アンの娘リラ

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『アンの娘リラ』（原題：Rilla of Ingleside、炉辺荘のリラ）は、カナダの作家ルーシー・M・モンゴメリーが1921年に発表した長編小説。内容的に赤毛のアンシリーズの続編にあたるが、主人公はアンではなくその娘のリラ（マリラ）になっており、正確にはアン・ブックスの一員ではない。日本では村岡花子訳において第10作目に位置づけられている。内容的に前作にあたる虹の谷のアン（Rainbow Valley）においては、アンとギルバートの子供たちそれぞれが各章の主人公であったが、今作ではほぼ視点は末娘のリラからのものとなっている。時代的には第一次世界大戦にあたり、兄や周りの男性たちが戦争へ従軍し、周りの大人たちが戦況に一喜一憂する中で、子供であったリラが次第に成長していく姿を書く。

注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。

[編集] 登場人物

リラ・ブライス（バーサ・マリラ・ブライス）

本編の主人公。当初は14歳の美少女で、本編の最後では18歳。ブライス家の三女にあたる。手足ばかりが長くまだ少女の体型であるため、兄からはクモとからかわれることもある。末娘の常としていつまでたっても子供扱いであるが、本人はそれが不満である。末娘で可愛がられているということもあり、非常に甘えん坊でおっとりした性格。兄や姉のような野望もない。しかし戦時の銃後での経験や、親しい人物の従軍、特に兄の戦死などによって、一人の立派な愛すべき女性として成長する。本名のマリラは、アンを引き取ってくれた今は亡き最愛のマリラからとられている。それをもじって「リラ・マイ・リラ」と特定の人物から呼ばれるのを好む。かつては赤ちゃん言葉がなかなか抜けなかった。

ジェイムズ・マシュウ・ブライス

リラの長兄。本編開始時は21歳。名前は「アンの夢の家」において善き隣人であり「同類」でもあった今は亡きジム船長からとられている。レドモンド大学医科の1年生。ブライス家の長男で次子に当たるが、長子は赤子の時に亡くなっているために、実質的には長子である。戦争勃発のニュースを知り、真っ先に友人たちと志願して戦地へ赴いてしまう。

ウォルター・ブライス

リラの次兄。本編開始時は20歳。レドモンド大学へ行く予定となっているが、同じく志願して戦場へ向かってしまう。母であるアンの文学的な要素を最も受け継いだ子供で、リラにとっては兄妹の中では最も親しい。最も兄弟の仲ではハンサム。腸チフスにかかった経験があり、病弱。詩を書くのが好きで、空想家でもあり、変わり者と思われている。臆病と思われたくなくて戦地へ向かい、塹壕で書いた詩が評判となる。前線では勇敢であった。その後戦死し、リラをはじめ家族に非常な衝撃を与えた。

ダイ・ブライス（ダイアナ・ブライス）

アンの双子（二卵性）の姉妹の一人。赤毛であるため、父親のギルバート医師から溺愛されている。ウォルターと共に大学に行く予定であった。名前はアンの最初にして最高の親友であるダイアナ・ライト（旧姓バーリー）から名づけられている。

ナン・ブライス（アン・ブライス）

アンの双子（二卵性）の姉妹の一人。褐色で、母親のアンにとってはダイよりも見目がよいと考えている。ダイ同様にレドモンド大学に行き、兄のウォルターが体を壊すほど勉強をさせないようにさせるはずだった。

シャーリー・ブライス

リラの1つ上の兄で、当初は16歳。クイーン学院を卒業したばかり。アンが産んだ後に体調がしばらく戻らず、メイドであり家族の一員でもあるスーザンが面倒を見たために、今では彼女の秘蔵っ子となっている。ウォルターの戦死の後、スーザンなどの懇願を聞かず、航空隊へ従軍を志願する。

ブライス医師（ギルバート・ブライス）

ブライス家の家長。思慮深く、よき父である。

アン・ブライス（旧姓シャーリー）

ブライス医師の妻で子供たちの母親。アン・シリーズを通じての主人公であったが、今作品では一人の登場人物にすぎない。当初は49歳。

スーザン

ブライス家のメイドで、家族の一員。オールドミス。シャーリーを溺愛している。

ジムス

戦争孤児。リラが引き取って面倒を見ることになる。最初はやり方もわからずに邪魔に思うが、徐々にリラの成長と共にジムスへの愛情をみせるようになっていった。後に引き取られていく。

ケネス・フォード

ウォルターの友人。快活な性格で、リラをからかっていたが、次第に共に意識するようになる。リラはケネスの前では特に赤ちゃん言葉がでてしまう。戦地へ赴くが、無事に帰ってきて、真っ先にリラの元へ向かう。最終階級は大尉。

ジョリー・メレディス（ジェラルド・メレディス）、 フェイス・メレディス、 カール・メレディス

前作から登場した、隣家の牧師館の子供たち。ブライス家の子供たちとは幼馴染の友人同士。ジョリーはジェムやフェイスと共に大学に在学中。カールはシャーリーとクイーン学院での同級生でもある。ジョリーとカールは共にブライス家の息子たちと志願して戦場へ向かい、共に無事に帰還した。フェイスは19歳で、ジェムやジョリーと共にレドモンド大学へ行っている。ジェムとは好きあっている。

ミス・コーネリア

アンが夢の家に住んでいた時の隣人で、「同類」の友人。同作の最後において、マーシャル・エリオットと結婚したが、マーシャル・エリオットの奥さんとも、いまだにミス・コーネリアとも呼ばれる。

ミス・オリバー（ガートルード・オリバー）

セント・グレン村の学校の教師。28歳。1年間ブライス家に下宿していたが、それを継続することになった。ウォルターを特に気に入っており、文学的才能を認めている。またウォルターとリラからは非常に慕われている。

[編集] あらすじ

前作にあたる虹の谷のアン（Rainbow Valley）から子供たちは大きく成長した。上の子供たちは大学へ通っているが、ブライス家や牧師館の子供たちの中で最も年若であるリラはいつまでたっても子供扱いされ、憤慨していた。リラは姉たちのように社交界に入り、崇拝者を、しかも複数持ってみたかったのだ。リラのお気に入りは兄のウォルターであったが、その友人のケネスは気になる存在であった。リラの初めてのパーティーの日、リラの夢見ている生活が始まろうとしていたその日に第一次世界大戦が勃発し、生活は徐々に変わっていく。次々と兄2人が志願し、ケネスをはじめ周りの男性たちも戦場へ赴く。家族の犬であるマンデーは、ウォルターの出征後は駅でずっと帰りを待っていた。家族での会話も戦争での事が多くなり、リラは夢描いていた青春時代とは違った生活を送らざるをえなくなる。リラは戦争孤児のジムスを育てる事に成り、悪戦苦闘する。一方で休暇で帰ってきたケネスとはロマンスらしきものがあった。ウォルターは戦地で書いた詩が評判となるが、その後戦死してしまい、家族に深い悲しみを与えた。そしてついに最後の兄であるシャーリーまでもが密かに志願を決めており、戦地へ向かってしまった。リラは悲しみの中、ケネスとの交流やジムスの世話などを通じて成長する。やがて戦争が終わり、男たちが帰ってくるなか、ようやくケネスもリラの元へ帰ってきて、「僕のリラ」と呼ぶのであった。

[編集] アン・シリーズ一覧

赤毛のアン（Anne of Green Gables）1908年：11～16歳
アンの青春（Anne of Avonlea）1909年：16～18歳
アンの愛情（Anne of the Island）1915年：18~22歳
アンの幸福（Anne of Windy Willows, Anne of Windy Poplars（米国））1936年：22～25歳
アンの夢の家（Anne's House of Dreams）1917年：25～27歳
炉辺荘のアン（Anne of Ingleside） 1939年：34～40歳
虹の谷のアン（Rainbow Valley）1919年：41歳
アンの娘リラ（Rilla of Ingleside）1921年：49～53歳
アンの友達（Chronicles of Avonlea）1912年
アンをめぐる人々（Further Chronicles of Avonlea）1920年

一般に「赤毛のアン」から「炉辺荘のアン」までがアン・ブックスとされている。「虹の谷のアン」及び「アンの娘リラ」はアンの子供たちが主人公となっており、アンは母親としての部分的な登場しかなく、主人公ではない。また、「アンの友達」及び「アンをめぐる人々」は、同じくアヴォンリーを舞台にしているが、他の作品との関連はほとんど無いか、全く無い短編集である。なお、日本で最も一般的な村岡花子訳では、1,2,3,9,4,5,6,10,7,8の順番で並べられており、アン・シリーズの一環とされているが、作者によるあとがきででその旨は明記されている。時系列的には、1→8の順番である。