ザグウェ朝

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ザグウェ朝（Zagwe）

中世エチオピア高地に開かれた王朝、本項で詳述する。
ザグウェ朝の末裔、ギヨルギス2世が1868年－1871年に開いたエチオピアの王朝。

ラリベラのギョルギス聖堂近景

ラリベラのギョルギス聖堂遠景 11の教会群からなる地下寺院である。

ザグウェ朝（Zagwe）とは、1137年もしくは1150年頃～1270年頃にエチオピア中央高地を支配した王朝。世界遺産のラリベラの岩窟教会群を築いた王朝として知られる。初代マララ=テクレ=ハイマノト王がアクスム王デルナードを倒して成立した。ザグウェ朝の支配階層は、ラスタ地方のアガウ族ないしはそれにちかいセム系のアガウ語を話す人々であったろうと考えられている。エチオピアにおけるキリスト教文化を発展させ、エジプトと中東との商業的文化的な交流を活発に行った。ザグウェ朝は、エチオピアの歴史上最初の王朝であって偉大なるソロモンの後継者であるアクスム王朝の簒奪者という汚名を着せられ、当時ならず後世の歴史家からさえも批判されることがある。そのため、ザグウェ朝の君主たちは、自らはモーセの子孫であると主張して、岩窟教会堂などの優れた建築物を建てることによって道徳的にも権威があることをアピールしようとした。

エチオピアの年代記作者たちは、ザグウェ朝は不法な存在であって、イスラエルの王統とは何の関係もないとし、ザグウェ朝時代の岩をくりぬいた建築物は、天使の造ったものだとした。ソロモンの血統でないということで、アクスム時代のようにアレキサンドリアの総主教とのつながりが途絶え、そのため、記録が残らず、ザグウェ朝がどのように力をつけてエチオピアを支配するにいたったのかは、はっきりしないし、最初のザグウェ王が即位するという革命的な出来事を示す物的証拠のようなものもみられない。ただザグウェ朝の興ったラスタ地方は、エチオピアの南北の交易を結びつける好立地にあったこと、それにともなって当然文化的な交流も行われる場所となった。アクスム王国が衰退の一途をたどる間に、とくにザグウェ朝の支配の成立する以前の10世紀後半から12世紀前半の間に起こった著しい社会的政治的変動がラスタ地方の有力者ないしは、有力者に近い血統から選ばれたキリスト教徒の軍事的指導者による著しい勢力拡大に有利に働きザグウェ朝という領域国家を形成させることになったと思われる。

ザグウェ朝の宮廷を構成する多くの成員は、ラスタ地方出身の有力者及び高い聖職者階層であった。軍事的な指導力と経済力は彼らのかかえる臣下たちにも分け与えられていた。ザグウェ朝の拡大は、キリスト教の伝道活動を伴い強力な軍隊が引き上げた後にはキリスト教徒の入植者が住み着いて、支配領域はショア高地までとアクスム王国時代に比べて南側へ拡大した。ザグウェ朝の勢力拡大は、外部の変化と密接なつながりがあった。エジプトにおけるファーティマ朝の成立は、紅海における商業活動を一変させた。エチオピアの高地は交易からの利益で繁栄し始めた。象牙と黄金が重要な交易品であったが、奴隷貿易も行われた。イスラム世界からの織物やさまざまな奢侈品は紅海沿岸のマッサワからムスリム商人によって持ち込まれた。商業活動だけでなくザグウェ朝は、エジプトのコプト教会と強く結びつくようになった。エチオピアとエジプトの強い交易の結びつきにより、エチオピア高地からの巡礼がイスラム王朝の領域を通過してエルサレムへ行くことができるようになった。エチオピア人の巡礼がエルサレムへ行くことによってヨーロッパ人の注目をひきつけ、12世紀ごろから敬虔で豊かなプレスター・ジョンの王国伝説を流布させることになった。

岩窟教会の着想はこのような巡礼の活発化と関連していたのかもしれないが、アクスム時代から岩をくりぬいて教会堂をつくる伝統がないわけではなく、ザグウェ朝時代に築かれた岩窟教会の建築的要素にアクスムから継承したものも見受けられる。しかし、ラリベラに見られる大胆な表現と見事なできばえのものはザグウェ朝ならではのものである。3代目の君主イムルハ王のときに岩窟教会が本格的に造られはじめたと言われているが、なんといっても全盛期の君主であったラリベラ王（位1185～1225）のときの岩窟教会群が特筆すべきであるとされる。ラリベラ王は、1181年に誕生し、そのときには、蜂の群れがびっしりと取り囲んだという伝承があり、王都ロハの住民は、王子が特別な使命を背負っている偉大な人物に違いないと信じるくらいであった。王子の名は「蜂に選ばれた者」と言う意味のラリベラと名づけられた。王がラリベラの岩窟教会群を築く動機となったのは、夢の中で神がロハを第2のエルサレムとするように、その際礼拝堂にする建物は、1個の岩をくりぬいたもので築くように、とのお告げがあったからだと伝えられる。実際には信仰心に篤かったラリベラ王が第2のエルサレムをエチオピアに実現したいという願いを国民に説明するために夢の中の神のお告げを持ち出して、修道院で質素な生活を送りつつ、聖堂建設の工事を監督したようである。王都ロハも王の業績をたたえてラリベラと改名された。岩窟教会のすばらしいできばえは、ザグウェ朝の政治的宗教的な秩序が安定していたことと、ザグウェ朝治下でキリスト教がどれほど大きな精神的支柱であったかを示すものである。ザグウェ朝治下の教会は、異教徒に対してのキリスト教勢力の橋頭堡であり、エチオピアのクリスチャンこそ神に選ばれているという誇りを持っていた。旧約聖書が読まれるに従ってキリスト教王国であるザグウェ朝こそイスラエルの後継者であると考えるようになっていった。

しかし、ザグウェ朝の衰退はまもなく始まった。原因は、交易を支えてきた地域間の結合を維持できなくなったことに加えて王位継承争いが起こってきたことであった。反ザグウェ勢力は、セム語系のテグライ人とアムハラ人であった。アムハラ人とショア高地のキリスト教徒の共同体は深いつながりがあり、ソロモン及びアクスム王家の系譜を引くと名乗るイクノ・アムラクによるショア高地の反乱が1268年ごろから起こり、ラスタとべゲメデルでザグウェ王は敗北し、1270年に殺されてザグウェ朝は滅亡した。ただし、ザグウェ朝が中傷されている時代であってもラリベラ王だけは聖人に列せられたり、岩窟教会の文化や支配体制はイクノ・アムラクの建てたソロモン朝にも受け継がれた。