ゲンセンカン主人
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ゲンセンカン主人は、つげ義春が1968年、『ねじ式』とほぼ同時期に『ガロ』に掲載した短編漫画である。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] 概要
- 夢の世界を描いた『ねじ式』に対して、本作は前世や因果など仏教的なモチーフを前面に押し出した、一種の恐怖漫画であり幻想漫画でもある。また、極めて日本的な物語を描きながら、エドガー・アラン・ポオの影響をも垣間見せる不思議な味わいを持っている。
- 本作の主人公は、つげ義春の自画像に近いリアルな劇画風キャラクターになっている。劇画的なキャラクターを自身のタッチで描くのは馴れていなかったせいか、あるいは意図的なのかは不明だが、主人公のキャラクターはコマによって左右非対称になったり、表情が変わったりと目まぐるしい変化を見せる。しかし、その変化はかえってこの作品のテーマである自己否定の不安感を際立たせる結果となった。この人物造形は以後、『やなぎ屋主人』や『退屈な部屋』など作者をモデルにしたと思われるキャラクターへと受け継がれていき洗練されていったように思われる。
- その後の時代の変化に対応する形で、作品の表現は初出時と微妙に異なっている。特にヒロインの障害を指摘する台詞部分は差別にあたるとして、最近出版された作品集では全面的に書き改められることとなった。
- 『ねじ式』と同じく、この作品も後年数多くの表現者によって引用されパロディが作られるようになった。また、コマいっぱいに台詞を描く手法は、江口寿史や鴨川つばめなどのギャグ漫画家にしばしば引用されている。本作の場合、絵の特異さも勿論だが、台詞の異常さが際立っている。それが後の作家たちに絶大な影響を与えたようである。
[編集] 舞台となった町
- 老婆が駄菓子をしゃぶりオハジキをして遊ぶ、老婆しかいない町は、前年につげ義春が旅をした群馬県の湯宿温泉がモデルになっている。湯宿温泉は上州街道から少し外れたところにある宿場町だが、町の中に源泉かけ流しの共同浴場が複数あるというのが特徴。タイトルの『ゲンセンカン』はおそらく「源泉館」からとっているのだろう。つげはこの旅の時、ひなびた宿場町の風情に孤独の境地を味わい、世捨て人になりたいと強く願ったというが、この時つげが宿泊した旅館も共同浴場もすっかりリニューアルされて、今や往時の面影を求めるのは難しい。ただし石畳の道は今も残っていて、夜更けに人気のない道を靴音を響かせながら歩くと、漫画の世界に迷いこんだような感覚に襲われる。
