コンプレックス産業
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コンプレックス産業とは、顧客の外見・内面の問題を解決し、それに対する対価を得る産業である。
以後、本項で「コンプレックス」とした場合は、主に劣等感を意味する和製英語の一種であるが、これらの産業ではしばしば、当人が普段意識していない劣等感を煽ることで市場の拡大を目指す業者も見られ、これら業態では、当人に内在する複合的な人格の構成要素を、劣等感と結びつける事で商業化しているともいえよう。(後述)
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[編集] 概要
これに属する業態・職種は多岐に渡り、また取り扱う商品・サービスも多岐に渡る。これらでは利用者が「人には知られたくない」という強い欲求もあることから、顧客の情報は厳重に管理される事も多いが、その一方で「人の弱みに付け込む」ような悪徳商法も見られる。
「他人より劣っている」「魅力が不足している」といったコンプレックスは、当人には簡単に克服できなかったり、解消できなかったりするものが多い。コンプレックス産業では、このような人の心理的な問題を解決して、当人に自信を持たせる事で対価を得ている。その解消方法も、練習や学習による習得や、物品を使用させる事で欠点を隠したり、または何等かの操作で肉体や行動を矯正したりする。
とはいえ、先に挙げた悪徳商法に類される物では、効果の不確かな物品を売りつけたり、または必ずしも有効ではない方法を提供し、消費者を惑わせるケースも聞かれる。
[編集] コンプレックス要因
現在の日本においてコンプレックスの原因となる外見上の属性としては、主に以下のようなものが挙げられる。先天的なものもあれば、事故・病気などによる後天的なものもある。
外見以外の身体的コンプレックスの原因としては、主に以下のようなものが挙げられる。
他に、コンプレックスの原因として、主に以下のようなものが挙げられる。
上記のようなコンプレックスに対して、対価を得て解決方法を提供するのがコンプレックス産業である。概ね以下のように分類できるであろう。
[編集] 負の側面
これら業態では、様々な面で人の劣等感を解消するサービスを提供している。しかし本来の意味では、全く問題が無いような事柄を、さも劣っているように認識ないし誤認させて、これを市場の、ひいては自らの利益を成長・拡大するために用いているケースも見られる。
たとえば肥満であるが、日本では健康面で悪影響を与えたりするような、いわゆる「医学上の肥満」は2割前後であるが、キリンビールが2006年6月に行った調査では、6~8割前後の日本人は自分を肥満だと考えているなど、実情と感覚の開きがみられる。
これらには、マスメディア上の芸能人に概ねスリム体型が多い事にも絡むが、その一方でダイエット関連の業界では、盛んに肥満に対するネガティブなイメージを発信しており、これはインターネット・Webサイト上の広告バナーですら、水着のシーズンが目前であるからとしてダイエット関連の商品を宣伝する様子も見られ、また太っている事を、笑い者とするような表現も散見される。
実質に於いて肥満は、遺伝性の身体的特徴と、近代以降の先進国では食糧事情が改善した事による文明病とも言えるわけだが、その一方でダイエット関連のコンプレックス産業では、様々なダイエットグッズやサプリメントを発売している。この中には、健康を害するために問題視されるダイエット方法もしばしば出ている。ダイエット関連の問題では、摂食障害を引き起こした人も見られ、極端なケースでは痩せ過ぎることによる健康被害まで報告されている。
似たような問題は男性雑誌などで頻繁に広告に出る包茎のように、実質的に性機能に何ら支障の無い仮性のものにまで「不潔である」や「女性にモテない」と喧伝し、劣等感を抱かせているケースも見られる(ただし女性の中にも、包茎をモテない男性の象徴のように認識している者もおり、事情は複雑である。とくに若い女性が外見の優れない男性を侮蔑する言葉として「包茎」を使用するなどの例もある。)。他方では場所が場所だけに他人に相談できない、まして医者に見せるなんて…という事から、「自宅で矯正できるグッズ」を販売、これを利用した人が使用方法の問題もあり、局所に甚大な傷を負うケースも報告されている。生殖機能に問題が出るのは、1~2%の真性の者のうちの、さらに膨張時に痛みを訴えるような場合や、無理に剥いて元に戻らなくなるようなケースである。これらには健康保険が適用され、治療を受けることができる。逆にいえば保険が利かない自由診療(保険外診療)のこれら施術は、本来は必要ではない。これらは、煽られてコンプレックス産業の餌食になっていると見なす事もできる。
こういった負の側面に対して批判の声もあるものの、具体的な企業名を出すことは訴訟などのリスクがあるため、目立って批判されることは少ない。また新聞、雑誌やテレビなどのマスコミでは、ダイエットや美容整形など様々な広告が出されるため、警察や官庁が介入するような事件がない限りはスポンサーであるコンプレックス産業に対して批判的な報道をすることは難しい状況である。これを一種のメディアコントロール(情報操作)と見る向きもあり、報道の自由・公平性を保つ上での一つの課題と言える。