毒の危険性回避を目的としてヘリウムを混入させ空気中に21%含まれる酸素分圧をさらに下げることにより、空気では酸素中毒を起こしてしまう56m以深へのダイビングに用いられる。 レジャーダイビングでは、100mを最大水深とする。 トライミックスの表記としては、例えば酸素10%、ヘリウム50%、窒素40%の場合は「トライミックス10/50」と記述される。
窒素酔いの低減を目的としてヘリウムを混入させたトライミックスは、トリオックスとも呼び40m以深への潜水用呼吸ガスとして用いられる。
[編集] ヘリオックス
ヘリウム(Helium)-酸素(Oxygen)の混合ガスを指す。
- ヘリウムはその分子量が小さく、身体組織への吸収排出が窒素に比べて速いため、ガス中に含まれるヘリウム量に応じた特殊な減圧表が必要とされる。
- 酸素中毒の可能性を考慮して酸素を少なくした酸素/ヘリウムの混合比としている事が多く、浅瀬における酸素欠乏症を防止するためには、低深度用に少なくとももう1種の呼吸ガスを用意する必要がある。
- ヘリウムガスの粘度が空気に比べてはるかに低いため、ヘリオックス中では声帯が高周波で振動してしまい、ヘリオックス呼吸中の声は甲高く聞き取りにくい、いわゆるドナルドダック・ボイスに変化する。
- ヘリウムの熱伝導は空気に比べて高いため、体温が奪われて低体温症になる可能性が高まる。
- ヘリウムが高価である。
- 痙攣を起こす高圧神経症候群を引き起こす可能性がある。(130m以深)
などの理由で、現在のレジャー潜水には用いられない。これらの問題を低減するため、窒素酔いを生じさせない分圧0.25kPa程度以下の範囲でさらに窒素を混合した、いわゆるトライミックスも用いられる。
[編集] 減圧潜水
目的の潜水を終了し浮上する際に、様々な混合ガスや純酸素を用いて減圧を行う潜水を示す。 多くの場合、ナイトロックス(酸素50%以上のものを含む)や純酸素を併用して減圧を行う。
IANTD | PSA | Level | ANDI | TDI | DSAT(PADI) | Level | GUE | PTA |
Deep Diver | GAS | Complete SafeAir User | Advanced EAN Diver | Tec Diver1 | GAS | Technical Diver1 | Decompression | |
Advanced EAN Diver | ||||||||
Dec | Technical SafeAir Diver | Decompression Procedures | Tec Deep Diver | Dec | ||||
Technical Diver | Extended Renge Diver | Extend Renge Diver | Technical Diver2 | |||||
Normoxic Trimix Diver | Trimix | Technical Tri-Mix Diver | Entry Trimix Diver | Tec Trimix Diver | Trimix | Technical Air | ||
Trimix Diver | Intermediate Tri-Mix Diver | Advanced Trimix Diver | Technical Diver3 | Technical Trimix | ||||
Tri-Mix Diver | Extended Technical |
[編集] 特殊器材
テクニカルダイビングにおいて、装備する器材はトラブル時の置き換えや堅牢さなどの安全性とともに効率性が考慮される。
- マニフォルド・ダブルタンクやサイドマウントなど二系統の呼吸源
- バックプレート、ハーネスとブラダによる浮力調整装置(BC)
- キャニスタライトを用いた長時間照明器具、および非常時のバックアップ照明
- リールやスプール、サーフェースマーカー(水上位置表示浮き)、リフトバック
- 幅が広く短いフィン(スクーバプロジェットフィンなど)
これらの器材に、ケイブ、レック、ディープなど環境や目的に合わせて器材コンフィギュレーションを変更して使用する。
[編集] リブリーザー
呼吸排気から二酸化炭素を取り除き、酸素を補って再利用する循環式呼吸装置のことで、よくあるスクーバタンクの代わりになるもの。 閉鎖式(CCR:Closed Circuit Rebreather)と、常時一定量(呼吸によって消費される酸素量の何倍かの酸素を含む)混合気体を供給し、余剰のガスは外部に放出する半閉鎖式(SCR:Semi-Closed Rebreather)がある。詳しくは、ダイビング器材を参照。
[編集] 指導団体
- NACDからアメリカ発祥のテクニカルダイビング指導団体は分かれている。
- NSSはNACDメンバーのサポートによりケイブダイビング部門を設立。
- IANTDはNACDメンバーと共同で設立。
- ANDIはIANTDより独立。
- TDIはIANTDより独立。現在NACDメンバーのサポートを受けてる。
- PSAはNACDメンバーが設立。PSAメンバーはNAUI-TECをサポート。
- GUEはNACDとIANTDメンバーにより設立。
- DSATはNSS-CDSのサポートを受ける。
- SSIはNACDとNSS-CDSメンバーのサポートを受けている。
[編集] 日本国内のテクニカルダイビング事情
[編集] 国内導入
[編集] 国内事情
- 国内支部において、商業的な目的から、本部規準に満たない無資格者に認定を行っていたことが発覚したことがある。詳細
- 日本支部役員が商業目的を理由に高額な講習を受け、インストラクタートレーナーを取得したことが海外で有名になったことがある。
- 日本支部役員が商業目的を理由に、一般インストラクターをインストラクタートレーナーとして認定したことがある。
[編集] テクニカルダイビング関連事故
[編集] 有名な日本人
- 探検家
- 北澤晃男:日本にテクニカルダイビングを導入した人物、NSS-CDS日本事務局長、NACD日本事務局長、初代TDI事務局長、日本人初の洞窟潜水指導員、世界潜水連盟CMAS科学ダイバー
- 神保幹夫:NSS-CDS会員、JCC3会員、NSS-CDSフルケイブダイバー
- 安家洞,氷渡探検洞
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 日本潜水学会
- テクニカルダイビング情報サイト
- TECHダイビング1997年
- 日本ケイブテック倶楽部2002年
- T DIVE.NET2003年
- テクニカルダイビング団体